39話 久しぶり
「この後どうする……?」
光流と再会することができて、真空を紹介できて、冬矢くんを紹介してもらえて。
包帯をとって顔を見せることができて、須崎と氷室も加えて六人でケーキを食べて……。
そんな素敵なクリスマスイブを過ごしていた中、ぽつりと冬矢くんが呟いた。
ケーキを食べ終わって、現在の時間は七時頃になっていた。
クリスマスパーティーと言ってもケーキだけしか食べていない。まだ胃袋は空いていて、普通の食事もとれるだろう。
「みんなご飯はどうする予定なの?」
私と真空は今日の光流との状況に合わせようと思っていた。家に戻れば料理はいつでも用意してもらえる。
光流と冬矢くんの予定はどうなのだろうか。
「俺はルーシーと会う為に時間とってたからこの後も空いてるんだけど、ご飯のこと全然考えてなかった……」
「俺も日中に予定終わらせたからな。夜は空いてる」
これはつまりご飯は用意していないということだ。
それなら、いっそ……。
「良かったら、うちでご飯食べる……?」
光流と再会できたことを、光流と一緒に家族に言いたい。
「ルーシー良いの?」
「氷室、大丈夫……よね?」
これは今思いついたことなので、家には連絡していない。
真空に大丈夫なのかと聞かれた。
「ええ、問題ありませんよ。奥様方には連絡しておきます」
問題ないようだった。氷室のことだ。このような展開になることを予測して、準備は進めていたのだろう。
「光流と冬矢くん、それで大丈夫かな……?」
まだ、二人に問題ないか聞いていなかった。
「俺は問題ないよ!」
「俺も良いのか? 初対面なのに……」
光流の友達というだけで冬矢くんの全てを信じるというのは違うと思うけど、真空とのやりとりを見ていると問題なさそうに感じた。
「うんっ! 大丈夫! 光流の友達だもんっ」
そうして、このままリムジンで私の家に移動することに決まった。
◇ ◇ ◇
私の家の前まで到着すると、二人は真空が初めて私の家を見た時のような反応をしていた。
光流も冬矢くんも興奮しっぱなしだった。
「ルーシーのお家、わかってはいたけど、驚きの限度はあるよね」
「ルーシーちゃんに執事とか運転手ついてる時点で普通じゃないとはわかってたけどさ……」
ちなみに冬矢くんには、ルーシー呼びは問題ないと言ったので、好きに呼ばせている。
でもいつか光流には、特別な呼び方をさせたいと心の中で思っていた。
門から玄関に向かい、家の中に入る。
ずっと目を見開いていた二人だが、使用人たちが人が出迎えてくれるとペコペコしていた。
そして、その使用人たちは、私の顔に包帯が巻かれていないのを見ると、嗚咽を混じらせたような声を漏らし、『お嬢様すごくお綺麗で……』とハンカチを取り出して目を抑える人やその場に崩れ落ちて『本当に良かった……』と喜んでくれる人などがいた。
家には全員で十人ちょっとくらいの使用人達がいる。その中でも氷室や須崎は光流と出会ってから仲良くなったのと、宮本や牧野さんはアメリカに行ってからはよく話すようになった。
しかし、今まであまり会話をしてこなかった使用人達も五年振りに帰宅したのにも関わらず、こうやって喜んでくれていた。つまり、私が小さい頃から何かと気を遣ってくれていたのだ。
「みんな……今まで心配してくれてありがとう……」
私は全員に感謝した。
その後、玄関からまずはリビングへ向かった。
既に食事の準備が進んでおり、長いテーブルが置いてある場所に家族たちが集まっていた。
「あっ……」
光流は、私の両親と兄達を見ると、少し固まったような仕草を見せた。
ここは私が説明するべきだよね。
「お父さん、お母さん、アーサー兄、ジュード兄。光流と会えたよ……それで一緒に食事することになったの」
「あっ……あの……っ! おひさし、ぶりです……」
私がそういうと、光流は頭を下げながら挨拶する。
「良かった……ちゃんと会えたのね……。光流くん、久しぶりね」
「光流くん、久しぶり。元気そうでなによりだ」
私の両親が笑顔で優しく声をかけた。
「やぁ、久しぶり」
「光流くん、こんにちは」
アーサーとジュードが光流と知り合いのような感じで話しかけた。
「やっぱり、ルーシーのお兄さん、だったんですね……」
ただ、光流は兄達のことを微妙にわかっていなかったようだ。
今、この場で見て、やっと理解したといった感じだった。ということは、兄達は正体を明かさずに光流と接触していたということになる。
「まぁ髪色とかで最初からバレると思ってたけどな」
兄たちも私と同じく金髪だ。なので、光流に接触した時点で、誰なのかは絞られていたかもしれない。
「みんな知り合いだったんだね……」
私は三人が会っていたことに少し驚いた。
「うん……ちょっとね。少し前に、何度か会ったことがあって……」
接触は一度だけではなかったらしい。
もしかして、手紙を送るように誘導したのも兄たちだったのだろうか。
違うかもしれないけど、接触する理由があるとしたら私のことだろうし。
「あと、光流くんのお友達もつれて来ちゃった。
光流としか接点がないので、誰も冬矢くんの事を知らないはずだ。ちょっとアウェーな感じになってしまうかもしれないけど、来てくれて嬉しい。
「はじめまして。光流の同級生の池橋冬矢です。突然の訪問すみません」
頭を下げて挨拶をする冬矢くん。
「おう、知ってるぜ。少し前までサッカーやってたよな。そっちの界隈じゃ、ちょっとした有名人だった」
「そうそう。光流くんの周りの友達は僕たちも多少は知っているからね」
知ってるの? この二人はどこまで調べていたのやら……。
「あ〜、知ってたんですね。足やらかしちゃったので、今はもうやってないですけどね……」
「確かユースで結構良いところまでいってたよな?」
「あれは……たまたまです……」
冬矢くんも何か、深い事情がある過去を持っているようだった。表情がそんな感じに見えた。
「ほら、みんな立ちっぱなしじゃ疲れるでしょ? 適当に座りなさい。光流くんも冬矢くんもせっかく来たんだから楽しんでいってね」
母が空気を察知したのか、着席を促して、話を途切れさせる。
そうして全員が着席して、車の中ではないちゃんとしたクリスマスパーティーが始まった。
今日は祖父母がいないので、両親、兄二人、光流、冬矢くん、真空に私という面々だ。
◇ ◇ ◇
「いやいや、どれも料理が美味しすぎるっ!」
「うん、本当にうまいっ!」
テーブルの上に並べられていたのは、クリスマスによく食べる料理の数々。チキンなどの料理を中心にミートパイ、カプレーゼ、ローストビーフ、パイシチュー、ラザニアなどなど。
全員がたくさん食べてもの残るくらいの量が並べられていて、好きなようにとって食べるようになっている。
冬矢くんも光流もバクバクと料理をとっては食べて、感動してを繰り返していた。
それにしても、友達と一緒にご飯を食べれるのって、なんて幸せなんだ。
私は、横目で光流がご飯を口に運ぶ様子をチラチラ見ていた。
光流が何をしてても、可愛くて、かっこよく見えてしまう。私は重症だ……。
「ルーシー、食事進んでないよ?」
「あっ……はは……」
「ずっと光流くんのこと見てたでしょ……」
「――ッ!」
そう真空に耳元で囁かれ、私は顔が赤くなる。
そんな時にジュードが私に声をかける。
「それにしてもルーシー、やっととれたんだね」
「うん……お陰様で……」
アメリカの家では、お客さんが誰もいない時は基本的に包帯は外していた。
なので兄達がたまに家に来た時にも素顔は見せていた。なので以前から私の顔は知っていた。
「さぁ〜、これからのルーシーの生活が大変ね」
母がなぜだかよくわからないことを漏らす。どういう意味なのだろう。
「あぁ、大変だな」
「そうそう。大変なことになるね……」
兄たちも同じようにそれを言及する。
「ねぇ、どういうことなの?」
「はは、冬矢くんのほうがそういうのわかってるんじゃないか?」
なぜかアーサーは冬矢くんがその答えを知っているのではないかと投げかけた。
「ルーシーちゃんは今まで包帯をずっと取ってなかったんでしょ?」
「うん……」
冬矢くんが、包帯のことを話に出してくる。それが関係あるのだろうか。
「それで、日本に戻ってきて、来年の四月から高校に入学すると」
「そうだけど……」
まだ、話が見えない。
「みんなルーシーを放っておかないってこと。こりゃ光流も大変だぞ〜っ」
「え……?」
「冬矢……っ」
私を放っておかない? みんなって、誰?
まだ答えに辿り着けない私に母がついにヒントを出した。
「ルーシー。私の高校時代の話、もう忘れた?」
母の高校時代。確か入学当初からファンクラブが出来て大変だったって話だよね。
「あ……っ」
「わかったか? ルーシー」
アーサーが私の顔色を見て、答えに気づいたと感づく。
「でも、私、そんな……」
「お兄さん、ルーシーいじめちゃダメですよっ」
私があたふたしていると真空が庇ってくれる。
「ははっ。お前ら一緒の高校に行く予定なんだろ? ルーシーだけじゃないだろ。真空、君もそうなるぞ?」
「えっ……?」
アーサーにそう言われると真空は困惑した表情になった。
「こんな可愛い子ちゃん二人が揃って歩いてたら、男子共は放っておかないってこと。片方は性格に問題ありだが……」
「最後なんか言った!?」
真空は冬矢くんが最後に言った言葉に反応した。
でもこういうのって、私が仮面のエルアールだとバレたらって母が言ってたはずなのに、そうじゃなかったの?
「ルーシーも真空ちゃんも自分達が思っているより、かなり可愛いのよ。だから、光流くんも冬矢くんも守ってあげてね……?」
「もちろんですっ!!」
「光流っ!?」
母が突然変なことを言い出した。そして、光流は悩むことなくそれに答えた。
それはさすがに恥ずかしいよ光流……。
「ははっ、お前すげーな。よくそんなにはっきりと言えるな」
「そうそう、冬矢くんの言う通り。こっちが恥ずかしくなっちゃうよ」
冬矢くんのツッコミにジュードが同意した。
「でも、俺達と同じ学校に行けるとは限らないよな?」
「…………」
冬矢くんが、一番大事な話を切り出した。一緒に学校に行けなければ守るも何もない。
受験はまだ先だ。でも光流と同じ学校に行くと決めている。
「もう言っても良いんじゃないかしら?」
「うん……」
「え……?」
母がそのことを明かしてもいいのではないかと私に言ってきた。
すると光流が不思議そうな顔をした。
「ええと、ね。私と真空は光流と同じ学校に行こうと思ってたの……ほんとは内緒だったんだけど……」
「うそっ!? ほんとに!?
「うん……受かったら、だけど……」
これは親経由で光流がどこの高校に行くのかを調べてもらっていて、その為に勉強していた。
ただ、私も真空も成績上位なので今のところ、推薦枠で話を進めている。
「まじか……」
「そうなったら、凄い嬉しい!」
冬矢くんは驚き、光流は喜んでくれた。つまり、私と一緒の学校に通えることが嬉しいということだろうか。
「冬矢も俺と一緒の学校に行く予定だよ。もし皆で一緒に学校に通えたら楽しいね!」
「うんっ!」
「冬矢は別に……」
「なんだと!?」
真空がぽろっと漏らす。それを聞いた冬矢くんが、怒りの眼差しを向ける。
「何でもありませ〜ん」
「お前なぁ〜っ!」
また喧嘩が始まった。この数時間で何度か見た光景だ。
「お前ら付き合ってんのか?」
「どこがっ!」
「まさかっ!」
アーサーが何かを感じとったのか、そう茶化すと冬矢くんと真空は同時に否定した。
「だってなぁ……意外と相性良さそうだよな?」
「「そんなことないです!」」
返事は同じ内容で、それも同時だった。
「…………」
一瞬静寂に包まれた食事の席。父も母もいるのに、なんというか熱い雰囲気だ。
「……ほらな」
冬矢くんと真空は互いに目を見合わせる。
「あーもうっ!! 食事が美味しくなくなるっ! あっ……いえ……今のは違います。凄く、美味しいので……すみません」
「はは……ったく。なんなんだよこれ……」
真空は顔が赤くなっていた。ここまで真空の感情が掻き回されるのも珍しい。これはどっちに転ぶんだろう。私は二人の行く末がとても気になった。
一方冬矢くんは、特に顔は赤くならずにいた。でもちょっとは嬉しそうな表情をしていた。
「冬矢……優しくしてあげなよ……」
「わーった、わーった。悪かったな、真空」
光流が冬矢くんを宥める。すると別に悪いことはしていないが、冬矢くんが真空に謝った。
「あ〜、いいよ。別に謝ることなんてないし。今は楽しくお食事しよっ」
リムジンに乗っていた時は冬矢くんに『朝比奈さん』と呼ばせていたのに、今は『真空』と呼ばれても嫌がらなかった。一歩、進展なのかな……?
「お食事が終わったら、皆でルーシーの部屋に行ってお茶でもしたら? 積もる話もあるだろうし」
「うん……そうする」
そうして、クリスマスイブの締めは、私の部屋でゆっくりと過ごすことになった。
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