130話 中学三年生 文化祭その5

 演奏が終わり、楽器を舞台袖へと移動させた。

 片付けが終わると舞台袖の入口から体育館の方へと出る。


 文化祭のプログラムも全て終了。

 体育館にはもう生徒はほとんど残ってはおらず、文化祭終了の挨拶のためにほとんどの生徒が校庭へと集まっているようだった。


 ただ、舞台袖から俺たちが出てくるのを待っていたのか、すぐ近くに鞠矢ちゃんと奏ちゃん――そして理沙と朱利がいた。


 さらにその後ろに隠れるようにいたのが深月だった。

 深月だけは最後まで観客のどこにいたのかわからなかった。


 すると――、



「あっ、ひかるきたっ! ひかるぅぅぅぅっ!!!」

「うおっ!?」



 鞠也ちゃんがそのまま俺にタックルするように抱き着いてくる。

 受け止めたものの、力のままに飛びついてきたので少しよろけてしまった。


「ひかる大丈夫っ!?」

「あぁ、出し切って疲れちゃっただけだから」


 俺の上半身を確認するようにパタパタと軽く叩いていき心配する鞠也ちゃん。


「そっか、なら良かった。もう〜ほんと凄かった!」

「ありがとう。鞠也ちゃんが飛び跳ねてるのちゃんと見えたよ」


 身内だからかもしれないが、目の前だったし一番目に入った。


「奏ちゃんなんか、声枯れちゃってどうしようもなかったんだから」


 奏ちゃんの方を見ると、しずはの前まで駆け寄っていき、パチパチと拍手を贈っていた。


「じずばぜんばいっ! ざいごうでじだっ!!」


 カスカスになった声は最早ゾンビ。

 目も真っ赤に腫れて泣いていたことが見て取れた。


「見てくれてありがと」


 しずはが奏ちゃんの頭をなでなでする。

 幸せそうに頭を撫でられる様子はやはり小動物のようだ。



「――楽しそうにやってたわね」

「深月……」



 すると深月がしずはに話しかけた。



「どこにいたの?」

「まぁ、後ろの方にね」

「もう、話せるクラスメイトいるんだから前の方に来れば良かったのに」


 深月も少しずつ俺たち以外とコミュニケーションを取れるようになってきていたので、しずはじゃなくても一緒に行動できる人もいたようだが、今日は個人行動だったようだ。


「前の方で見るとか恥ずかしくて無理っ」

「見る側に恥ずかしいとかないでしょ……」


 いや、おそらく前の方は陽キャで埋め尽くされていたはずだから、深月が突入するには誰かのサポートが必要だったろう。

 同じクラスの冬矢も今日はこちら側だったし、強引に連れていく人はいなかったのかもしれない。


「深月っ! どうよ、俺の演奏!」


 すると冬矢が前に出てきて、深月に感想を求める。


「よ、良かったんじゃないっ。少しだけ。てか私ベースのことわからないし」


 深月は少し恥ずかしそうに冬矢を褒める。


「わからなくてもいい、良かったって言葉だけ聞ければな。――今度弾いてやろうか?」

「はぁ!? 弾いてやろうってどこでよ! まさか二人でとか言わないでしょうね!」

「なんだよ。二人じゃ悪いのかよ」


 妙な雰囲気になってきた。


「あ、あんたと二人じゃ、私があんたのファンに殺されるでしょうがっ!!」

「そんなの気にすんなよ」

「私が気にするの!!」


 ただ、二人の距離は縮まっているように見えて、それほど縮まっていないのかもしれない。

 深月の壁が果てしなく高いようだ。



「光流……お疲れ様! 最高だったよ」

「お疲れ様っ。なんか理沙が泣いたらしいんだよね」

「バカっ、朱利もでしょ!」


 理沙と朱利が俺の前の前までやってきた。


「ふふ。二人共ありがとう」


 泣いたなどと言わずとも、奏ちゃんと同様に目元が赤くなっているのがわかった。

 出会った頃の彼女たちと今とでは全く違う。前より真面目になったというか、まっすぐになったというか。


「ちゃんと録画したからね」

「DVDに焼いたら皆に配るねっ」

「ありがとう。本当に助かる」


 必死になって歌って演奏したけど、舞台下からはどんな風に見えていたのだろう。

 純粋に気になった。



「――じゃあ、校庭に行くか」



 俺たちは校庭に移動した。




 ◇ ◇ ◇




 自分のクラスが並んでいる場所に向かうと、かなりの視線を感じた。

 ただ、すぐに先生や文化祭実行委員、生徒会からの話が始まったので、話しかけられるようなことはなかった。



 そうして文化祭の終了を告げられると、帰りのホームルームまでの間、クラスの出し物で使ったダンボールを少し片付けることになった。


 一部だけ片付けをすると、残りの分は放課後にやることになった。


 教室へ戻る途中、一緒に片付けをしていたしずはと二人きりになったので、俺は一つ提案をした。


「――なぁ、焼き肉だけどさ。やっぱり皆誘わない?」


 四人だけのお疲れ様会も良いけど、協力してくれた人たちもいたし、あんなに感動してくれた鞠也ちゃんや奏ちゃんも呼びたいと思った。それに人がたくさんいた方が楽しいと思うし。


「しょうがないわね……予約人数追加しておくから後で行く人教えて」


 しずはがやれやれと言わんばかりに承諾してくれた。

 演奏が終わって「焼き肉……」と呟いたしずはだったが、そもそもお疲れ様会をやる日は明日に予定していた。


 演奏当日は疲れて動けないと思っていたし、放課後には出し物の後片付けや舞台袖に置いたままの楽器の片付けだってある。

 なのでお疲れ様会は翌日にしていた。


 ちょうど明日と明後日は振替休日でお休みだ。

 十分に休んでから焼き肉屋へ向かうことができる。


「てかこんな状態でよく焼き肉食おうと思えるね」

「私は普段そこまでご飯食べないけど、コンクールが終わった後だけは凄い食べるの」

「そうなんだ……」

「口の中も気持ち悪いし、あんまりそんな気分にならないんだけど」

「光流だってこういう経験をたくさんすれば、当日でも食欲湧くようになるよ」


 そういうものなのかな。

 今は水分だけ摂れれば十分だ。ご飯はしばらくいいかな。


「――しずはにはほんと迷惑かけたね」

「いきなりなによ」


 こんな話をするべきではないかもしれないが、しずはと二人きりの時じゃないと話せないこともある。


「四曲目とかバンド名とか……」


 しずはへの当てつけのような仕打ち。

 気にしないなんてことはできないことだったと思う。


「あんたがルーシーちゃんのこと大好きってのはもうわかってるから。今更よ」

「わかってくれて嬉しい……ってのは変な言い方か」

「でもモヤモヤしていないってことではないからね!」

「すまん……」


 いや、そうなんだよな。

 しずはの心にどれだけダメージを与えるかわからないのに、あそこまで演奏してくれて本当に感謝してる。


「てかさ。あのエルアールって本当にルーシーちゃんなの?」

「……わからない。でも、そんな気がしてるというか」

「本当にそうだったら、とんでもないことよね……」


 結局どうなのかわからない。

 けど、俺はそう思った。それだけ。


「なんか遠くに行っちゃったなって感じは少ししてるかも」


 会っていない間に学校でも皆が知るアーティストに、凄い人になってるんだもんな。


「うわ〜。私だって実力的には結構遠い人だと思うんですけど〜」

「あっ……でも、しずはの場合は今こうして目の前にいるし……」


 そういえば、そうだった。

 けど、学校もずっと一緒だから遠いという感覚は全然なかったな。


「……(いつまでも近くにいるわけないじゃん)」

「え?」


 しずはが何か言ったような気がしたが、よく聞こえなかった。


「うるさいっ。光流はまだ知らなくていいこと!」

「なんなんだよ……」


 そう会話しているうちに自分のクラスへと辿り着く。


 教室のドアに手をかけて横にスライドする。

 そして、教室の中へと足を踏み入れた瞬間だった――、


「ひゅ〜〜〜〜っ!!」

「さいこーだったぞ〜っ」

「お疲れ様っ!」


 先程までは言われなかったクラスメイトからの称賛。

 ほとんどのクラスメイトから拍手とねぎらいの言葉を贈られた。


 舞台の上ではまっすぐに歓声を受け入れられたが、教室の中でとなると途端に恥ずかしさが上回る。


 俺はペコペコと頭を軽く縦に振りながら「ありがとう」と小さく声を出して、腰を低くしながら自分の席へと向かった。


 一方のしずははドヤ顔のまま、称賛の声をものともせずに自分の席まで堂々と歩いていった。これがコンクールを経験してきた人との差か。



「ねぇ、藤間さんほんとに凄かったよ!」

「最初のやつとかマジでロックだったよな!」


 近くの席の人から話しかけられるしずはの表情は、ニコニコしていて満足そうだった。

 

「――光流〜良かったじゃーん」


 俺が自分の席に座ると、前の席の千彩都が声をかけてくれる。

 彼女も開渡と一緒に最前席で見ていた。


「ありがと。もうヘトヘト。ほんとに疲れたよ」


 俺は机の上に顔と腕を置いて寝そべるようにして体を休ませる。

 そのままの状態で千彩都の話を聞いた。


「そうだろうね。皆、ほんとにかっこよかったよ」


 まさか千彩都からかっこいいという言葉が聞けるなんて。

 今まで一度も言われたことはなかった。


「どういたしまして」

「やっぱり楽器弾ける人とか、バンドやる人ってかっこよく見えるもんだね」


 そうかもしれない。

 俺も観客側だったら千彩都と同じようなことを感じていたと思う。


「しーちゃんも凄い楽しそうだったなぁ。コンクールとは全然ちがうもんね」

「うん。俺たちみたいな初心者と一緒にやってくれてほんと奇跡だけどね」


 普通なら絶対一緒にやることはできない組み合わせ。

 そんなしずはの力を無料で借りているのは、ちょっとズルかもしれない。


「まぁ、光流がいるからでしょ。光流がいなきゃ参加は絶対してないよね」


 それは大体わかっていたけど。

 しずはにとってそれが良いことなのかどうなのかは、結局よくわからない。


「ほんと光流は罪作りなやつだよ。しーちゃんあーんなに可愛いのに」

「まぁ……ね」


 この話はクラスでは千彩都しか知らない。

 あまり大きな声では話せない内容だ。


「最後の曲はまさかだった。エルアールやるとは思わなかったよ。あれはほんとに驚いた」

「だよね。あの曲アップされたのほんの一ヶ月前だもんね」

「そうそう。よく演奏できたね」


 それは皆が頑張ってくれた結果だ。

 俺だけではなく、全員が睡眠時間を削って覚えたり練習したりしたことだろう。


「あ、そうだ。焼き肉だけど皆呼ぶことになったから、普通に来て良いよ」

「そうなの? なら開渡も連れてくね!」

「多分自腹だと思うからよろしくね」

「それさぁ、前にも言ってたけどどういうことなの?」


 千彩都が不思議な顔で聞いてくる。


「本当は四人だけで行くつもりで、しずはのお父さんがお金出してくれるって話だったんだ。だから他の人の予算は入っていないと思う」


 お金はさすがに出してもらうしかない。

 食べ放題のお店だからそれほど値段はしないとは思うけど。


「全然良いって。自分で払う予定だったし」

「なら良かった」



 千彩都と会話しているうちに担任の牛窪先生がやってきて、ホームルームが始まる。

 そうして放課後になると、生徒のほとんどが居残りをして片付けをすることになった。




 ◇ ◇ ◇




「――あのっ! 九藤先輩ですよねっ!!」



 俺たちのクラスの出し物の片付けでダンボールを持ち運んでいた時だった。

 見知らぬ女子に突然話しかけられた。


 その女子は三人組で後輩のようだった。


「そうだけど、どうかした?」

「バンド凄く良かったです! めっちゃ感動しましたっ!」


 三人組の一人が両手を胸に置きぞいの構えでバンドの感想を伝えてくれた。


「嬉しいよ。ありがとう」


 わざわざ直接言ってくれるなんて、とても良い子なんだろう。


「それでなんですけど……」


 ただ、感想を言いに来たわけではないらしい。


「――音源ってないんですか!? CDとかデータとか!」

「え?」


 予想外過ぎる質問が飛んできた。

 つまりどういうことだろうか。


「私、また先輩の歌聴きたいです! でも聴こうにも聴けないので……」

「三曲はコピバンだから俺たちの曲じゃないんだけど、良いの?」


 オリジナル曲ならまだしも、他の人の曲を歌ったものはどう考えても本人であるプロよりも劣っているはず。なのに……。


「良いです! それで良いんです!」

「そう言ってくれて嬉しいよ。でも録音とかはしてなくて……」


 CDを売るためにやっていたわけじゃないからな。

 そういう収録とかもしなかったし。


「それは……残念、です」


 その女子が残念そうな顔を見せる。ちょっとかわいそうに感じてしまった。


「うーん。一応ビデオでは録画してたんだけど、そこから音だけ抜けばいけるかも……?」


 その辺の機械操作はあまりよく知らない。

 もしかしたら冬矢などがうまくやってくれる可能性がある。


「ほんとですかっ! というかそのビデオの映像もほしいですっ!」

「ええっ!?」


 これもまさかだった。


「多分ビデオ見たらまた興奮しちゃうと思います。こういう思い出って多分この先、何度もあるわけじゃないと思うんですよね。だからちゃんと記憶に残しておきたくて。私、皆さんのファンになっちゃってますからっ」


 やばい。とっても良い子だ。

 それならこの子の言う通りにしてあげたい。


「わかった。ちょっとメンバーに相談してみるよ。来週学校始まったらまた声かけてくれる?」

「ほんとですかっ! わかりましたっ」


 目をキラキラさせたその子は、


「私、二年の水野春瑠みずのはるって言います! あ、ちなみにこの子たちもファンですよっ」

「九藤先輩っ。またどこかで演奏してくださいね!」

「次の演奏も期待してます!」


 水野さんが、二人のことを話すと、その二人がバンドに期待してくれる。


「水野さんだね。わかった、よろしくね」

「春瑠でいいですっ! 春瑠って呼んでくださいっ!」


 結構グイグイ来るタイプだ。少し鞠也ちゃんに近い感じがする。


「わかったよ。春瑠ちゃんだね」

「春瑠、ちゃん……っ」


 自分から呼んでと言ったのに名前を呼ばれたことで少し恥ずかしそうにする春瑠ちゃん。


「あー、春瑠だけズルい! 私は綿矢陽真莉わたやひまりです! ひまりんって呼んでくださいっ」

「私は森川伊世もりかわいよです! 伊世って呼んでください!」


 なんだか怒涛の三人だ。

 しかも一人だけひまりんって……呼べないよ。


「春瑠ちゃんに陽真莉ちゃんに伊世ちゃんだね」

「ひまりんって呼んでくれない……」

「初対面であだ名はハードル高いかな……」

「もう、しょーがないですねっ」


 なんで俺がこの子たちの顔色を伺ってるんだ?

 後輩ってこんなタイプばかりなのだろうか。


 彼女たちはこれからの俺たちのバンドに期待してくれてはいるようだけど、このバンドはもう……。

 ただ、そんな彼女たちのキラキラした目を裏切れず、今回で最後のバンドだとは言えなかった。


「とりあえず、また来週ね」

「はいっ!」


 俺は三人の女子生徒たちと別れた。




 …………




 ダンボールを運んでいる最中も、チラチラと色々な生徒がこちらを見てきているような気がした。

 バンドのお陰で注目を浴びているようだったが、なんだかこの目線は慣れない。


 ダンボールを片付けたあとは、舞台袖に置いてある楽器の回収。

 しずはが透柳さんを呼んでくれた。


 ドラムやアンプなどを運び込むと、透柳さんの車に乗せてもらい家まで送ってもらうことになった。

 冬也たちはそれぞれ歩いて帰るようだった。



「――光流くん、今日はどうだった?」



 車での移動中、運転する透柳さんにそう聞かれた。


「もう、最高でした。なんだか音楽って凄いですね」


 正直言葉が足りないくらいだが、最高という言葉が一番伝わるような気がしていた。


「ふふ。だろ? 俺もギター教えた甲斐があったよ」


 後部座席からバックミラー越しに見える透柳さんが笑っているのが見えた。


「本当にありがとうございます。なんか、自分があんな舞台に立って演奏したことが今でも信じられません」

「はは。まだたった一回ライブしただけだろ? やるなら何回もやらないとな」

「まぁ、でも今回のバンドはこれで一旦解散ですし。この後はどうなるかまだわかりません」

「別に今すぐどうしろって決めなきゃいけないってことでもないからな。どうしてみたいか考えてみなよ」

「はい……!」

 

 次に顔を合わせた時には、ちゃんと何かお礼を持って行きますからね。


「早くしずはの演奏みたいなぁ」

「コンクールじゃない演奏見られるの、やっぱ恥ずかしいからどうしようかな」


 助手席に座るしずはがDVDのことについてそう答える。


「約束じゃないか! 絶対見せてもらうからな。はなと一緒にリビングのテレビで見るのが今から楽しみなんだから」

「見るなら私がいない時にしてよね」


 本当に親バカだ。

 何度も何度も巻き戻して見返しそうだ。


「あっ、すいません。俺ここでいいです。少しだけ歩きたくて」

「そう? じゃあここで」

「車、ありがとうございました」


 俺は少しだけ一人になって余韻に浸りたかった。


 車から降ろしてもらうとしずはと言葉を交わす。


「光流、それじゃあ明日ね」

「うん。また明日」


 明日、とはお疲れ様会のことだ。


 こうして、しずはと透柳さんと別れ、俺は一人で家まで歩くことになった。




 …………



 

 本当に目まぐるしい一日だった。

 濃厚過ぎて、しばらくは忘れることはできないだろう。


 今日はもう家に帰ったらすぐに寝たい。

 後片付けをしている間も体はフラフラだったし、多分すぐに寝られる。


 長く短い、どちらの感覚もあった今日の文化祭。

 たった一日なのに、もの凄い体験をした気がする。


 本当にやってよかった。


 来年はもう高校生。

 バンドは今後どうなるかわからない。冬也はもちろん続けるとは言うだろうけど、しずはと陸が抜けることでの穴が大きい。


 でも今日という日を経て、俺にはまだバンドを続けたいという気持ちが生まれてきていた。


 こんな気持ちにさせてくれたのは、やっぱり皆だったから。

 バンドは音楽性の違いとか、色々なことで空中分解することも多いらしい。

 けど、俺たちはそうはならなかった。


 だから……冬也、しずは、陸。


 一緒にバンドをしてくれて本当にありがとう。





 ――眩しいオレンジ色の夕焼けが並木道の木々を照らし、はっきりと木陰を地面に映し出す。


 肌寒いはずの秋の風もまだ熱を持ち火照っている体には心地良かった。


 背中に背負っているギターケースがいつもより重く感じられた。疲れが溜まっている証拠でもあるかもしれないが、一緒に戦ってくれた戦友をより身近に感じたからかもしれない。


 鮮明に記憶に焼き付いている嘘のような本当の景色。

 ほんの少し前に体験した出来事は、皆と出会った小学生の頃には考えもしなかった光景。


 俺は一人、あの頃の記憶に思いを馳せながら、家までの道のりをゆっくりと歩いた。






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