96話 波乱の誕生日会その3

「いいぞいいぞ! 吐け吐け!」


 しずはが俺への愚痴の叫びを一つ発したことから、謎DGダンスガールズがさらに煽っていく。


 振ってしまった側としては、止める権利がないように思ってしまっている。しずはが言うなら甘んじてそれを受け入れても良いと思っていた。


「別に顔はそこまでカッコよくないくせにー! なのに凄いとこあってムカつくー!」


 普通に前半悪口なんですけど!?

 これどう収拾つけるんだよ。絶対佐知さん収め方考えてないだろ。


「男のくせに結構泣き虫なの、女の子みたいだー!」

「あははははっ!!」


 しずはから言いたい放題言葉が出てきて、謎DGの四人は笑い転げていた。

 一方深月はしずはが叫んでる間にもマイペースに料理を食べていて、奏ちゃんはいつもは見れないしずはの姿に感動していた。

 鞠也ちゃんと言えば、一緒になって煽っていた。どちらかと言えば陽キャ組だもんな。


「考えればダメなところもたくさんあるのに、それ以上に良いところが多くてムカつくー!!」


 徐々に褒め言葉が入ってきた。

 てかよくこんなにスラスラと言えるな……。


「ルーシーちゃんのことでうじうじしてたら、ぶっ飛ばす!!」

「!?」


 今は大丈夫だよな?

 うじうじしてないよな俺?


「私はまだ、光流が好きだー!!!」

「はあぁぁ!?」


 しずははハイになっているのか、顔を赤くしながら最後にそう叫んだ。

 後ろを振り返ると、家族たちが優しく微笑んでいた。


「青春だな」

「青春だわ」

「青春だ〜」


 父と母と姉が同じことを呟いた。それどんな感情?


「しずは先輩! よく言いました! 私は先輩の味方ですよ!!」

「わ、私もですっ!」


 すると鞠也ちゃんと奏ちゃんがしずはのことを賞賛した。深月は無言のままだ。


「いやー。いいもん見れた。最近こんな美人でかっこいい子見ないから私しずはちゃんのファンになったわ」


 佐知さんもしずはを賞賛して、拍手すら送っていた。やっぱりしずははどこにいても人を惹きつける才能があるのかもしれない。


「なんかあった時はお姉さんたちに相談しなよ? 何でも相談乗ってあげる!」


 すると佐知さんはしずはの隣まで移動し、肩を組んだ。


「いえ、それは遠慮しておきます」

「なんでぇ!? 今そんな流れだったじゃんっ!」


 しかし、しずははそれを拒否した。

 佐知さんは面食らったような表情で驚く。


「だってお姉さんたち口軽そうなんですもん」


 確かに。絶対軽い。

 鳥の羽のように軽いだろうな。


「いやいやいや! そんなことないって! ねえ灯莉!?」


 すると佐知さんは姉に助けを求めた。


「さぁー? 私しずはちゃんの味方だし」

「なにぃーーっ!?」


 友達の味方じゃないのか。

 いや、こういうことを気軽に言える関係だから友達を長くやっているのかもしれない。


「私には深月がいますから。一人いれば十分です。ねっ、深月?」


 すると今度はしずはが深月の腕に自分の腕を絡ませて少しだけあざとい表情をする。


「ま、まぁ? 私さえいれば十分よっ!」


 すると深月は恥ずかしそうにそう答えた。

 満更でもなさそうなところが可愛い。


 正直この話題は、しずはにとってデリケートな話だと思っていた。でもこの場では暗い感じにならなかった。

 それは良かったとは思う。


 でも皆の前だからこそ無理してないかとも思ってしまう。俺の存在が原因ではあるのだが、気にしないという方が無理な話だった。


 そうこうしているうちに料理もなくなり始め、母がケーキを取り出してきてくれた。

 しかもケーキは一つだけではなく、二つあった。


「実は私達もみんなでお金出し合ってケーキ一つ買ってきましたー!」

「マジですか!? 嬉しいです」


 佐知さん達謎DGメンバーで買ってきてくれたらしい。多分人数が増えてケーキを食べられない人もでることを避けるためだろう。


 確かにケーキは主役だけ食べてもな。

 皆で食べた方がいいもんな。


 その後、去年同様にろうそくに火を灯していき、電気を消した。


 ハッピバースデーの歌はこの歳になると恥ずかしい気がしてきて、できればやめて欲しかったが結局皆で歌われた。


 俺は二つのケーキの火を同時に吹き消し、晴れて十四歳となったことを実感した。


 ケーキを切り分けてそれぞれに食べた。

 久しぶりに食べたケーキはめちゃめちゃ美味しかった。


「光流。これ、私と深月からのプレゼント」


 すると、しずはがカバンから紙袋を取り出し俺に渡してきた。


「ありがとう。開けるよ?」

「うん」


 俺はしずはから受け取った紙袋を開けていくとどこか見覚えのあるようなロゴが入った箱が出てきた。


「あっ、これ……」


 ハンドクリームだった。

 しかも俺が昔しずはにプレゼントした時のものと同じ会社の。


「ギターも指使うからね。ちゃんと塗って保湿するんだよ」

「あぁ、ありがとう」


 こういう目線での気遣い嬉しいなぁ。


「え! 少年ギターやってるの!?」

「初めたばかりですけどね」


 佐知さんからそう聞かれたが、姉はこのことは話していなかったらしい。


「えー! すごい! ライブやったら教えてね!」

「いや、まさかそんな大層なものじゃ……」

「いやー、私は良いライブできると思ってるけどね!」

「買いかぶりすぎです」


 謎の自信による佐知さんの未来視。

 そんな未来全然想像できないよ。


「ひかるー、これ私と奏ちゃんからのプレゼント!」

「ええ! 二人もくれるの!?」


 まさかこんなにもプレゼントをもらえるとは。ならちゃんとみんなの誕生日を聞いて俺もプレゼントしないと。


 鞠也ちゃんから渡された紙袋を開けてみる。

 すると指の部分だけ穴が空いているグローブだった。


「なにあげるか悩んだんだけど、筋トレしてるからこれにした。なんかグローブつけた方が滑らないし手が痛くならないらしいよ?」

「そうなんだ! 早速使ってみるよ。ありがと!」


 これは筋トレ時に使うグローブだった。

 確かにダンベル持つ時とかよく手が痛くなる。ギターもしてるし手は大切に扱わないとな。


「少年、筋トレしてるのか? そう言われると良い感じの体してるかもしれないな」

「ひかるの腹筋凄いですよ。見ます?」

「なぜ鞠也ちゃんが!?」


 鞠也ちゃんがグローブをプレゼントしてくれたことで、佐知さんが筋トレしてることに気づいてしまった。


 そしてなぜか鞠也ちゃんが、俺の腹筋を見せるような話に誘導した。


 すると、佐知さんは餌を見つけた猫のような眼光になり、リーダーシップを発揮した。


「隊員ABC! 取り押さえるぞ!」

「「「ラジャー」」」


 四人同時に俺に襲いかかり、四年前同様に両腕と両足が拘束された。


「しずは! 深月! 助けて!」

「…………」


 しかし二人は静観するのみだった。


そして、身動きが取れなくなった俺のシャツと下に着ていたTシャツまで捲られてしまい、俺の腹筋が露わになった。


「うわああああ。これは凄い」

「中学生とは思えない筋肉だね」


 そう感想を言われ、八人同時に俺のお腹を凝視された。もちろん奏ちゃんにも。


 その後はお分かりの通りの展開だ。


 四人に胸やお腹、腕の筋肉までも触られ大変だった。

 さらにそこにしずはや深月、鞠也ちゃんに奏ちゃんまでもが参加し、俺の体はこれでもかというほど弄ばれた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 乱れに乱れた俺の服装。同時に息も乱れていた。

 親に見せて良い姿ではなかった。



 その後、誕生日会は終わりを迎え、解散となった。先に謎DGメンバーが帰宅し、残った人達みんなで片付けをした。



 そして、俺は玄関の外に出ていた。

 夜も遅いのでそれぞれの家の近くまで送ることにしたのだ。


 幸いにもそれぞれ徒歩圏内だったので、少し歩くだけで済んだ。


 先に鞠也ちゃんと奏ちゃんと深月に別れを告げ、しずはと二人きりとなった。


 俺はここで話そうと思っていたことを話すことにした。


「冬矢、サッカーやめてバンドやるって言い始めたんだよね」

「うそでしょ!?」


 それは冬矢の話だった。

 しずはは案の定驚いた。


「しかもベースやるって言ってて、俺とバンドやるんだってさ」

「……急展開すぎない?」

「そうなんだよね」


 あいつの勢いはさすがに驚いた。

 でも、そう決めたならこれ以上は口出しする必要はない。


「透柳さんに話したらゆかりさんのベース貸してくれるって話になって」

「お姉ちゃんの!? 至れり尽くせりだね」

「うん。しずはの家族には頭上がらないよ」


 親切にされすぎているから、借りの返し方って困るな。大人だから俺たちが持ってるものは全部持ってるだろうし。


「私には?」

「え?」

「私には頭上がらなかったりする?」

「……今日の誕生日会でそんな雰囲気になってたじゃん……」

「ふふ。あのくらいは良いじゃん。こっちだって恥ずかしい思いしたんだし」


 顔赤くなってたしな。雰囲気に任せて色々言っちゃってたし。


「あれは本当姉ちゃんの友達がごめん。あんな人たちだから」

「いいよ。楽しかったし」

「無理してないから心配だったよ」

「そりゃ多少はあったけどさ、前にも言ったけど前向きに考えたいから」

「うん……」


 まぁそうだよな。

 完全に割り切れる人なんてごく一部なんだろうな。


「だから変に私に気遣わないで? 光流が暗い感じになるのは私も嫌だからさ。ね?」

「わかったよ……」

「ならよし!」


 しずはは笑顔になって、俺を安心させる。


「さっき皆に言ったことは、本当だからね?」

「ええと、今のところってやつ……?」

「全部」


 俺のことをまだ好きって話も、か。

 顔カッコよくないと言われたのは少し気にしてるけど。


「ルーシーちゃんと再会しても光流に隙ができるなら、私積極的になっちゃうかもしれないから」

「それはそれで困るかもしれない……」

「困らせてあげるんだからっ」


 イタズラな微笑みをしながらしずはがスキップして俺の先を歩く。

 街灯だけが照らす静かな夜道。しずはの足音だけがよく聞こえた。


「ここまででいいよっ」


 もう目の前にしずはの家が見えていた。


「わかった。今日は本当にありがとう。こんなに友達に祝われたの初めてだったよ」


 しずはが振り返って俺に言う。


「――八月八日」

「え?」

「私の誕生日! 期待せずにいるから!」

「……わかったよ!」

「ありがと。それじゃあ光流、おやすみっ」

「うん、おやすみ」


 しずはは手を振りながら、自分の家へと消えていった。

 俺も手を振ってしずはを見送った。



「――ふぅ」


 とりあえず全員を家に送り、俺も家に帰ることにした。


 今日はとんでもない日だった。

 特に謎DGのせいで、しずはがあんなこと言い出すなんて。まだまだ俺に言いたいこと溜まってるんだろうな。そう思った。


 それはそうだ。俺だって今のところ、四年分も言いたいことが溜まってるんだ。しずはだって隠してた気持ちが多分まだあるはずなんだ。


 あの告白された日はたった一時間ほど。

 俺もしずはも想いは告げたと思うけど、全部じゃない。

 伝えきれなかったものだってあるんだ。


 しずはは容姿だけでもめちゃめちゃ美人で可愛い。多分他の男の人に見せない表情だってしてくれてた。

 だから正直に褒める言葉も使いたい時もあった。


 でも気軽にそれを言えないのは、やっぱりルーシーにたくさん言いたいからだろう。


 ルーシーが病気で、同情とかそういうものからじゃない。

 ただ、俺が言いたいんだ。


 だから今までも"綺麗"って言葉だけは、しずはにも言わなかった。言えなかった。


 いつかちゃんと言える日が来るのだろうか。

 その時まで、この言葉は封印しなくてはいけない。


 俺の中で大事な、大切な。とっておきの褒め言葉なんだから。






 ー☆ー☆ー☆ー


この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!

もしよろしければ小説トップの★レビューやブックマーク登録などの応援をしていただけると嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る