104話 曲の決定

 ――翌日。


 冬矢と登校中、昨日あった出来事を話していた。


 松崎さんが変な勘違いをしたまま帰ってしまったことだ。


「無闇に人に広めない子だと良いんだけど……」

「さぁ、どうだろうな。女ってのは噂好きだからな」


 釈明するのも面倒だというのに。

 昨日で解決しておきたかった。


「姉だって言ったのになんで信じてくれなかったんだろ」

「そりゃ姉でも人前で腕絡ませたりする人が少ないからだろ」

「そうなのかな……」


 他の人の姉がどんな人なのか聞いたことがないので、参考がいない。

 うちの場合は、俺が事故に遭ってからあれだけくっつくようになったのだが……。

 だとしたら珍しい事例になるよな。


「とりあえず朝イチで松崎さんに話さないと」




 ◇ ◇ ◇




 そうして学校に到着し、教室に入った。

 すると数名の女子から視線を感じた。


 悪い予感がする。


 とりあえずカバンを置きに自分の机に向かう。


 ただ、松崎さんはまだ登校してきていなかった。


 そして、そのままホームルームが始まってしまった。


 先生によれば、松崎さんは風邪でお休みだそうだ。


「…………」


 こんな時に限ってなんで!?


 でもあの女子たちからの視線……。


 昨日グループチャットで連絡したとか?

 女子のグループとかありそうだしなぁ。


「まじかぁ……」


 結局、クラスの女子からは何も言われず一日の授業が終わった。


「冬矢、陸。行こう」


 放課後、同じクラスの二人に声をかけた。

 そうして玄関でしずはと待ち合わせして、四人でファミレスへと向かった。




 ◇ ◇ ◇




「――光流。彼女できたらしいじゃん?」

「ブォホッ!?」


 ドリンクバーからもってきたジンジャエールを飲んでいたところ、突然のしずはの発言に吹き出してしまった。


「ケホッケホッ……な、なんの話?」


 むせながら俺はしずはの質問の真意を聞く。


「うちのクラスの女子が話してたよ。私が光流と仲良いからって話してくれた」


 ってことは、松崎さんと一緒にいた子はしずはのクラスの子だったのか。


「いや、しずはならわかるでしょ。姉ちゃんだって」

「まぁ、ね……(最初は心臓ドキってしたけど)」


 なんだか少し含んだような言い方だ。


「松崎さん今日風邪で休みだしさ、釈明できなくて」

「でも別に困ったことはないでしょ?」


 実害は全くない。

 いつも通りの学校だったと言えるかもしれない。ただ――、


「なんか変に視線感じるんだよね……」

「私なんて廊下歩く度に男子からチラチラ見られてるんだけど」


 なに言ってんだ? 自慢か?


「それとこれとは意味合いが違うでしょ」

「なぁーに? どう違うの? 言ってみてよ」


 こいつ〜言わせておけば。可愛いからって言わせたいだけだろ。

 遠慮なくなってから言いたい放題だな。


「……なんかムカつくから言わない」

「なになに? ちゃんと言葉にしないさいよー!」

「うるさいっ!」

「あんたの話から始まったんでしょー!」


 そう、しずはと言い合いになって、お互いにヒートアップしてくると――、


「お客様……他のお客様にご迷惑ですので、もう少しだけ声のボリュームを抑えていただけると……」

「あ……すみません」


 ファミレスの店員さんが近づいてきて、申し訳なさそうに俺たちを注意していった。


「……バカ、しずはのせいで怒られたじゃん!」

「しらなーい」


 なんなんだよ。

 ただ、俺と言い合っていたはずだが、しずはは少し笑顔だった。

 彼女の顔が良いことが今は憎たらしい。


「――こいつら付き合ってないんだよな?」

「簡単には言えない深い事情があるんだよ。今は察してやれ」


 陸が冬矢にコソコソと光流としずはの関係を呟くと、冬矢は嘆息しながらやれやれと頭を横に振りながら答えた。


「ほら、お前ら。曲の話するぞ」


 本題に入ることにした。




 …………




「――出揃ったな」


 俺たち四人はそれぞれ曲を数個出し合った。

 そして、スマホで曲を流して聴いていった。


「陸の『トゥーオクロッカー』だけど、ギターソロえげつないよね? 俺弾ける自信ないんだけど」


 陸が選んできたのは激しい曲が多いが有名なロックバンドだ。ギリギリ歌えないこともないが、ギターもやる俺にとってはかなり難易度が高く感じた。


「一年も時間あるからいけるかなと思ったんだけど」

「……光流ならできると思う」

「それは俺も同意見」


 皆どこからくる自信なんだよ。


「確かに約一年はあるけどさ。激しい歌ってギター弾きながらだと結構辛いと思う」


 演奏の問題もあるが、この曲だけでなく他の曲も練習しないといけない。皆での合わせもしないといけない。

 やることは結構ある気がする。




 …………




 そうして色々と詰めていった結果、残ったのは三つのアーティストだった。


「『バンチケ』『オセコン』『レイテストナンバー』か。どれも良いな」


『レイナン』こと『レイテストナンバー』もかなり人気のバンドだ。

 ただ、バラードが多いバンドなので、正当なロックバンドというイメージはない。青春をイメージにした曲も多い。


 でも一曲くらいはバラードを入れても良いかもしれないとは思っている。


「この三つなら俺も声出せると思う。なら多数決とる?」

「あぁ、そうしようか」



 多数決の結果。


『バンチケ』と『レイナン』の二つに決まった。


 当初は一つは俺が好きな曲を決めると言っていたので、この中から一つ、俺の好きな曲を決めることにした。


 そうして、曲まで決めることができた。

 結果、『レイナン』は『SISTAR WINDOW』、『バンチケ』は『光線』という曲に決まった。


 せっかくなので、これらの曲の個人的解釈を伝えておこう。


『SISTAR WINDOW』はCMソングにもなった曲で、常日頃頑張っている女性に向けての応援ソング。

 普段は見せない疲れ切った自分(女性)が窓に映り込み、それがもう一人の姉妹のように見えることをイメージした曲。


 これは皆が選んだ曲だが、しずはや冬矢。努力してきた人に向けて歌いたい曲だと思った。


『光線』は別れから始まる、出会いの光や痛みをより濃く思い出させ、寂しさや喜びを感じる曲。


 別れがあったからこそ出会いをより強く感じ、寂しさも感じる。

 別れたことは寂しいけど、それは君と出会えたから。今の自分を形成するほどの出会いが光となって、この先も照らしてくれている。その光は君から始まってるというように歌詞の解釈をした。


 つまり、俺とルーシーの関係に近しいと思って選んだ。

 二人の名前の意味を持つ『光』という言葉もタイトルに入っていて、ちょうど良いと思った。

 ちなみに、少し長めのギターソロもある。


「決まったな。あとは練習だ」

「そうだね。最初に合わせて練習するのはいつにする?」


 しずは以外は初心者の集まりだ。すぐに弾けるようになるのは無理だろう。


「とりあえず二ヶ月後とかにしておく?」

「最初は基礎練からだろうからな。そうしておこうか」

「しずは。それで良い?」

「うん、いいよ」


 今は一月。三月の中旬あたりに目標を決めて、俺達は曲を練習していくことになる。


「いきなり二つ同時は難しいと思うから、まずは一つに絞ろう」

「そうだな。なら皆が選んだ『SISTAR WINDOW』からやろっか」

「おっけ〜」


 ということで、『レイナン』は『SISTAR WINDOW』が最初の練習曲に決まった。


 透柳さんには別の曲を話して練習していたけど、バンドを組むことになったので、別の曲も練習しないといけないことを話さないといけない。


 半分くらいまではゆっくりと弾けるようになっていたけど、新しい曲ならイチからになる。


「光流〜オリジナルの歌詞もよろしくな」

「あー、忘れてた」


 練習の他にも歌詞……タイトルも考え得ないとな。

 まぁ、ルーシーのためってのは決まってるけど。


「じゃあ今日は解散だ」


 俺達はまず、それぞれに個人練習を始めていくことになる。

 いつまでにやるという目標もでき、本格的にバンドらしくなってきた。


 文化祭まであと十ヶ月。先は長いけど、早めに全部できるようにしておきたい。






 ー☆ー☆ー☆ー


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