46話 退院祝い
『ピンポーン』
家のチャイムが鳴った。俺が退院してから三日目のことだった。
「光流〜? お友達来てるわよ〜!」
一階から二階の自室にいる俺に向かって母が大きな声で呼んだ。
誰だろう。俺は階段を降りて一階の玄関に向かった。すると――、
「へーい、ひかる! 遊びにきたぜ!」
冬矢だった。さらに冬矢以外にいたのは三人。
「ちょっと、遊びじゃないでしょ! 退院祝いでしょ?」
「そうそう、せっかく光流が元気になったんだよ?」
「あんたね……」
「わかってるって、ちゃんとケーキ持ってきてるじゃん!」
男子が二人、女子が二人。
冬矢とは元々遊ぶ仲ではあったが、他の三人は俺が入院したことをきっかけに、冬矢が誘って連れてきた友達だった。
それまで女子とはあまり話していなかった俺も、病室へのお見舞いがきっかけで交流が増えていた。
「みんな……ありがとね! この通り元気になったよ!」
俺は二の腕の筋肉をグッと見せるようにポーズをとった。
「お前なぁ、まだまだ腕細いじゃねーか!」
「まぁ、それはこれからご飯食べて元に戻すよ」
病室にお見舞いしに来てくれたメンツはこの四人だけではないが、特に何度も顔を見せてくれたのがこの四人だった。
「ほら、お友達ずっと立たせてちゃ申し訳ないでしょ。みんな上がっていってね?」
「お邪魔しまーす!」
「お前、遠慮ないなぁ……」
冬矢が母の言葉ですぐに靴を脱いで玄関から上がった。もう一人の男子は、それにツッコミを入れる。
「いや、俺この家に何度も遊び来てるし!」
その通りだ。何度冬矢と対戦ゲームをしたかわからない。
特にサッカーゲームはしすぎて、国旗までかなり覚えてしまった。例えばフランスとオランダとロシアなんかは、白と青と赤で配色が一緒だが、瞬時に見分けられる。
「冬矢、今日はサッカースクールないの?」
「冬はスクール少なめなんだ〜っ」
そうなのか。雪は降ってないから変わらずにあると思っていたけど。
「じゃあ、みんな上がっていって。冬矢、皆を俺の部屋に連れて行ってもらっていい? 俺お菓子と飲み物準備して持っていくからさ」
「光流〜、お前は病み上がりなんだから休んどけ。俺達が持ってくからさ」
「あ〜……じゃあそうしようかな」
遠慮はないけど、こういったような気も遣える。それが冬矢だ。こいつの変な優しさには、いつも助けられている。
「私達も手伝うからさ、光流は先に部屋に戻ってなよ?」
「いいよいいよ。こういうのは男がやっておくからさ。な、
「あぁ、俺達に任せて先に上がってなよ」
「じゃあ……そうするか……」
俺は冬矢と開渡と呼ばれた男子にお菓子と飲み物を任せて、先に女子二人を二階の部屋に案内した。――というか女子を部屋に上げるの初めてなんだが。無駄に緊張してきた。
「ええと、ここが俺の部屋! ゲームと漫画しかないけどね!」
「ふ〜ん、こんな感じなだ。お兄ちゃん以外の男子の部屋入ったの初めて……」
「そうなの? 私はかいちゃんのお家行ったことある」
「ちーちゃんはそうでしょうけど……」
そんな女子二人は、俺の部屋を見渡して物色を始めた。
「男の子の部屋にはね、変な本があるんだよ?」
「変な本って何よ……?」
すると女子1が女子2に対して、何かを耳打ちする。
「……ッ!?」
すると女子2の顔がみるみるうちに赤くなっていく。
「おい、何話してるんだよ」
ニヤッとした女子1は俺の顔を見る。
「むふ〜っ。さぁ何でしょね?」
「まぁいいけど……見られて困るようなものないし」
「ないんだ。かいちゃんの部屋にはあったんだけどなぁ〜」
「部屋勝手に漁るなよ……」
女子1は言い換えれば小悪魔だ。いつもの会話の内容から恋愛に関して、かなり知識豊富でマセている。男子の中では特に開渡と仲が良い。
「持ってきたぜ〜っ」
するとそこに冬矢と開渡がドアを開けて入ってきた。
二人が部屋に入ってくると、部屋の中央にあるテーブルの上に飲み物とコップ、ケーキにお菓子類を置いていく。
それぞれ適当に座る。座る場所が四つしかないので、俺は机の前の椅子に座ることにした。
「おいおい、部屋の主はこっちに座りな〜?」
冬矢が気を利かせてくれる。
「じゃあ……」
そうして、コップにジュースを注ぎ終わると――、
「退院おめでとー!」
冬矢の掛け声で、俺の退院を祝ってくれた。
ではここで、俺の友達を紹介しよう。
まずは、机の前の椅子に座っている昔からの友達である
この時は髪がまだ短く、短髪でおでこ全開。冬矢は小さい頃からサッカースクールに通っていて、結構上手いらしい。どのくらいの実力かはよくわかっていないが、サッカーゲームをしていても知識が豊富だ。小学校低学年からの友達。妹が二人いて、たまに冬矢の家に遊びに行くと、遊んでと構われたりする。
そして、俺の左隣に座るもう一人の男子である
開渡はテニススクールに通っていて、県大会に出るくらいには上手いらしい。ミディアムくらいの髪で、伸びてくるとテニスするのに髪が邪魔でボールが見づらいとぼやいている。
冬矢よりは常識人だと俺は思っている。
俺はスポーツも何もしてこなかったので、スポーツができる男子に囲まれていると少々肩身が狭い。
次に俺の向かいに座る、部屋を積極的に漁りだした女子1。彼女は
少し長めの髪をポニーテールにまとめている。小学校ではバスケットボールクラブに所属していて、活発でグイグイ系だ。男子にもよく話しかけているところを見かけるのでモテるタイプだと思う。開渡と千彩都は昔から仲が良い。
そして最後は俺の左隣に座る女子2は、
髪はストレートで肩より上で切りそろえられている。音楽一家で、父はギタリストで母はピアニスト、姉はベーシストで兄はバイオリニストというとんでもない家庭だ。
彼女自身は小さい頃からピアノをやっているらしい。全国大会で賞をよく受賞していると聞いたことがある。学校行事ではいつもピアノの演奏を担当している。彼女はぶっきらぼうな印象が強く、ツンデレというやつだ。
池橋冬矢、古谷開渡、奥村千彩都、藤間しずは。この四人が特に病院にお見舞いに来てくれていた俺の友達。
「光流、来週の月曜から学校に来るんだろ?」
「うん、そうだね。勉強ついてけるか心配だよ」
「まー光流なら大丈夫じゃない?」
「そうそう、病院でも勉強してたし」
「心配なのは私達のほうかもね……」
皆には俺が勉強できるように見えているらしい。
「しーちゃんはピアノあるじゃん。今のところ学校では良い評価でしょ?」
「どうだろ。勉強がめっちゃできるわけでもないし……ちーちゃんの方勉強できるでしょ〜」
「親にうるさく言われてるからしてるだけ〜」
スポーツや音楽活動もして、勉強もしているというのはすごい。
俺なんて勉強だけなのに、同時並行にしているのは素直に尊敬する。
「開渡とちーちゃんはよく一緒に勉強とかしてるもんな〜」
「ほんっと、そういう情報どこから手に入れてくるのか……」
「冬矢の友達の多さと言ったらねぇ……」
開渡と千彩都は俺と冬矢のように昔から仲が良い。というのも親同士が元々知り合いだったらしく、それでよくお互いの家に行っていたとか。なので、たまに二人で勉強したりとかもしているらしい。
「俺達も混ぜろよ〜っ」
「二人きりでやってるのに悪いでしょ……」
「別に良いよな、ちさ?」
「私も問題ないよ! かいちゃんの家なんていつでもいけるし」
「ほぉ〜、私達の関係はそう簡単に崩れませんってか……絆は深いな〜お前ら」
ということで、たまに一緒に勉強することになった。
もしかして、これは俺が授業についていけるかどうかに対して気を遣ってくれたということなのだろうか。
それとも千彩都と開渡の関係を茶化したいだけなのだろうか。
「なぁ、ウィナイレやろうぜ!」
冬矢が言い出した『ウィナイレ』、正式名称は『ウィナーズイレブン』。俺と冬矢が昔から何度もやっているサッカーゲームだ。今や十三作目までアップデートされ、最新版が発売され続けている。
「女子もいるのにいいのか?」
俺は疑問を持った。
「しずはとちーちゃんはどうだ?」
冬矢は二人の女子に聞く。すると――、
「私はかいちゃんの家で少しだけやったことあるけど……」
「私、スポーツのこと全然わからないんだけど……」
特にしずはなんて、家では音楽漬けだろうしゲームをやっているイメージがあまりなかった。
それなら、新しいことにチャレンジしてみてもいいよな?
「ならこの機会にやってみようぜ! ルールは俺達が教えるからよっ」
「俺も教えるよ!」
「そうそう、俺だって教えるよ」
男子三人が全員、教えると声を揃えた。ここまで言われて断るという選択肢はまずないだろう。
「それなら……ねぇ、しーちゃん?」
「うーん……皆が教えてくれるなら……」
こうして女子含めて『ウィナイレ』をやることになった。
◇ ◇ ◇
「ちさ! いけっ! そこで丸ボタンっ!!」
「しずは打たせるな! タックル!! 四角ボタン連打!!」
どうせならと、初心者女子同士でも対戦させてみた。
開渡は千彩都に教えて、俺はしずはに教えていた。
「よし取った! そのままドリブルして〜、そこでパス!」
「かいちゃん取られたぁっ!」
俺と開渡はそれぞれにゲームハードのPN4ことプレイネーション4のコントローラーの操作を教えながら指示する。
「光流っ! ここからどうするの!?」
「ゴールの前までドリブル! 近くまで行ったら四角ボタン!」
「ちさ! ボール持ってるやつ追うんだ! すぐ丸でスライディング!」
「ここでっ!?」
『ピー!!』
しずはがゴールエリアまで運んだボール。シュートを打つかと思いきや、その前で千彩都が操作するプレイヤーキャラがスライディング。しかしそのスライディングは後ろからだった為に、ファウルの笛が鳴った。しかもレッドカードで退場した。
「あ〜、ちさ悪い。本当はディフェンスのキャラ切り替えてスライディングしてほしかったんだけど、難しかったかもし……」
「かいちゃん何言ってるのか全然わからないっ!」
ボールがセットされて、PKが始まる。
ウィナイレでPKで蹴れる位置は左右真ん中の上下で六つだ。キーパー側はそれを読んで止めることになる。
「しずは、好きなとこ蹴っていいぞ」
「う、うん……」
そうして、しずはのプレイヤーキャラがシュートモーションに入り……蹴った。
『バサッ……』
『ゴォォォォォォォォォル!!!!』
サッカーの有名実況アナの声が轟き、しずはのシュートが決まった。
「やった〜〜!!!!! しずはっ!!」
「えっ!? はっ!?」
しずはにハイタッチしようとしたが困惑していた。少しだけ手を上げたので、俺はその手に無理やりハイタッチした。
「やったじゃんっ」
「ふ、ふんっ。私の実力ならこんなもんよ……」
しずはは大っぴらに喜ばないが、顔の雰囲気で喜んでいるのがわかる。
「かいちゃ〜ん、入れられた〜」
「ごめん、ごめん。これは俺のアドバイスのせいだわ……」
そうやって、皆で交代交代でゲームをしながら過ごした。
帰る頃になるまでに俺は皆と連絡先を交換した。
事故に遭ってから、両親は俺に何かあった時にすぐ連絡できないと困るということで、スマホを与えられた。なので、友達ともチャットアプリなどで連絡することができるようになった。
◇ ◇ ◇
「みんな今日は来てくれてありがと。来週からまたよろしくね!」
夕方、俺は玄関で皆を見送っていた。
「おう、またな!」
「じゃね〜っ」
「光流、来週ねー!」
「光流またね」
そうして、皆が玄関から帰ろうとするが――、
「冬矢! ちょっとだけいい?」
「ん? あぁいいぜ。悪い、先帰っててもらえるか?」
「はーい」
俺は冬矢を引き止めた。彼だけ残って他の三人は先に帰ることになった。
「悪いね」
「いいよいいよ、それで、何か用か?」
俺は一つ調査をしたいと思っていた。
「明日学校終わってからでいいからさ、ちょっと付き合ってもらっていい?」
「あぁ、いいぜ」
「ありがとう。そしたら学校終わったらそのまま家に来てもらってもいい?」
「オッケー。どんな用事なんだ?」
別に絶対しなければならないことではない。でも、色々と確かめておきたいことがあった。
「隣町の
「ほぉ……大体イメージはつくけどな。あの子絡みなんだろ?」
冬矢は察しが良い。
「そうだね……一人じゃ心細いからさ、頼めるの冬矢くらいしかいなくて」
「ったくしょーがねーなぁ! じゃあ明日の十五時くらいにまたここに来るから!」
「ありがと!」
冬矢は俺と約束をして今度こそ帰っていった。
俺の目的はルーシーが通っていた小学校の調査。
私服登校なので、俺達が侵入しても多分バレないはずだ。
ルーシーをいじめていたクラスメイト達。何かするつもりは今のところないが、もしいつかの時の為に、俺はそいつらのことを心に刻みつけておこうと思っていた。
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