53話 相談

「女の子が連絡してこない理由って何がありますかね?」


 俺は謎ダンスガールズに女の子ルーシーが連絡してこない理由を聞いていた。


「もしかして彼女さんから連絡ないの?」

「彼女ではないですけど、そんなところです」

「いいね、こういう話がしたかった!」


 彼女たちは目を輝かせて、テーブル越しの俺に向き直る。


 俺はルーシーが目を覚まして、俺のことを気にしていたことは伝えられたが、その後は俺宛にも連絡がないことを共有した。


「これは難しい問題ね……」

「色々なパターンが考えられるね」

「彼女は目覚めてから、色々頭が整理ついてない頃だと思うし、何か新しく気を遣わなければいけないことができてるかもしれない。しかもアメリカだし」


 アメリカ。行った事はないが日本とは全く違う文化だし、入院してるだけとはいえ、気を遣うこともたくさんあるだろう。


「私は逆に光流くんに関する何かがあるからこそ、連絡してないとかあると思うんだよなぁ」


 俺に一番最初に話しかけてくれて、たまに俺を少年と呼ぶ女子1がそう考えを言う。ちなみに彼女の名前は佐知さちさんというらしい。


「佐知さん、それどういう意味ですか?」

「私も男子じゃないからわからないけど、女子は男子に特に好きな男子だからこそ隠したいこととかあると思うんだよね」


 俺にはよく理解できなかったので、言い換えて聞いてみた。


「それはサプライズ的なことですかね?」

「サプライズとは違うかも知れないけど、驚かせたいとか、時期がくるまで秘密にしておきたいとか?」

「なるほど……」


 そういうこともあるのか。でもルーシーがそうする理由が俺には全く浮かばない。俺が男子だからかもしれない。


「でも、それ関係なく連絡をとろうと思えばできる。けどそうしないってことは、やっぱ光流くんだからこそ連絡しないでおきたいとかあるんじゃないかな」

「そういうものなんですかね?」

「まぁあくまで仮説ね!」


 ルーシーが俺の事を何かしら想っててくれるなら、その為にわざと連絡しないというのもあるかもしれない。逆にルーシーも連絡したいけど我慢してるパターンもあるってことなのかな。


「少しだけ腑に落ちた気がします」

「ふふん、私を讃えよ少年」

「佐知さん、本当にありがとうございます」


 俺は真剣に佐知さんに感謝の言葉を贈った。


「灯莉、やっぱ光流くんもらっていい? すごい可愛い」

「何言ってんのよ。光流は私のなんだから」


 姉が俺の腕に絡みついて、小さな膨らみを当ててくる。


「それなら、俺からも連絡ってしないほういいんですかね?」

「んん~。ふーちゃんバトンパス!」


 佐知さんが女子2へ回答をパスした。彼女の名前は風華ふうかと言うらしく、ふーちゃんと呼ばれていた。


「連絡されたくない時にしつこく連絡が来たら人って逃げちゃうからね。難しいところよね」

「そういうのあるんですね。確かにしつこいのは良くない気はします」


 それなら結局ルーシーに連絡はしないほうがいいのだろうか。


「その子が目を覚ましてまだ少ししか時間経ってないなら、とりあえずは待ったほういいと思うけど」

「そうですよね……」

「それで、何ヶ月も連絡来なかったら佐知の話してた事が現実化してる可能性もある。まだ光流くんの事が頭にあれば」


 何ヶ月もかぁ。今すぐ会いたいくらいなのに、俺は我慢できるのだろうか。でもルーシーが嫌なことはしたくないし。


「あとはネガティブな話しちゃうけど、事故の影響か手術の影響で心なのか体なのかに影響出てる可能性もあるんじゃない?」


 するとお風呂に入る前に足に絡みついていた女子3が意見する。彼女の名前は李未りみさんというらしい。


「二、三ヶ月も目覚まさなかったから、それはあり得るのかも知れません。今ところそういう話は入ってきてませんけど」

「意図的に伝えてないってのもあるかもね。光流くんに心配させないようにね」

「それはそれで、嬉しいようなそうでもないような……」


 事故か手術の影響。考えたこともなかったな。自分がピンピンしてるから、ルーシーも目覚めただけで、元通りって思ってしまってたけど、そうではないこともあるのか。


「ひかるんはぁ、結局どうしたいの?」


 今までは『ぶーぶー』とか『ほれほれ』とかしか喋っていなかった女子4が発言した。しかも勝手にあだ名をつけられている。

 彼女の名前はういかさん。見た感じ不思議ちゃんでダウナー系というやつに見えた。


「俺は……連絡したいです。でもみんなの話聞いてルーシーの気持ち優先したいから、今はルーシーから連絡くるまで待とうと思ってます」

「答え出たじゃん」

「そう、ですね。ありがとうございます」

「ひかるん歯切れわる~い」


 連絡したいけど、連絡できない。それもいつまで待てば良いのかわからない。ルーシーへの気持ちの行き場がどこにもない。


「自分の中では割り切れてないかも、です。ルーシーに会いたいとか連絡したいって気持ちがいっぱいで」

「いいぞいいぞ、悩め少年よ」


 俺を少年呼びするのは佐知さんだ。半分は茶化していて、半分は真面目に聞いてくれている印象だ。


「じゃあ、また相談してくれます?」

「もちのろん! 今度一緒にダンス踊ってくれたらね」

「それは遠慮しておきます」

「なんでぇぇぇ!?」

「ちょっと俺にはハードル高いです」

「ニワトリコッコヒヨコッコダンス簡単じゃん!」


 やっぱニワトリだったのか。あの頭を前後に揺らす動きにラップ調。未だによくわかっていない。

 ちなみに通称ニワココダンスというらしい。


「じゃあ光流くんが大っきくなったら合コン開いてもらうから、それまでにイケメンと仲良くなっておいてね!」

「あ~、それなら適任がいるので任しておいてください」

「おいおい小学生に合コンのセッティングできるような友達いるってどうなってるのよ」

「俺の友達に特殊なやついるので」


 そう話して、冬矢の事を思い浮かべた。あいつならいくらでも友達を呼べるだろう。


「とりあえず今日は本当にありがとうございました」

「いつでも相談乗るからねっ!」

「今度はゲームとか一緒にしよ~」

「佐知とかうちの家で遊んでもいいぞ」

「ともりんなしでひかるんと遊ぼ~」

「あんたら何考えてるの。光流が行くなら私も行くに決まってる!」


 謎ダンスガールズに相談した事でひとまず『待つ』という行動は決まった。


 それから夕方まで彼女たちと他愛のない会話をしてお開きとなった。


「光流、少しは悩み解決した?」

「うん。みんなに相談できて良かった」

「お姉ちゃんにも相談していいんだからね?」

「うん。なんかあった時は相談するね」

「よしよし」


 姉に頭を強めに撫でられ髪がボサボサになる。そうしているうちに父と母が帰宅した。


 母は袋に入れられたピザの箱を持っていた。帰りに美味しそうなピザ屋さんがあったから買ってきたとか。

 それを見た俺と姉は顔を見合わせて、引き攣った表情になった。


 ――母さん、今日二度目のピザはさすがにきついよ。


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