73話 初詣

 一月一日。年が明けた。


 冬矢が皆に連絡を取ってくれたので初詣に集まることになった。

 さすがに年越し参りは中一である俺達だけでは心配ということで初詣のみとなった。


 俺達は浅草駅に来ていた。


「あけおめー! わー、みんな集まってる!」

「あけおめ。このメンツ久しぶりだな〜」


 千彩都と開渡だった。

 カップルの二人は手を繋いでいた。


 既に他の四人は集まっていて、これでメンバーが揃った。


「おいおい、お熱いじゃねーか」

「ま、ね〜」


 冬矢の言葉に千彩都が開渡の手を挙げて手つなぎアピールをする。


「からかい甲斐ないな〜」

「あんたら、今日はその手離して歩きなさいよね」


 深月が鋭い目で言い放つ。


「え〜でもしょうがないか。開渡の手……また後でね〜」

「キモっ!」

「深月ちゃん羨ましがらなくていいって〜」

「羨ましくないっ!」


 会ってそうそうにケンカっぽくなる。

 まぁ本気のケンカではないことは皆わかってるけど。


「しーちゃん久しぶりだねっ」

「うん。千彩都に会いたかった」


 千彩都としずはは久しぶりに会ったようだ。

 千彩都はずっとバスケで忙しかったらしいからね。


「深月ちゃんだけじゃ物足りなかったか〜」

「は?」

「ううん。深月は凄い頼りになってるよ。可愛いし一緒にいて癒やされる」

「あっ……あんたね……何言い出すのよ!」


 千彩都の煽りで怒った深月だったが、しずはにそう言われて嬉しそうな表情になる。


「ほらね?」


 しずはが深月のチョロい部分を指摘。


「可愛い」


 千彩都が言う。


「うるさい!」

「可愛い」


 冬矢が言う。


「うっ……」

「可愛い」


 開渡が言う。


「ううっ……」

「可愛い」


 俺が言う。


「うあーーーー!!! 私をおちょくるなーっ!!」


 なんでこんなにもいじり甲斐があるのだろう。


「ふふ、私達以外じゃ深月はこうはならないんだけどね」

「そうなの?」


 しずはがクラスでの深月のことを言う。

 すると冬矢が聞いた。


「うん。いつもツンツンしてるから恐れられてる」

「もったいないなぁ〜」

「だよね。でも私達の特権だね」

「そうだな。今日もこれからおちょくるのが楽しみだぜ」


 俺達は揃ったので、雷門へと向かった。




 ◇ ◇ ◇




「人多すぎ……これ死ぬわよ?」


 深月が文句を言う。


 一月一日だからな。とんでもないほど人が多い。外なのに満員電車の中にいる気分だ。

 雷門から賽銭箱まで辿り着くのに一時間はかかるかもしれない。


「とにかく列に並ぼうぜ」


 通りの露店は、一度列から抜けると戻ってこれないと思い、ちゃんとお参りするまではずっとこの列にいることにした。



 それから約一時間。やっとのことで、俺達は賽銭箱の場所まで到着。

 賽銭を投げて、二礼二拍手一礼をする。



『ルーシーが元気でいてくれますように。願わくば彼女の――』


 

 俺同様に、皆それぞれが何かを祈った。


 こういうお参りでは、神様に何かお願いをしてはいけないとも聞く。

 でも、一つだけ願ってしまった。



 俺達は横にはけて、次におみくじを引きに行った。

 百円を入れて出てきた棒の番号の引き出しの一番上の紙を取る。


「わっ……小吉……」


 微妙過ぎる。浅草寺は大凶が多いと聞くが、他の皆はどうだろうか?


「私大吉〜っ!」


 深月だった。ニコニコで嬉しそうにしている。

 結果。俺、小吉。冬矢、凶。しずは、吉。深月、大吉。開渡、末吉。千彩都、吉だった。


 誰も大凶がでなかった。ただ、冬矢だけは凶だったのでおみくじを所定の場所に括り付けた。

 

 その後、俺達は露店へと向かった。

 それぞれ焼きそば、たこ焼き、じゃがバター、お好み焼きなどを買って、なんとか座れるところを探して食べた。


「さて、皆今年の目標言い合おうぜ。具体的にな」


 冬矢が言い出した。


「じゃあ俺から。一年間で五十ゴール決める!」


 そんなに試合数あるの? もしできたらすごすぎるんだけど。


「じゃあ俺。テストで一位取る」

「おお〜、光流ならいけそう!」


 俺がそう言うと千彩都が後押しする。

 俺の成績は学年でトップ十五までになっていた。

 最高順位は十三位だ。正直一位はかなり難しい。


「俺は地区優勝して都大会ベスト8だな」


 結構すごくね? こう言えるってことはテニスで結構勝ってるんだろうか?

 試合には出させてもらっているとは聞いている。


「私は料理うまくなることかなー。あ、具体的にか。なら週に一度は家で料理手伝う!」


 千彩都の目標だった。バスケは?


「バスケどうしたんだよ?」


 冬矢が聞いた。


「集団競技だからね。私の力だけじゃどうしようもないこともあるのよ。結構の他の学校も強くて」


 だから料理か。うまくなって開渡にでも作ってあげるのだろうか?


「私は国際コンクールでダントツの一番になることかな」


 しずはもついに国際コンクールに出場し始めたと聞いた。

 聞く話によれば既に金賞を受賞したとか。でも他の子も同時に金賞なので、さらに突き抜けたいということだった。


「一人だけ目標の次元が違うんだよな」


 冬矢の指摘もそうだ。ついこの前までは日本一位だったのにもうアジア一位までは来ている。

 年齢制限的にまだ出場できないコンクールも多く、高校生になったら出場できるコンクールも増えてくるらしい。


「私はしずはが出場しないコンクールは全部一位取る」


 今まで一度もしずはに勝てていないらしい深月。

 深月はしずはが出場していないコンクールにも出場しているらしく、そこでは一位をとっているとか。だからこそ一位は落とせないのだろう。


「出揃ったな。じゃあ一年後叶えられなかったやつはペナルティな」

「はぁ!?」


 冬矢の指摘に俺は声を出した。


 俺テスト一位なんですけど。俺がかなり勉強を頑張っても上には上がいた。

 一桁台もまだなのに。


「まぁ……何か一つ秘密を暴露するとかそういうのならいけるだろ?」

「秘密か……」


 俺の秘密は特にない。

 いや、知らない子から好きと言われていることは冬矢にしか言っていないから、これくらいかな。


 誰にでも秘密はあるか。


「てか、今思えば全員の目標って結構達成が大変かもしれないよね」

「千彩都のはいけるだろ〜」


 千彩都が呟くと冬矢が指摘する。


「週一回って結構大変だよ!? 私部活もしてるのに。だから週末しかできないし」

「それは朝早起きして朝ご飯の準備とかでも良いんじゃないか?」

「まぁ……それくらいなら?」


 部活をしているなら確かにキツい。

 インフルエンザなど風邪になったりでもしたらすぐに達成できなくなりそうだ。

 毎週というのがなかなかにつらい条件だ。



「じゃーここ出ようぜ」 



 冬矢の声で俺達は人混みを掻き分けて道路まで出る。


「ここからは自由行動で、俺は光流に用事あるから。じゃあな」

「あ、皆。言うの忘れてたけど、明けましておめでと! 今年もよろしくね!」


 俺はそう挨拶をして、冬矢と共にスカイツリー方面に歩き出した。


 俺たちの他はしずはと深月。千彩都と開渡というにペアずつで別れて行動することになった。




 ◇ ◇ ◇




「あんた、何お願いしたの?」


 私と深月、二人だけになってから深月が聞いてきた。


「言わなきゃだめ?」

「言いたくないやつならいいけど」

「深月の教えてくれるならいいよ」

「わかった」


 すると歩くのを止めて、私の耳元で囁いた。


「好きな人を作れますようにって」

「ええっ!?」


 目が飛び出すと思うくらいびっくりした。


「嘘に決まってるじゃん」

「び、びっくりした〜〜〜っ」

「いや、そう言われると傷つくんだけど、別に興味がないわけじゃないし」


 急に恋愛に積極的になったかと思った。

 でも興味がないわけではないのはちょっと嬉しい。


「どういうタイプが好きとかあるの?」

「先にあんたのお願い教えなさいよ」

「ちょっと待って。深月のお願いまだ聞いてない」


 騙される所だった。さっきのは嘘だから本当のお願いを聞いていないのだ。


「バレたか。あんたに追いつくことよ」

「そっか……嬉しい」

「嬉しいの?」

「うん。深月と一緒にピアノ出来て嬉しい。だからいつまでも私を孤独にしないでほしい」

「あんたに追いつくのに苦労しっぱなしよこっちは」


 そう文句を言ってるけど、いつも本気でピアノで戦ってくれる。

 千彩都とはまた違った特別な存在。


「じゃああんたの教えなさいよ」

「うん、私は――」


「――――」


「ふーん。それで良いんだ」

「うん。良いの……」

「まっ、あんたがそう願ってるなら、それで良いんじゃない?」

「うん……」


 私の願いは、私のことではない。

 私のことじゃなくて……。


「あ、今日は私に奢らせて?」

「なんでよ?」

「マカロンのお礼」

「あぁ……あれくらい良いのに」

「いいからっ」


 私達は近くのカフェに入った。


 私が光流の誕生日に渡したマカロン。

 あれはちーちゃんではなく、深月に教わったものだった。


 ピアノという指先を使う繊細な動きから手先が器用だとも思われるが、私はピアノ以外は全くできなかった。クッキーはちーちゃんから教わったけど、今回は忙しそうだったので、深月に話してみたら、普段お菓子作りをしていると言うのだ。


 だから深月にお願いした。

 深月はピアノで手先が器用なことがそのまま実生活にも反映されていた。

 本物の天才は違う。私は努力量でカバーしているだけ。


「まさか深月があんなにお菓子作りできるなんてね〜」

「ストレス発散みたいなものよ」

「そんなストレス解消法羨ましい」


 深月は一般的なお菓子だけではなく、お店で売っているようなお菓子までチャレンジしているようで、他にはカヌレ、タルトタタン、ガトーショコラ、バスクチーズケーキ、エクレアなどを作ったりするとか。フランスのお菓子が好きらしい。


「深月のお母さんって、すっごい深月のこと好きだよね」

「あ〜そうかもね。ずっと優しい」

「一緒にお菓子作りするのもきっと楽しいんだよ」

「うちは子供は私一人だからね。そうなっちゃうのかも」


 深月の家は一人っ子だ。

 だからこそなのか、凄く大事に育てられてきてる感が強い。


「まさかマカロンだけで、あんなに色んな味が作れるなんてね」

「あれは面白いわよね。私も作ってて楽しいもん」

「ね、カラフルだもんね。食べるの勿体ない」

「あいつ、ちゃんと食べたんでしょうね?」

「光流? 食べてくれたと思うけど……」

「あいつ、食べてなかったらこの私がはっ倒す」


 深月に手伝ってもらってるから、深月がそう言うのもわかる。

 自業自得だが、食べた感想すら聞けないというのはちょっと残念。


 でも今年は名前を明かして正面から向き合うって決めた。

 私の覚悟の年だ。






 ー☆ー☆ー☆ー


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