173話 推薦入試

 推薦入試の面接を翌日に控えた私は、就寝前にベッドに寝転がりながら光流とメッセージのやりとりをしていた。


『ルーシー、明日頑張ってね』


 そんな簡単なメッセージではあったが、そこに一枚の写真が添付された。


「ふふふっ。なにこれ〜っ」


 添付されていた写真。

 それは、光流、しずは、千彩都ちゃん三人の写真だった。


 教室と思われる場所で撮影された自撮り写真。光流はあまり自撮りがうまくないのか、少し画角が変だけど、スマホを持っているであろう光流の後ろにしずはと千彩都ちゃんがいる。


 その中でもおかしかったのは、しずはだった。

 なぜなら、おそらく私に向かってしているであろうポーズ。

 舌を出して左目を指で押さえて下げていた。所謂あっかんべーという最近ではあまり聞かなくなったポーズである。


「こんなふうにしてる顔でも可愛いなぁ」


 なぜかわからないが、私はしずはのことを大好きになっていた。


 彼女の顔を見ると、愛おしいというかなんでも可愛く見えてしまう。

 もし、光流がいなかったとしたら仲良くなれただろうか。――いや、光流がいたからこそ出会えた女の子だ。いなかったなら、なんて考えること自体申し訳ない。


 私はひとまず『やる気が出た。ありがとう』と返事を返した。


 そして、その後にスマホを操作しカメラを起動させた。


 ベッドの上で女の子座りの状態でスマホを軽く持ち上げた。

 その状態で舌を出し右手で右目を下に引っ張った状態で自撮りの写真を撮影した。


 撮った写真を光流に送信し、しずはに見せておいてとメッセージを添えた。


「…………ちょっと待って。私すっぴんじゃん!? ……あ、既読ついちゃった。もう〜私何してんの〜。しずはのせいだ〜」


 今は就寝前。お風呂にも入っているので完全なすっぴん。

 服装もラフだし家の中は温かいので少し薄着だ。


「あれ……私このパジャマ姿で大丈夫なのかな……」


 急に恥ずかしくなってきた。

 しずはに対して送ったとはいえ、光流にこんな姿を見せるのって初めてだし。

 私何してるんだろう。これじゃあ誘ってるみたいじゃない……。


「う〜〜〜〜」


 自分の顔が赤くなっていくのを感じる。


「でも、少しだけ緊張がほぐれたかも」


 これもしずはのお陰だろうか。


 同じ人を好きになってしまったライバルの関係。

 なのに、少しだけ仲良くなってしまった。本当に不思議な関係だ。


 一緒の高校に行けたら、光流もそうだし彼女との関係も深まるだろうか。

 そんな未来を想像しながら、私はスマホを閉じて眠ろうとした。


 しかしあることに気づいた。


「…………」


 スマホの写真を凝視する。


「光流、制服じゃんっ!!」


 しずはの変顔に目が行き過ぎて、今になって気付いた。


 文化祭のDVDを見せてもらった時にも光流の制服姿を見はしたが、改めてじっくり見るのがこれが初めて。

 あのDVDは舞台全体を映すためにカメラが少し離れていたので、はっきりとは見えなかった。


 でも、今回送ってくれた写真は、高画質で光流の制服姿を確認できた。


 日本に帰っている間、光流はずっと私服だった。

 もしかしてクローゼットに制服が仕舞ってあったのだろうか。


 着てもらえば良かった……なんて思うが後の祭りだ。

 なら、お互いに受験が終わったら着て見せてってお願いしてみようかな。


 それにしても、


「似合うなぁ……」


 もし一緒の学校に行けていれば、制服デートとかもできたのだろうか。


 しずはや他の女の子たちは、いつも制服姿の光流を見てきたんだろう。

 とても羨ましい。


 私は小学校から今までずっと私服の学校だった。だから制服にはすごい憧れがある。

 でも、同じ高校に行くことができれば、お互いに制服で会うことができる。


「楽しみだな……」


 私は今度こそスマホを閉じた。


 リモコンで電気を消すと、視界がほぼ真っ暗になる。

 窓のカーテンから少しだけ漏れてくる夜のサンフランシスコの光。


 頑張るぞ……っ。


 私は心の中で一人意気込んで、眠りについた。




 ◇ ◇ ◇




「ねぇ、明日ルーシーが先に入試だから応援してあげたいんだけど、なんか良い案ないかな?」


 いつも通りの教室で、俺はしずはと千彩都に話しかけていた。


「あんた……それ私に聞くぅ……?」


 眉を寄せながら俺を睨みつけるしずは。

 確かに彼女の言う通りだけど、今はそれも許されるような気がしている。


「いいじゃんいいじゃん。応援してあげようよ!」


 千彩都は乗り気だった。

 「バカ言わないで」と千彩都に対してしずはが噛みつくものの、千彩都は一人で何か案はないかと考えはじめた。


「写真! 写真送ろうよ!」

「あ、いいかも」


 ルーシーとは最近までもたまにやりとりをしていたが、出会った日に一緒に撮った写真以来、写真を送ったりはしていなかった。


 俺もルーシーに写真を送ってもらったら嬉しいだろうし、彼女も同じ気持ちなら俺の写真を送るのも嬉しいかもしれない。


「じゃあ三人で撮ろ〜っ!」

「あ、三人でか」

「はぁ? 光流のだけ送ってもつまんないでしょ! 私たちだって応援してるんだし」

「いや、私は応援してないんだけど……」

「お守り渡したやつが何言ってんの?」


 千彩都の的確なツッコミもありつつ、結局俺たちは三人で写真を撮ることになった。

 ちなみにしずはのお守り件は千彩都に共有してある。

 必死になって空港まで追いかけてきて、ルーシーが手荷物検査を潜るギリギリでお守りを渡したことだ。


 授業が始まる前のホームルーム。

 俺は慣れない手つきでスマホを上に掲げる。


「光流……下手くそすぎでしょ」


 千彩都に文句を言われる。


 とりあえず一枚撮影してみたのだが、手ブレがひどかった。

 俺にはスマホを持ちあげてキープし、そのまま撮影ボタンを押す動作は難しいようだった。


「タイマーにしてみたら?」


 千彩都の提案。確かにそれならスマホを持ってキープするだけの動作なので、先ほどよりは簡単そうだった。


 五秒のタイマーを設定し、再びスマホを上に掲げた。


「じゃあ行くよー」


 俺は撮影ボタンを押して、そのまま五秒キープ。


 三人がそれぞれピースや笑顔を作って残り一秒。


 そんな時だった。


 突如しずはが舌を出して指で目の下を引っ張ったのだ。


『カシャっ』


 そのまま撮影が完了してしまった。


「しずは……」

「なによ? いーじゃないっ」


 ツンとしたしずはの態度。

 俺はたった今撮影した写真をフォルダから開いてみる。


「あははっ。案外良いんじゃない? ルーシーちゃんこの方が喜ぶかもよ? あの子ってそんな感じのタイプだったじゃん」

「そうなのかな……?」

「良いからそれ送りなさいよ」


 千彩都としずはがそう言うので、俺はその日の夜にこの写真を送ることにした。




 ◇ ◇ ◇




 三人で撮った写真を送ると、ルーシーから返事がきた。


 千彩都の言う通り喜んでくれたようで良かった。

 ただ、お返しとしてなのか一つの写真が送られてきた。


「〜〜〜〜っ!?」


 しずはと同じようなポーズをしていたのだが、その場所と服装がまずかった。


 確か真空もアメリカのルーシーの部屋は可愛いと言っていた。

 その通りでベッドだけでも女の子らしいふんわりとした毛布やクッション、ぬいぐるみなどがあり、色合いも白や臼ピンクがメインでなんだか見ているだけで良い匂いがした。


 そして服装。冬なのに家の中が温かいのか、かなり薄着だった。

 しずはの姉の夕花里さんのように薄着だ。


 胸元がゆるゆるのトップスに下はホットパンツで白く柔らかそうな太ももが露出していた。


「いや……これ、良いのか?」


 しかもこの写真をしずはに見せてとメッセージが添えられている。


 この写真を見せたら、俺が変態って言われそうな気がするんだけど。

 でも、ルーシーに言われてるし……。


 とりあえず、消されても良いように速攻で写真をダウンロードしておいた。



 その夜、なかなか寝付けなかった。

 

 俺は健全すぎる男子中学生だ。思春期真っ只中だ。

 心臓の鼓動はずっと早いまま、大事な部分が熱くなりしばらく収まらなかった。




 ◇ ◇ ◇




 翌日。学校の教室に入ると、先にきていた千彩都に「目のクマがすごいよ?」なんて言われた。


 それもそうだ。あんな写真見せられたら寝られるわけがない。


 しずはが来る前に千彩都にこの写真を見せようかとも思ったが、ぎゃーぎゃー言われるのは同時が良いと思い、しずはが来るのを待つことにした。


「あ、しーちゃん来た」


 いつも通りに男子の視線を集めながら教室へ入場するしずは。

 しかし、今日はどこか髪型が違った。


 いつも以上に男子の視線を集め、さらに女子からの視線も一斉に集めていた。


「二人ともおはよう」

「おはよう。……髪型変えると印象変わるね」


 そう、今日の彼女は二つのヘアピンをして、前髪を少し分けていた。

 まるで俺の姉のようだった。


「さすがは光流。そういうのに気づくようになったら、いよいよ冬矢みたいになっちゃうね」

「それ、褒め言葉なの……?」


 冬矢は俺以上に女の子の変化によく気づく。

 深月の持っているアイテムから好きなものをリサーチしたり、そういった部分に抜け目がない。


「灯莉さんの髪型、前から気になってたんだよね。カフェに一緒に行った時にもヘアピンしてたでしょ? こういうアイテム一つで印象変えられるじゃん。だから、ちょっと試してみたくて」


 そうか、やっぱり姉を参考にしたんだな。

 姉は高校三年生。中学生の彼女たちよりもお洒落が進んでいると思われる。


「ちょっと待って、カフェって何? あんたたち二人でカフェに行ったわけ?」


 ヘアピンの話をしていたのに、千彩都に別のところを突っ込まれる。


「それはルーシーがしずはに初詣来て欲しいって話をするためであって……」

「ふーん。私はデートだと思ってたけど」

「バカっ! 声デカいって!」


 しずはから『デート』という聞き捨てらならい言葉が出たことで、クラスメイト全員から視線を集めてしまう。


 もう少しで卒業だからって、辞めてくれよ。

 ただでさえ、しずはと仲良くしてるだけで白い目で見られているというのに……。


「あれはデートじゃない。話聞くだけだったじゃん」

「何言ってるの? あのあと一緒にお買い物行ったりしたじゃん。男女二人きりでの行動……デートじゃん」

「わ〜光流……。もう浮気かぁ? ルーシーちゃんに言いつけてやろ〜」

「マジで歪曲しないでくれるっ!?」


 そんなことを今日は話したいわけじゃなかったのに、どんどん泥沼にハマっていくような感覚に陥っていた。

 相手が女子二人という勝ち目が薄い状況。まぁいつもこんな感じなのだが……。


 ここに冬矢がいれば、変わるだろうか。いや、あいつは面白がって俺の味方はしないだろう。

 やっぱり鞠也ちゃんか? あの子なら絶対俺の味方をしてくれる……たぶん。



 しばらくデート論争が続いたあと、やっと本題に移った。



「ルーシーからしずはにお返しの写真きてるよ……はい」



 俺はスマホを開いて、当該の写真を二人に見せた。

 正直、教室で見せるようなものではないような気がするけど。



「はぁっ!?」

「ちょっ! 光流!?」


 予想通りの反応だった。


 ルーシーのしずはに対する煽りとも言えるお返しのあっかんべー。

 しかし、二人はそんなところを気にもとめなかった。


「十八禁!? いや、ギリギリ十五禁か!? 私たち十五歳だから見て良いんだよね!?」


 千彩都は少しおかしくなり、エロに対する規制について語りだした。

 一方のしずはは頭を抱えていた。


「この子……やっぱりおかしい。ネジが外れてる」

「あはは……多分ルーシーも送ったあとに恥ずかしがってると思う」


 こんな無防備過ぎる写真。撮った瞬間は多分なんとも思わなかっただろう。

 でも、いざ冷静になってみると、かなりやばい。やばいというかエロい。


 俺相手だから安心しているのかもしれないが、こんなのホイホイ送るものではない。


 これ以上は俺も恥ずかしくなってきた。

 だからスマホを手前に引いて制服のポケットに仕舞おうとしたのだが――、


「――ちょっと待って! まだ見る!」


 千彩都が食いつくようにしてスマホを押さえて離さない。


「千彩都、離して……よっ!」


 千彩都の力が強い。なぜこういう時だけ馬鹿力を発揮するのか。


「いでっ!?」


 すると、しずはに手の甲をチョップされる。


「もっと私にも見せなさい」


 俺のスマホが奪われた。

 そのまま二人が画面を凝視する。


「うわぁ……見れば見るほどエロいわね……」

「白いとは思ってたけど、やっぱり腕も脚も白いね……」


 エロと美容。この二つはジャンルとして通じているのかもしれない。


「しーちゃん。これ絶対良いボディクリーム使ってるよね?」

「だろうね。何もしてないわけがない」

「見てるだけで良い香りがしてくるもん」

「あとさ、これすっぴんだよね?」

「綺麗過ぎてため息出るね……」

「……それに結構胸もデカい」

「しーちゃんと良い勝負かもね」

「私だってまだこれから伸びるはず」

「それならルーシーちゃんだって伸び代あるでしょ」


 えーと、お二人さん。その会話、俺が聞いてもいいやつ?

 最初は美容の話だったのに、途中から胸の大きさの話になっている。

 どう考えても俺の前で話していい内容じゃないだろ。


「ねぇ光流!」

「はいっ!?」


 すると突然千彩都が俺の目を真っ直ぐに見てきた。


「ルーシーちゃんの連絡先教えなさいよ」

「ええっ!?」


 まさかの申し出だった。

 ただ、千彩都の目は本気だった。


「ちょっと色々聞きたいことがあるから。グループ作って聞く」

「誰とのグループなんだよ」

「私としーちゃんとルーシーと真空ちゃん」

「真空も!?」

「あの子もすごい可愛いかったじゃん。可愛い子はみんな美容頑張ってるの」

「へ、へぇ〜」

「で!? ルーシーちゃんに聞いてくれるの!?」

「わ、わかったって。でもルーシーも入試だし、俺たちももうすぐ受験。全部終わったらね」

「よしっ」


 千彩都は右手をぎゅっと握りしめ、今までに見たことのないようなガッツポーズをした。


 この件は、後日ルーシーに聞いておかないとな。


 とりあえず今日はルーシーの面接の日。

 どんな感じだったか、終わったら聞こう。




 ◇ ◇ ◇




 今、私は深く椅子に座り、テーブルの上で開いたノートパソコンの画面を見つめていた。


 上下黒のスーツ姿。

 アメリカではなかなかこんな機会はないが、日本ではこのように正装はスーツのことが多いそうだ。

 私の中学は私服なので制服はない。通常は中学の時の制服を着て受験に望むことが多いと思うが、選択肢としてはスーツを着るしかなかったのだ。



 リビングには私しかいない。

 両親やお手伝いの牧野さんも別室におり、物音を立てないようにしてくれている。


 刻々と面接時間が迫る。


 私は深く深呼吸をし、スーツの胸ポケットに入れた二つのお守りに軽く触れる。


 一つは光流と冬矢くんからもらった交通安全のお守り。面接の時に必要なわけではないが、あるだけで力をもらえる気がする。

 そしてもう一つはしずはからもらった学業成就のお守り。今回はこのお守りに一番力をもらえるような気がしている。


「絶対受かる……!」


 そう、静かにつぶやくと、予定した時間がやってきた。



 すると画面がパッと明るくなり、秋皇学園の教師たちと思われる四人の人物の映像が映し出された。



「こんにちは。宝条・ルーシー・凛奈さん」

「こんにちは」


 私は画面越しに深く頭を下げた。


 優しそうな声だった。

 その人物は四人の中でも一番老齢の人物。校長先生だと思われた。


「この度は我が校を受験していただき誠にありがとうございます。早速ですが、今回は帰国子女枠での受験ということですが、緊張なさらず自然に受け答えしていただければと思います」

「はい」


 そう言われ、少しだけ肩の力が抜けた。

 噂通りの学校のようだ。この校長がいるから校風も自由だと言われているのだろう。


「では、最初の質問から。我が校を受験した理由を聞かせていただけますか?」


 ここからが、私が話す順番だ。

 心の中で一呼吸し、気合いを入れる。


 そして、私は何度も練習してきた内容をアドリブを交えて話しだした。



「はい。私が秋皇学園高校を受験した理由は――」




 …………




「ぷは〜〜〜〜っ」



 面接が終わり、私は両親の目の前でコップの中に入った水を一気飲みしていた。



「ルーシー。お疲れ様」

「良かったぞ」



 父は私の面接に聞き耳を立てていたようだった。


 スーツのジャケット脱ぎ、今は白シャツ姿。

 両親にねぎらいの言葉をもらい、私はテーブルの前で脱力していた。



「うん。一度きりの場ってすごく緊張するね」



 こういう機会は初めてだった。

 いや、小学校の時にも学芸会で似たようなことはあったか。でもあれは複数人での劇だ。


『アリババと四十人の盗賊』。


 あの時の私は棒立ちするだけの木の役目。お面もしていたし動かずにいるだけの簡単な役。

 いじめっ子の男子や女子がメインの役をしていて、私は無心で時が過ぎ去るのを待った。


 ただ、一つの救いはロバの役目ではなかったこと。

 ロバにされていた男子はアリババ役のいじめっこ男子にムチでお尻を叩かれていた。あの動作もあの子のアドリブだったんだろうけど。


 ともかくこういう緊張するような舞台は私はあまり経験がなかった。

 それを考えると、光流たちが数百人もの人の目の前で演奏できて歌えていたことがとてもすごく思えた。


 

「ルーシーもこれから慣れていくわよ。経験が全てなんだから」

「はじめは誰しも失敗するものだ」

「うん……バンドするならいつかは歌うんだもんね」



 収録は何度でも歌い直せた。

 でも、ライブは本番一回きり。やり直しはきかない。



「それこそ光流くんにコツでも聞けばいいじゃない? 文化祭でバンドしたんでしょ?」

「うん。でも光流もリハーサルで歌えなかったんだって。でも友達のお陰で歌えるようになったって言ってた」

「ならルーシーも同じね。お友達に助けてもらいなさい?」

「うん……そうだね!」



 母はいつも私に道を示してくれる。

 美人で聡明で、優しくて強い。



「それはそうと、初詣の時に光流くんの友達とも仲良くなったのか?」

「あ、そういえば話してなかったね」

「空港にもわざわざ見送りに来ていたくらいだ」

「あ〜。実はあの子、光流のことが好きな子なんだよね……あはは」

「そう、だったのか……」


 父とそんな会話を交したが、しずはが光流のことを好きなことを話した瞬間、父がなんともいえない表情になった。

 父は恋愛話に疎い。いつもこういう話をすると、最後には口ごもってしまう。


「でも、ルーシーと仲が悪そうに見えなかったわよ?」

「そうなんだよね。なんか、あの日に少し口喧嘩みたいになったんだけど、逆にそれで吹っ切れたみたいで……友達だとは思ってくれてないけど、多分仲良くはしてくれてる」

「不思議な関係があるものね。でもライバルなんでしょ?」

「うん。しずはのことも好きだけど、私、負けない」

「じゃああっちに戻ったらそのしずはちゃんて子もうちに連れてきなさい?」

「えっ?」


 まさかの話だった。

 同じ人を好きという内容に、そのライバルを家に連れてこいだなんて。何をする気なの?


「ふふ。何もしないわ。光流くんが関わってるんだもの。その子も良い子なんでしょう?」

「うん。すっごく良い子。自信持って言える」

「なら、光流くんのことは置いておいて、仲良くできるでしょう。真空ちゃんと一緒だわ」

「変なことしないなら……いいよ」

「しないわよ……あと、名字が藤間って言うんでしょう? どこかで聞き覚えがある名前なのよね……」

「そうなんだ。じゃあ、もし連れていける時がきたらまた言うね」

「楽しみにしてるわ」


 母が気になる藤間の名前。少し気にはなったけど、しずはちゃんと母に繋がりがあるわけもないし。

 最近もほとんどアメリカにいたし、日本の人とは関わりが薄かったはずだ。



 面接も終わったし、とりあえず光流にメッセージをしよう。

 今度は私が光流たちを応援する番だ。


 前に恥ずかしい写真を送ってしまったけど、今度は真空と一緒に応援しよう。


 そう言えば、真空もうまくいったかな……。

 光流にメッセージする前に真空に電話してみることにした。







 ―▽―▽―▽―


この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!


もしよければ、今後も執筆を頑張っていきますので、ぜひトップの★評価やブクマ登録などの応援をよろしくお願いいたします!

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