21話 夢の続き

 そんなこんなで私の誕生日がやってきた。


「ルーシーお誕生日おめでとう〜っ!!!」


 夕方、私の家までやってきた真空。須崎達が迎えに行ってくれたので私は玄関で出迎えた。

 真空は玄関で私にお祝いの言葉をくれて抱きしめてきてくれた。


「真空、ありがとう。もうちょっと早くこっち来てれば真空の誕生日もお祝いできたのにね」


 真空の誕生日は五月だ。真空が転校してきていた時には既に誕生日は過ぎていた。


「来年祝ってくれたらいいよ。来年も一緒なんだしっ」

「うん……そうするねっ!」


 来年も一緒……。やっぱり何度聞いても嬉しい言葉だ。

 日本に戻った時に私には光流しか友達がいない。でもずっと離れていたから、光流があの時のように仲良くしてくれるとは限らない。

 真空がいるだけで、私は学校生活をなんとかやっていける気がした。


 リビングには既に豪華な食事が揃っている。


「真空、座って座って」

「うんっ!」


 真空が座ると、父と母もテーブルに座り、四人が揃う。


「じゃあ改めて……ルーシー、十五歳の誕生日おめでとう」

「おめでとうルーシー」

「ルーシーおめでとっ!」


 父と母が誕生日の祝いの言葉を贈ってくれる。

 真空からはさっき聞いたが、改めて言ってくれた。


「お父さん、お母さん、真空。本当にありがとう」


 そうして食事が始まった。


「ルーシー、ギターの練習の方はどうなの?」


 まだ練習して数日だが、全然上達していない。真空が帰った後も少しだけやったりもしている。

 今はコードを抑えて、スムーズに指を動かし音階を出せるように練習を繰り返ししているだけだ。

 アレックスから『星空のような雨』のコード譜をもらっているが、まだ曲を練習する段階にない。


「全然だよ〜。まだ始めたばっかりだし」

「そうなの? 長い道のりになりそうね」


 歌の時のようにギターの先生を呼ぼうかという話にもなったが、今回は真空も一緒に練習しているし、自分で頑張ろうと思って先生を雇うのは拒否した。


「真空ちゃんの方はどう?」


 真空の注文した電子ドラムも届いたので、それで練習を再開していた。

 初心者向けの練習方法を紹介している動画を見ながら練習しており、メトロノームも使っていた。


「私も全然これからです! 早く音楽って感じでやれるようになってみたいです!」


 そもそもふんわりとバンドやりたいなんて話をしてから始まったものだ。特に目標とかもなく私も真空も練習している。バンドはギターとドラムだけでは足りない。だから、もしちゃんとやるならいつかは他の楽器をしてくれる人も見つけなければいけないだろう。


 その後、食事を終えて、母がケーキを持ってきてくれた。


「何この誕生日ケーキ!! 家でこんなに大きなホールケーキ凄すぎるっ!」


 テーブルの上に大々的に置かれたホールケーキは直径三十センチほどある。十人分くらいはあるのではないかという大きさだ。私の誕生日である10月の誕生花は薔薇らしい。

 なので、薔薇の形をしたピンク色の複数のクリームがスポンジの上に乗っていて、とても可愛い。


「お母さんありがとうっ!」


 母がケーキの上に、私の歳の数である十五本のろうそくを挿していき、火を灯してリビングの電気を消す。


「ハッピバースデートゥーユ〜 ハッピバースデイ ディア ルーシー ハッピーバースデートゥユ〜♪」


 お祝いの歌を皆が歌ってくれて、私はふぅ〜っとろうそくの火を吹き消す。


「ルーシーおめでと〜っ!!」

「うん、ありがとう!」


 今日は何度も聞いたおめでとう。家族と友達と過ごす初めての誕生日。こちらこそありがとう。


「じゃあ、プレゼントタイムね。私からはこれ」


 リビングの電気をつけた後にそう言われ、母から渡された小包。開けてみるとそれはメイクコフレだった。

 一つの箱に複数の化粧品が詰められたコスメセットだ。


「コスメは日々買い足さないといけないしね。ルーシーに合いそうなのを選んだのよ」

「お母さんありがとうっ!」


 すると次に父が紙袋を取り出した。


「俺からはこれだ」


 私が紙袋に入っていた箱。その箱を開けると出てきたのは――、


「お財布だ……」

「さすがにお前の好みのデザインはよくわからないから、リヴィにも一緒に考えてもらったよ」


 箱から財布を取り出すとその色は白……ちょっとオフホワイト寄りの色であり、光沢感・高級感のあるシンプルなものだった。有名ブランドのものではあるが、ロゴが主張しすぎないデザインになっており、使い勝手も良さそうだった。

 父が言うには財布は長く持つものではないとか。中身を清潔に保ち、入れるお金の為にも最低でも三年に一度は財布を変えたほうが良いということだった。風水も気にしているのか、お金に対する経営者ならではの視点があるようだ。


「お父さん、ありがとうっ!」


 すると母が二つの紙袋を取り出す。


「これはアーサーとジュードからの誕生日プレゼントよ」


 タイミング的に兄達は普通に日本の学校があるので、さすがにアメリカの家まではお祝いに来てくれないが、こうやって毎年誕生日プレゼントを送ってきてくれている。

  アーサーは、私が好きな匂いのアロマキャンドル。ジュードは……なぜか便箋だった。ジュードのプレゼントは誕生日プレゼントとしては正直意味がわからなかったが、私はこのあとその理由を知ることになる。


「どういうことだろう……」

「じゃあ次私ねっ!」


 私が不思議に思っていたところ、真空がプレゼントを取り出す。横目で見ていたが、ずっとうずうずしていた。


「これ……ピアス?」

「うんっ! ルーシーはもうちょっとで包帯外すでしょ? だからそうなった時、絶対顔周りもお洒落にすると思うんだ。だからその時の為の最初のプレゼント! このあと耳に穴開けてもらわないといけないけどっ」


 真空がくれたピアスは、金色の装飾がされていて、その端にはサファイアのような青の小さな宝石がついていた。真空の名前の通り、空のような印象のピアスだ。よく見るとピアスの入っていた袋を見ると「SHIZUKU SAPPHIRE」と書かれていた。雫……サファイア。


「真空っ!! ありがとう!! 絶対つけるっ! すぐ穴開けるっ!!」


 包帯を巻いたあとなら、今でもピアスをつけることができる。家でならいつでもつけられるけど。……凄い楽しみだ。

 そうか……私今よりもっとお洒落とかも楽しめるようになるんだ。


「それともう一つ。これをルーシーに」


 もうプレゼントを渡す人がいないはずなのに、母から小さな紙袋を渡された。


「これは部屋に戻ったら開けてみなさい」

「え? ……どういうこと?」

「まぁいいから、持って行きなさい」


 なぜここで開けてはいけないのかわからないけど、ここで開けられると恥ずかしいってことなのかな。

 誰からのものなのかも検討もつかなかった。もしかしてアレックスとか? ありえる。ここ最近よく関わってたし。


「おいし〜いっ!!!」


 誕生日プレゼントをもらってから、母がケーキを切り分けてくれた。

 それを食べた真空がキラキラした目で感動していた。


「うん、すっごく美味しいっ!」


 私も同じ意見だった。母は何でも作れて凄い。いっそお菓子のお店とか出しても良いんじゃないかと思ってしまう。でもそうしたら家のことができなくなっちゃうか。日本の家に帰ったらそういう時間ももっと作れるかもしれないな。


 ケーキを食べたあと、お腹が満腹になったので、真空と一緒に部屋行くことにした。最後に母からもらった紙袋を持って。


「それなんのプレゼントだろうねっ?」

「う〜ん。私はアレックスだと思ってる。曲をリリースした記念とか?」

「ありえなくはないっ……けどそれ誕生日関係ないじゃんっ」




 ◇ ◇ ◇




 私の部屋に到着すると、ローテーブルの周りに私と真空が座った。

 机の上には母から渡された小さな紙袋が一つだけある。


「ほら、ルーシー見てみなよ?」


 真空に言われて中身を確認してみる。中には二つのモノがあった。まずは一つ取り出してみた。


「これ……なんだろう」


 それは小さな箱だ。何が入っているかまだわからなかった。

 私はゆっくりとその箱を開けてみた。


「あっ……これ……バングル?」


 女性に似合いそうな細い銀色の腕輪だった。よく見ると内側に英語で『Lucy』と名前が刻まれていた。

 名前付きのプレゼント……! 嬉しい。でもこういうのアレックスっぽくないような気がする。


「へぇ〜、誰かわからないけどすっごいセンスいいじゃんっ! 使い勝手良さそうだし、ルーシーに似合いそうっ」


 真空の言う通りだ。シンプルなデザインだけど、服の邪魔にならず、やんわりと腕をお洒落に見せてくれそうなアイテムだった。ちなみにバングルとは腕輪の一種で、留め金がなく形が変形しない腕輪だ。だから手首を横から通す形で装着する。


「もう一つは……手紙?」


 小さな紙袋にもう一つ入っていたのは封筒だった。この封筒の形から手紙が入っていると予想した。


 その封筒の表、中心には『ルーシーへ』と書かれてあった。やっぱり手紙っぽい。


「あっ……あっ……」


 真空が何かに気づく。なぜか目が少しうるうるしている。


「真空、どうかしたの?」

「……ル、ルーシーっ! 封筒の裏っ!!」


 封筒の裏?

 私はゆっくりと封筒を裏返してみる。その右下に小さく書かれていた文字。





「『九藤光流くどうひかる』…………」





 私はその文字を読み上げた。


「えっ……えっ……!?」

「……ルーシーっ!!!!!」


 真空が急に私に抱きついてきた。唇を震わせながら私にその意味を教えてくれる。


「忘れてなかったんだよ! 光流くん……っ! だって……だって、誕生日にこんなの贈ってくるってことは……今でもちゃんと、ルーシーを想ってて……ルーシーと……同じ気持ちなんだよっ!!!」

「あっ……あっ……」


 私は気が動転して、まともに喋れなかった。体が燃えるように熱くなり、今起きていることが真実なのかどうかも、わからなくなっていた。


 でも、今手に持っている封筒にはしっかり『九藤光流』と文字が刻まれていて――、


 ――あの長い夢には続きがあったのだと、私に教えてくれていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る