131話 お疲れ様会
「「「――かんっぱ〜〜〜いっ!!!」」」
ジュースやウーロン茶が入ったジョッキを持ち上げ、それを軽くぶつけて乾杯をした。
俺たちは予定していた通り焼肉屋に集まりお疲れ様会を開いていた。
全員で乾杯をしてからというもの、食欲旺盛な学生たちは一心不乱に肉を七輪に投入していく。
今日お疲れ様会に集まったメンバーは俺、冬矢、しずは、陸、深月、千彩都、開渡、鞠也ちゃん、奏ちゃん、理沙、朱利、理帆、山崎さん――そしてなんと文化祭実行委員の志波愛海さんも参加していた。
志波さんに関しては俺たちの四曲目というワガママや特別に二度目のリハーサルを手配してくれたりと、かなりお世話になったので俺が皆に聞いて呼んだのだ。
実際、四曲目が終わった時には終了時間が五分もオーバーしていた。
しかし志波さんは怒ったりすることはなかった。
「私なんかがここにいて良いのでしょうか……?」
「いいよいいよ。志波さんには凄いお世話になったからね」
ちなみに誘ったのは俺なので、志波さんの分は俺が払おうとは思っている。
「まなちゃんガンガン食べなよ〜っ!」
「鞠也ちゃん……」
「あれ? 二人知り合いなの?」
お互いに名前で呼び合う関係らしい。
「そうだよ! まなちゃんは同じクラスだもん。成績も良くて凄いんだよ。私はまなちゃんがクラス委員長でも良かったと思うんだけどな〜」
「私にはそんな責任負う立場は無理だよぉ。文化祭実行委員くらいがちょうど良いのっ」
敬語ではない志波さんを見るのは新鮮だ。
同級生と会話している志波さんは、どこかリラックスしている。
「そっかそっか。なら俺と鞠也ちゃんが従姉妹って知ってた?」
「あ、はい。一応知ってました。鞠也ちゃんってクラスで凄い九藤先輩の話するんですよ?」
「えっ?」
「ちょっと、まなちゃんそれ内緒だよ〜っ」
従姉妹の関係を話すのはまだわかるが、他にも何か話しているのか?
ってことは、鞠也ちゃんのクラスは俺のことを大体知ってるわけか。
「ふふ。私のお兄ちゃんがバンドするから絶対見に行けって言ってたしね」
「ちょっ、ばかぁ!」
「鞠也ちゃんって結構ブラコンだよね」
「奏ちゃんっ!?」
鞠也ちゃんが焦っている姿は珍しい。
いつもは奏ちゃんと一緒にいるところしか見ていないけど、もしかしてクラスでは意外といじられキャラなのだろうか。
「もう、手が止まってるよ! 私のことは良いから肉食べなさいっ!」
鞠也ちゃんは少し顔を赤くしながら次々と肉を焼いていく。
しかし乗せたばかりの肉は焼けるのに少し時間がかかる。「ぐぬぬぬぬ……」と言いながら七輪を見つめる鞠也ちゃんはとても可愛かった。
「――ちょっとあんた! それ私が育ててた肉!」
すると横から深月の声がした。
「今日は私のための日なの! どれだけこの焼き肉を待ち望んでいたことか……」
「だからって人の肉までとることないじゃないっ!」
しずはが深月が焼いていた肉を奪って食べたようだった。
食べ放題なんだから落ち着けよ。
「てかさ……光流が食べてるそれ、何?」
テーブルの向かいに座っていた理沙が聞いてくる。
「あぁ、これシロコロだよ。知らない? ホルモン」
「ホルモンって……オヤジ舌かよ」
俺がそう言うと理沙の隣にいた朱利がなぜかディスってくる。
「なんだよ。学生らしくないって? 内臓嫌いのお子ちゃまに言われてもな〜」
「言わせておけば……っ」
先にディスってきたのはそっちだろ。
だから煽り返してやった。
「光流くん、なんでいきなりホルモン頼んだの? 他にもカルビとか色々美味しいのあるのに」
朱利の隣にいた理帆が聞いてくる。
「昔、家族と焼き肉行った時に父さんがこればっか頼んでて。お酒と一緒なら永遠に食えるって言っててさ。それで食べてみたら美味しくて」
「そうなんだ。でもホルモンって全然噛み切れないよね?」
確かにホルモンはなかなか噛み切れない。
けど、俺は噛み切るものだとは思っておらず、ある程度咀嚼したらそのままご飯と一緒に飲み込む。それで十分に美味い。
「あぁ、この噛み切れないブヨブヨした食感とかで嫌いな人も多いみたいだね」
「私もその食感苦手かも……」
俺も一番最初はそうだった。でも食べているうちに慣れてしまって、今では焼き肉の中で一番好きな部位だ。
「ふふふ。君たちは知らないようだけどね。実はホルモンは炭水化物と糖質がほぼなくてタンパク質が多い。太りにくい部位だしコラーゲンも多いから肌にも良いんだよ? あ、理沙が食べてるそのカルビ、高カロリーだけど大丈夫?」
筋肉を増やすために食べ物については色々調べた。
なので、多少なり食べるものにも気をつけているつもりだ。母にもタンパク質が多い料理を作ってもらっている。スポーツ選手でもないのにな。
「ええっ、なにそれ! なら私もホルモン食べるっ! 肌綺麗になるんでしょ? 朱利にこのカルビあげるっ」
「はぁ!? バカっ! 私を太らせる気か!」
「はい、ならこの美味しいホルモンあげるよ」
俺は焼かれたホルモンをトングで取り、理沙と朱利のお皿に置いた。
すると二人はパクっとそれを口に入れる。
「んん〜中々噛み切れないけど……味は結構美味しいかも」
「だね。なんか食感が気になるけど、コラーゲンを食べてると思えば……」
少し無理はしてるようだけど、食べれないことはないらしい。
「あ、でもホルモンって味付け濃くしてることも多いんだ。それで高カロリーになるから気をつけてね」
「「食べる前に言えっ!!」」
「あはは、大丈夫だよ。普通に他の部位食べてる方が高カロリーだから」
「なんか今日の光流いじわる〜〜〜っ」
確かにそうかもしれない。今日はこんなに大勢の友達と一緒に食事をしている。
それが楽しくてなのか、いつもより饒舌になっているかもしれない。
あとは、文化祭のライブが終わったという緊張感からの解放もあるだろう。
「――冬矢は牛タンばっかだね」
冬矢の前の七輪を見ると、牛タンしか乗っていなかった。
「あぁ、俺は牛タンが好きなんだ」
「一番最初に食べるやつじゃん。そろそろ他の食べれば?」
「ホルモン野郎に言われたくねぇ」
牛タン野郎にそう言われたが、確かにそうだ。
「ふんっ。薄っぺらいあんたにお似合いの肉ねっ」
「あん? なんだよ深月。牛タンに文句あんのか?」
「うるさいわねっ」
深月が冬矢を煽ったかと思えば、七輪の上にあった牛タンを根こそぎ取って自分の皿の上に置いた。
「お前、それ俺の牛タンっ!」
「あんたはこれでも食べておきなさい」
すると冬矢の皿の上に乗せたのは、焼きすぎて黒焦げになってしまった炭カボチャだった。
「はぁ!? お前俺に焦げたやつ食えってのか?」
「サッカー辞めて色白になってきたあんたにちょうど良いじゃない。焦げでも食べてまた元の色取り戻しなさいよ」
「てめぇ〜っ」
「ふふふふっ」
いや、こいつら面白すぎだろ。二人のやり取りに笑ってしまった。
深月もよくそんな面白い言い回しができるな。
「光流〜! お前も笑ってないで焦げた野菜食いやがれっ!!」
「ちょっ!? 勝手に乗せるなっ!」
笑っていたら焼けすぎた黒焦げ玉ねぎが俺の皿に乗せられた。
「……こっちは平和だね」
「だね、蓮ちゃん」
陸と山崎さんだけは平和に焼き肉を食べていた。
横長のテーブルの向かいには千彩都と開渡がいるので、肉を巡っての争いは起きなかったようだ。というか今気付いたがそのテーブル卓は完全にカップル同士の席となっていた。
…………
しばらく焼き肉を堪能したあと、今日は冬矢に聞きたいことがあったので聞くことにした。
「――冬矢。そう言えば二年の子に音源とかDVDほしいって言われたんだけど、どうすれば良いかな?」
あの子たちの希望をできれば叶えてあげたいが、これには皆の協力も必要だ。
「あぁ、それなら俺も昨日教室に戻った時にクラスメイトから同じようなこと言われたぜ」
そうだったのか。同級生でもほしいと思う人がいるのか。
「そっか。でも音源って言っても遠くから撮影したビデオだから音が反響したり歓声が入ったりで、配るようなものじゃないと思ってるんだよね」
「それは俺も同じだ。DVDは焼けばいいだけだが、音源ってのはな。動画の音声だけ抜いてもいいけどさ……」
冬矢も解決策は思い浮かんでいないようだった。
なら、聴こえにくいかもしれないけど、やはり音声だけを抜いたものを作るしかないだろうか。
「なによ。そんなの収録すれば良いじゃない」
「――え?」
すると、肉に集中していたはずのしずはが一言呟いた。
「言ってなかったけど、うちの地下に収録スタジオあるよ。お父さん作曲とかもしてたから」
「まじかよ……」
「だから余計な音入れずに収録できるしトラックごとに四曲作れると思うよ」
何度も通った家だったが、地下の存在は初めて知った。
まさか透柳さん、そんなことまでしてたなんて。
「……しずはのお父さんってもしかして凄い人?」
しずはの家のことを全く知らない理沙が疑問を投げかける。
「さぁ? 私にとってはただの親父なだけだし」
「地下にスタジオある時点で普通じゃないんだけど……」
「今思えば、しずはだけ演奏のレベル突き抜けてたね」
説明する気はないらしかった。
理沙も朱利も演奏を聴いてしずはの凄さは多少なり実感していたようだった。
「冬矢、陸……どうする?」
再度演奏するとなれば、また楽器に触れる必要が出てくる。
特に陸なんて、これで終わりなはずだったが。
「俺はもちろん良いぜ」
「俺だってOKだ。ちゃんとした音源になるならそれはそれで思い出になるしな」
「良かった」
多分、演奏はしなくても打ち込みで作った音で俺が歌えばそれで完成はするだろう。
でもそれは俺たちのバンドではない。
俺たちのバンドの楽曲にするなら、自分たちで演奏した音を収録するのが必須だ。
「じゃあ、しずはの家のスタジオ使ってもいい?」
「もちろん。お父さんに言っておくね。今度どこかで時間合わせて収録しよう」
決まった。
冬矢以外は解散となったバンドだったが、もう一度四人で集まることができる。
なんだか嬉しい。
「凄い話になってるね。収録とか……」
「でしょ〜。ひかるはこうでなくちゃ」
目の前で展開される話に志波さんが驚きを見せる。
鞠也ちゃんは満足げな表情だ。
「あっ、九藤先輩。私もその、音源とかもらっても良いでしょうか?」
そんな志波さんも音源とDVDがほしいようだった。
「もちろん。ほしい人には配るつもりだよ」
ただここで懸念点があった。
「光流。でもよ、DVD焼くならDVDの購入費用があるだろ? ちゃんと金徴収しないと俺たちだけ負担になるぞ」
冬矢の言う通りだ。
「あと校内で金銭の授受をするって絶対だめだよね」
「ならDVDの焼き増し代ってことにしたら良いんじゃない?」
俺が懸念点を出すと、しずはが代案を出してくれる。
「そうだね。なら学校始まったら先生に聞いてみるよ」
そしてスマホでDVDの値段を調べてみた。
とあるメーカーのDVDなら五十枚入りで千円ちょっと。一枚に換算すると二十五円ほどらしい。CDもほぼ同じ。なら合わせて五十円ほどもらえば良いかもしれない。
「多分一人あたり五十円もらえれば大丈夫なはず」
「そうか。ならとりあえず五十円にしておくか。……でも五十円って持ってるやつって少ないよな。百円の方が払いやすいかもな。いちいちお釣りなんて用意するのめんどいし」
「あ〜、それもそうかも。なら、CDとDVD合わせて百円で先生に交渉してみる」
お金については一旦これで問題なさそうだ。
「てか、今なら動画サイトにアップとか、MP3のデータで配るとかもできるよね」
「それもそうだな。ならわざわざ作らなくても……」
「――いえっ! 手元にあるから良いんだと思います!」
一瞬CDやDVDじゃなくても良いかもという結論になりかけていたのだが、そこで志波さんが声を上げた。
「だって、学校の卒業アルバムだってちゃんと手元にあるから特別感がありますよね。今回のもそうだと思うんです。CDやDVDという物があるから大事にできるというか。今の時代、大体の人が家にパソコンがあると思います。それにCDを取り込めば、データ化してスマホにも送れると思いますし一石二鳥です!」
志波さんのCDとDVD推し。
熱意は伝わった。
「あと……ケースとかCD本体にサイン欲しい人もいるかもですし……」
思いも寄らない話だった。
いや、プロのミュージシャンでもあるまいし……。
「――!! しずは先輩! 私先輩のサインほしいですっ!!」
すると、それを聞いた奏ちゃんがバタンと机を両手で叩いて立ち上がり、しずはにサインを求めた。
「もちろん良いよ」
「やったぁ!」
そして、それは奏ちゃんだけではなく――、
「ひかる! 私もひかるのサイン欲しい!」
「ええ!? 鞠也ちゃんも!?」
まさかここまで需要があるとは。
しかし、そこで終わる話ではなかった。
「なら私も欲しい!」
「私も私も!」
「あ、私もりっくんのサインほしいかも」
理沙や朱利、さらには山崎さんまで声を上げた。
「……光流」
「うん。これはもうCDとDVDどちらも作るしかないね」
ということで、どちらも作って焼いて回すことが決定した。
「なんなら俺ら四人で写真撮って、ジャケット写真にするか?」
「プロでもあるまいし。笑われちゃうよ」
「いやいや、カッコつけてるのとかじゃなくて、普通にただの集合写真」
「誰が弾いてるってのわかったほう良いだろ」
ちょっとやり過ぎなような気もするが、写真があれば先ほど志波さんが言った卒業アルバム的なものになるかもしれないとは、少し思った。
「じゃあとりあえず私、学年ごとに名簿作るよ。期限決めて欲しい人に名前記入してもらって、そこでCDとDVDを渡してお金をもらった人の記録をつけたほうが抜けがないでしょ?」
「さすが理帆……! 助かる!」
理帆が提案してくれた。
確かにどのくらい欲しい人がいるかわからないもんね。
「じゃあそれ私らも手伝うよ。録画したの私たちだしね」
「うん。任せて」
「二人ともありがとう」
理沙と朱利は最初から焼き増しをすると言ってくれていたので、さらに助かる。
「二年生は私に任せてください!」
「ほんと? 何から何まで……ありがとうね」
志波さんが二年を担当してくれることになった。
皆協力し合って、良い人たちばかりだ。
「なら、俺は一年の後輩に声かけてみるよ」
開渡が声を上げる。
「じゃあ私も一年の後輩に言ってみるね」
二人共部活をしていたので、多少なり後輩とも交流していたのだろう。
「ほんと? じゃあ二人に一年の名簿は任せるね」
「オッケー。任しとけ」
こうして、CDとDVDに関することが色々と決まった。
◇ ◇ ◇
「あ〜〜〜、食った食った」
冬矢が腹を押さえて満足そうに後ろに手をつく。
「あんた運動しなくなってからちょっと太ったんじゃない?」
「あ〜、確かにそうかもな。ってお前は俺の母さんかよ」
冬矢のお腹に対する深月の指摘。
確かにお母さんのようだ。もしくは……。
「ええと。今日は一人、三千五百円だけど皆大丈夫?」
俺たち四人は透柳さんに奢ってもらうという話だったが、結局その後どうなったのか聞いていない。
「――ちょっと待ちなさいっ」
するとしずはが立ち上がり、懐から封筒を取り出す。
「ふふふ……」
不敵な笑みを見せながら、封筒からスッと出したのは札束だった。
「ここに、五万円がありまーすっ!!」
「え……?」
その五枚の万札を天に掲げるしずは。
俺は大きな金額に少し驚く。
「お父さんからもらってきました!」
「ええと……つまり?」
これは、もしかして――、
「――今日は全員、私の奢りじゃあ〜〜〜っ!!!」
まさかの全奢り。
太っ腹すぎて何も言えない。
やっぱりお前が一番ロックだよ。
「うそ! やったー!!!」
「ほんと!? うれし〜。今月金欠だったんだよね!」
「しずは先輩っ! ありがとうございますっ! ありがとうございますっ!」
しずはのその言葉に一同が喜びを見せる。
人の金で食べる飯ほど美味いものはないからな。と言っても食べたあとに言われたことだが。
「しずは、本当に良いの?」
「良いよ。お父さん喜んでお金くれたし」
「はは……」
まぁ、しずはの家はお金はあるだろうから五万円はそれほど気にする金額ではないのかもしれないけど、中学生にとってこのお金は大きすぎる。
今日は総勢十四人。一人当たり三千五百円なら合計で四万九千円の計算になる。ちょうど五万円で収まる金額だった。
「じゃあ、お願いするね!」
「まっかせなさい!」
透柳さんのお金で俺たちは一円も払わずに焼き肉を堪能した。
やっぱり次会った時にはお酒のおつまみでも買って行きますね。
そうでもしないと、なんだか申し訳ない。
こうして、俺たちは楽しい楽しいお疲れ様会を終えた。
―▽―▽―▽―
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