95話 波乱の誕生日会その2

 ――波乱の幕開けとなる俺の十四歳の誕生日。


 しずはと深月が俺の家に到着したことで、今家にいる女子の数は九人となった。

 

 玄関には皆の靴が溢れかえっており誰が誰の靴なのかもうわからない。


「ええと、なんか姉ちゃんの友達もいるみたい……」


 とりあえず目の前の靴の多さを説明する。


「そうなんだ。光流って年上にも人気者なんだね」


 しずはにそう言われたがそんなことはない……はず。

 謎DGダンスガールズだって四年ぶりだしな。


「あの人達は面白がってきただけだよ。会えばわかる」

「なにさぁ〜。久しぶりに会った私の友達に対して!」


 そう言うと横から姉のツッコミが入った。


「祝うというより自分たちが楽しみたいのが透けてみえる」

「まぁ確かに祝いたい気持ちは一割かもね」

「少なすぎだろ!」


 しずははまだしも深月は大丈夫だろうか。

 あの陽キャ軍団の中に入っていけないような気がする。


「とりあえず上がって上がって!」


 姉がそういうと、二人は靴を脱いでリビングへと通された。



 そうしてリビングに入ると四人の謎DGダンスガールズがまだソファの周りでくつろいでいた。


「少年……って! ええええ〜〜っ!? 美人が増えてる!!」


 佐知さんが驚きの表情をする。


「クソカワ過ぎる!」

「しかも二人とも!」

「ひかるんモテモテ〜」


 それぞれがしずはと深月に対しての感想を言う。


「ま、まぁ喋りたくなかったらあっちのダイニングテーブルに座ってて」

「ううん。せっかくだし挨拶くらいは。ねっ、深月?」

「いや……私は別に……」


 やはり深月は引き気味のようだった。

 陽キャというのは見た目だけですぐにわかるものだ。


「深月せんぱーい。ほら行きますよっ!」

「なによっ!?」


 すると鞠也ちゃんが深月の腕に自分の腕を絡ませて謎DGの方へと無理やり連れていった。


 先ほど揉みくちゃにされたはずの奏ちゃんも恐る恐る着いていった。


「しずは、無理しないでね」

「そんなにヤバい人達なの?」

「あぁ、俺も昔大変だった……」


 嫌な思い出ではない。ルーシーについても相談に乗ってくれた。

 しかしあの封印されしエク◯ディア状態になって手足を拘束されたことは小学生にとってはキツかった。

 キツいというのは、恥ずかしいという意味でだ。


「俺はダイニングテーブルの方で見てるから」

「わかった。……てかそれなら光流のお母さんのお手伝いするけど」


 するとしずははキッチンの方を見て言う。

 いつの間にか母が帰ってきていたようで、絶賛夕食の用意をしていた。


 今は一人で用意しているので、この人数分用意するのは大変だ。

 既に出来ているスーパーの惣菜もあると思うが、料理もするはずだ。


「あー、確かに。それは助かるかも」

「先に挨拶するね。深月はあっちに連れて行かれちゃったけど……」


 しずははキッチンに向かって母に挨拶した。


「あらー、ひさしぶりね! しずはちゃんこんなに美人さんになって!」

「あ、いえいえ……それほどでも……。そ、それよりお手伝いしますので!」

「そう? 確かに手が足りてないから助かるわ。お願いしてもいいかしら?」

「はいっ!」


 そういえば、しずははお菓子作りをするようになってから、料理もするようになったのだろうか。

 深月は自分でお弁当を作っていると前には聞いたがしずははわからない。


 こうして俺は一人で、ダイニングテーブルでゆっくりすることにした。


 現在は十七時。今日は父は早めに仕事を上がると言っていたけど、この現状を見てどう思うだろうか。

 絶対に居心地悪いだろうな……。


「母さん、今日は希咲さんは来るの?」


 俺はキッチン越しに母に聞いた。


「今日は来ないみたいよ。鞠也ちゃんだけ」

「なら良かった」


 これ以上人が増えても良いことはない。


「私もまさかこんなに人が集まるとは思わなかったわ。友達がたくさんいるって良いことね」

「半分はそうじゃない人たちが混ざってるけどね」

「賑やかで良いじゃない。灯莉も最近は家にお友達呼んでいなかったし、良い機会よ」


 許容範囲が広いのは良いことだけど、これ片付けも絶対大変だよな。

 さすがに片付けは俺も手伝うか。


「しずはちゃん、そっちの唐揚げのお肉切ってもらっていい?」

「はいっ!」


 こういうかしこまっているしずはを見るのも新鮮だ。

 だからか俺はキッチンの方を見に行った。


「しずはって、お菓子以外も作るの?」

「なに〜? 気になるの? たまに作るよ」

「そうなんだ」


 確かに見てる限り包丁捌きはスムーズだ。

 問題なく料理の手伝いは出来ているようだった。


「深月ほどじゃないけどね」

「深月はお弁当も自分で作ってるみたいだしな」

「ええ、お弁当自分で作ってる子なんているの?」


 すると母が会話に入ってきた。


「そうそう。あの……今揉みくちゃにされてる子……」


 深月をどの子なのかと母に教えようとしてソファの方を見ると、謎DGに囲まれて逃げられないようになっていた。


 しかし深月は嫌がっているというよりは恥ずかしがっていた。


「褒められてるんじゃない?」

「あー。いつまでチョロいんだろうね」

「ふふ。あの子そんな感じの子なのね」


 そうこうしているうちに着々と料理の準備が終わり、父も帰ってきた。


 俺たち家族はテーブル。その他の人たちはとりあえずソファに座ってもらった。

 全員が同じ場所で食事をするというのは不可能だったので、この配置となった。


「じゃあ改めて。光流、お誕生日おめでとう」


 母がそう言うと、皆が揃って俺にお祝いの言葉をくれた。


 とりあえずそれぞれに目の前にある料理を食べ始めた。


「光流〜、この友達の数どうした? 父さんびっくりしちゃったぞ」


 食事が始まると父が開口一番に聞いてきた。


「俺も驚いてるよ。いつの間にかこうなってた」

「良いことじゃないか。光流に人望があって嬉しいよ」

「人望だと良いんだけど」


 友達関係なんてそんな崇高なものではないだろう。

 ただ仲が良いとか、流れで友達や知り合いになっただけ。

 これが十年後も同じように関係が続いていたとしたら、もうそれは人望と言っても良いのかもしれない。


「ほらほら、主役少年〜っ! こっちにも来なさいよ〜」


 すると佐知さんの俺を呼ぶ声が聞こえた。


「行ってきなさい?」

「でもまだ料理全然食べてないんだけど」

「ならお皿に乗せて持っていきなさい? 足りなくなったらまた取りにくればいいわ」

「じゃあそうする」


 母にそう言われたので、渋々ソファがあるテーブルの方へと向かった。

 こちらのテーブルでも皆料理を食べており、ワイワイしていた。


 楽しそうで何よりだ。


 誕生日会は当人のためでもあるけど、来てくれた人も楽しくないといけないよな。

 さっきまでは自分のことばかり考えていたけど、なんとなくそう思った。


「――じゃあ少年、あーん」

「はっ!?」


 俺は招き入れられたテーブルの前に座ると左側にいた佐知さんが春巻きを箸で持って口へと差し出してきた。

 当然俺は驚いた。


「光流くん、こっちもあーん」

「はぁ!?」

「こっちもだよ〜」

「はぁ〜〜っ!?」


 次々と春巻きを持った箸を突きつけられる。


 一瞬、なぜかしずはの顔を確認したくなった。


 ――めちゃめちゃ睨んでいた。


「ちょっ、ダメですって!」

「今日は主役なんだから、ほら」

「んんんん〜〜〜〜っ!?!?」


 しかし有無を言わせず俺の口の中に三つの春巻きが突っ込まれた。


 まさか自分でも三つも春巻きが口の中に入るとは思っておらず驚いたが、とりあえず吐き出すのは汚いと思って、必死に噛み砕いていった。


 恥ずかしい気持ちと苦しい気持ちがごっちゃになっていた。


「もうダメです!」

「ええ〜?」


 なんとか春巻きを食べ切って飲み込む。他の料理も食べたいのにこのままだと春巻きだけでお腹が膨れてしまう。

 佐知さんはまだ楽しみたいのか次の料理を箸で掴んで食べさせようとしていたので俺は拒否した。


「本気で怒りますよ」

「えーん、怒らないで〜」


 少し真剣な表情で言うと佐知さんは明らかに嘘泣きの演技をした。


「料理はゆっくり食べさせてくださいよ」

「一理あるかもしれない……」

「一理どころじゃないんです!」


 とりあえず肉を食べたかったので、先ほどしずはが作っていた唐揚げを口に入れた。

 普通にうまい。というか味付けはうちの物なので、いつもの味ではある。


「光流、美味しい?」

「うん、美味しいよ」


 しずはにそう聞かれたのでおれは思ったままのことを言った。

 するとしずはは嬉しそうに笑った。


「……ねぇ、君たちただならぬ関係だったりするの?」

「えっ!?」


 俺たちのやりとりを見てか、佐知さんが鋭い目線を向けて、そう言ってくる。

 俺は動揺した。色々と複雑なのに。


「…………」


 俺はなかなか答えを言えないでいたところ、しずはが『ふぅ』と息を吐いて一言言った。


「ただならない関係ですね!」

「ええええ!?」

「えー! やっぱりー!?」


 しずはが訳の分からないことを言い出して俺はさらに動揺した。

 すると佐知さんが、それに理解を示したように手を叩いて予想が当たったことを喜ぶ。


「いやいやいや、ただならなくないです!」


 なんて言えばよいか分からなかったので、同じ言葉で否定した。


「ん〜……でも確かに、前に話聞いた時の子とイメージ違うしなぁ」


 バカ。その話は持ち出すなよ!


「その話聞きたいです」

「しずは!?」


 なぜかしずはは、俺が昔彼女たちに相談した話を聞きたいのだと言う。

 良いのかよそんなこと聞いて。隣にいる深月はなぜかニヤニヤしてるし。その表情からは『ざまぁないわね』と言っているようにも見えた。


「あー、名前は知らないけどね? アメリカにいる子とずっと連絡してないって話だったよね?」

「そうそう、そんな感じだった」

「で、光流くんが連絡した方が良いのか悩んでたんだよね」

「結局あのあとどうなったのー?」


 謎DGが四人一緒に説明し、その後の経過を聞いてきた。


「いや、ちょっとそれは今ここでは……」


 正直こんな大勢の前で言えるような話ではない。俺的にも心を覚悟させて話したい話でもある。


「でもこの場にいないなら会えてないってことではあるよね」

「連絡はとったの?」

「……とってないですけど」


 佐知さんと風華さんが聞いてきて、結局答えてしまった。

 なんとなくしずはの顔が見れなかった。


「じゃあ待つことにしたんだ」

「ってことはもう四年くらい? けっこう長いね〜」

「そうなりますね」


 あぁ。色々と知られてしまう。

 四年か……。確かに長かったけど、今となっては一瞬だった気もする。

 しずはも俺のことを同じように四年も想ってたんだよな。


「くぁ〜〜っ。凄いことだ! 応援してるよ! ってことはしずはちゃんは……」


 佐知さんが何かを悟ったのか、余計なことに気がついたような言い方をする。


「えーと。私、今のところ振られてます」

「しずは!?」


 いや、家族もいるんですけど!?

 ちょっとメンタルどうなってるの。いくらなんでも人前でそれ言える?


 てか今のところってなんだよ。


「こんな一級品の美少女振るとか……少年、バチ当たるよ?」

「いや……申し訳ないです……」


 それは俺だってわかってる。

 でもルーシーへの気持ちはずっと消えなかったんだからしょうがないじゃないか。


「いや、そこまで謝らないでよ〜。ごめんて〜」


 隣にいる佐知さんが、俺の様子を気にして背中をさすってくる。


「じゃあ今日は、おしずも励まさないとだ〜」


 ダウナー系のういかさんが、謎のあだ名をつけてそう言う。


「そうだそうだ! 飲め飲め!」

「みんなの前で光流くんの愚痴吐いちゃっても良いんだよ!?」


 すると風華さんと李未さんがういかさんの言葉に乗って煽る。

 飲めと言ってはいるもののこの場にあるのは飲み物は烏龍茶とジュースだ。


 するとコップの中にあったりんごジュースをしずはは一気飲みした。


「ぷはぁ……」


 良い飲みっぷりだった。


「光流は人に気を持たせ過ぎだー!!」


 するとしずはは俺に対しての愚痴を叫び始めた。

 俺は驚きつつも、ここはそれを受け入れることにして静かに聞いていた。



 ――ここからしずはがさらにヒートアップしていくことになるとは思わずに。







 ー☆ー☆ー☆ー


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