20話 ブラックビューティー

 数日後、真空と一緒に楽器専門店に行く日がやってきた。

 包帯をしているので、基本的に私は外に出ていない。出る時は全て車移動で、すぐにお店の中に入れるようにしている。


 私と真空はうちの車で一緒に楽器専門店まで移動していた。


「ギターかぁ……どうやって選べばいいんだろ〜」

「私は全然わからないから、とりあえず初心者にも優しいやつって言ってお店の人に選んでもらったよ〜」


 確かに私達は楽器初心者だ。なのでお店の人の意見は大事だろう。

 あとは直感とか大事にしたいな。


 車内で会話しているうちに楽器専門店に到着する。

 店の前に車を止め、須崎が外で待機してボディガードの二人が私達についてくる。


「すごいね……楽器がたくさんだぁ」

「そうそう。私はドラムの所しか見てなかったんだけど、ギターとかも凄い量が多いよね」


 楽器専門店の楽器の数に圧倒されていたところ、こちらに向かって人が歩いてきたようだった。


「君がミス・リンナだね? アレックスから頼まれたよ。私が店長のポールだ」

「はい。私が凛奈です。ポールさん今日はお願いします」


 少し恰幅のよい体の店長のポールが挨拶してくれた。


「じゃあギターの場所を案内しよう」


 私はこの時ギターとベースの違いが全然わかっていなくて、ベースの場所を通り過ぎて『ギターこれじゃないの?』と思ったものだ。


「初心者ですけど、長く使えてカッコいいものが良いです」


 私はどちらかというと可愛いもの好きだが、バンドをやるとかそういうのを考えるとカッコいいものが良いと思ってしまっている。


「それなら見た目のデザインで選んでもいいかもな。好きな色とか形とか。音楽はテンションが大事だ。自分の好きな楽器を動かしてるって気分が、音楽を楽しめるコツでもある」


 ポールさんは、私に押し売りするようなイメージではないようだ。

 今の話を聞いて、まずは細かい説明を聞くよりも色か形でまずは絞ってみようと考えた。


「う〜ん」


 私は唸るように声を出して端から端までギターを見ていく。


「ねぇ、これどう? かっこよくない!?」


 真空が一つギターを指差して呼びかけてくる。


「あぁ、それはギブソンのフライングVってタイプのギターだな。見た目通りに個性的なギターだ。座って弾くってんならあんまりお勧めはできないが」


 真空の指差したギターはVの形をしているギターだ。凄い個性的でロックって感じだ。

 確かにカッコいいかもしれないけど、私はなんか違った。


「真空の趣味って変わってるよね」

「これだから光流くん一筋のルーシーは〜〜」

「それ今関係あるっ!?」


 謎理論で光流のことを絡めてくる真空。

 私は他のギターに目線を送ることにした。


「あっ……あの、これなんていうギターなんですか?」


 私が指を差したギター。それは真っ黒で少し金色の素材も使われていて、少し丸みを帯びた形で……。カッコいいデザインが欲しいとはさっき言ってはいたのだが、その丸さが可愛いと思ってしまった。


「ははっ。さすがアレックスに聞いていた通りだな。それはギブソンのレスポールカスタムってやつでな。ブラックビューティって呼ばれてたりもする。初心者にお勧めできるかと言われればYESとは言えないが、どうせやっていけば誰でも弾けるようになる」

「ブラックビューティ……」


 私はその中でブラックビューティという言葉に興味が惹かれた。どういう意味でそう呼ばれるようになったのかわからないが、この黒に惹かれた理由はある。

 光流のお陰で少しは前向きになれて、これから包帯を完全に外す日だってやってくる。でも私には暗い時代があった。それを忘れない為のこの黒。どこかにあの時代を忘れないように黒として持っておくのも悪くないと思ったのだ。


「ちょっとブラックビューティさん……値段……」


 すると真空がなぜか私のことをブラックビューティと呼び、ギターの値札を見て、驚いていた。

 私は今まで値段を見て買い物をしたことがなかったので、特に気にしていなかったけど。


「ええと、百万くらい?」

「これ……買うの?」

「これがいいかも……」

「これだからお嬢様は〜〜〜っ」


 真空は私に呆れたような顔を見せながらため息を吐く。


「リンナ、これでいいのかい?」

「そうします……」


 私はこの黒いギブソンのレスポールカスタムというギターに決めた。正直よくわかっていないけど、とりあえずこれに決めた。


 会計に向かうと財布からカードを出す。


「ブラックじゃん……」

「うん。お父さんから渡されてて」


 ブラックカード。外で買い物をする時はいつもこれ。札や小銭はほとんど持っておらず、最近ではスマホ決済も一緒に利用している。


「わお。初めてみたよこんなカード……」

「そうなの? これしか見たことないからわからなくて……」

「もう……取られないようにしなよ……?」


 真空が心配をしてくれて、その間に会計が終わり、ギターが私の手元まで来た。

 ボディガードの宮本が持ってくれて、車まで運んだ。



 ◇ ◇ ◇



 それから私はアレックスとやり取りを繰り返して二曲目の歌詞を完成させた。

 タイトルは『Only Photo』。あのドーム型遊具で光流と一緒に撮った写真をイメージした曲だ。

 アレックスは二週間くらいもらえればということだった。


 さらに真空が注文したドラムも私の家に届いた。

 空き部屋に設置して、私のギターもそこに置いた。部屋に楽器を置くだけで楽しさが体の内から湧き上がった気がした。


 次に真空が家に来る時から一緒に練習を始めることになった。

 というか今更だが別々の楽器なのに一緒に練習なんてできるのだろうか? 音がガチャガチャして練習にならない可能性を考えていなかった。……まぁいいかその時になってみないとわからない。


 そうして、ある日の学校終わりに真空が家に来た。私の誕生会もあと数日後に控えていた。


「今日から練習か〜っ」

「そうだね。とりあえず何からやればいいか、自分で調べたよ。真空も調べた?」

「もちっ!」


 ちなみにギターの他にもポールさんのお勧めで必要機材を揃えていた。チューナーやピック、アンプ等々……。

 

「わ〜すごっ! なんかとにかく凄いっ!」


 私の家に来た真空は自分で購入したドラム、そして私のギター機材を見て興奮する。

 ちなみに真空が購入したドラムは赤っぽいカラーが特徴的だ。


「じゃあそれぞれ、初心者がやれる練習をやっていきますかっ」


 真空の掛け声でそれぞれ自分の楽器の場所まで移動する。

 私はギターを持って用意した椅子に座り、真空もドラム用の椅子に座った。



 ………………


 ………………



「これドラムうるさっ!? ごめん〜ルーシー」


 しばらく個人練習をしていたが、真空はドラムの音がうるさいと思ったようだった。

 私はアンプにヘッドホンを繋いで練習していたので、それほどドラムの音が気にならなかったが、真空は気にしていたようだった。


「こっちは全然大丈夫だよ〜?」

「でもなぁ……」

「ちょっとアレックスに聞いてみるよ。ドラムの練習について」

「ルーシーありがとう〜っ」


 それからアレックスにメッセージを送ってみると、ドラムには電子ドラムというものがあるらしいことが判明した。お手軽に手に入れられる金額のものもあり、音も小さいので家での練習に適しているとか。


「電子ドラム買うっ!!」


 真空は即決だった。この部屋は広いので、十分に他の楽器も置けるスペースがあった。

 電子ドラムが来るまでは、真空は私の練習に一緒に付き合ってくれて、ネットで調べたことをアドバイスしてくれた。


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