第3話 別邸への潜入

「ここはもうあかん。牛もダメや。あっち行くで。エミリア。」


「今一度聞いとくが、復讐で人を殺す覚悟はあるんか?」


ワイらは追っ手から逃げながら、エミリアと会話する。


「父やトーマスの無念を晴らさないで、私だけのうのうと生きることはできません。

 それに、私はいずれドラヴェニア家に殺されると思います。

 そうなる前に差し違えてでも・・・・・」


「覚悟はわかった。せやけど、あんたではどう考えたって到底無理や。

 しばらく身を隠しとってくれんか? 悪い結果にはならんと思うで。

 あと、ワイらと話したことは内緒な。まぁ、いろいろとあってな。」


「・・・・・わかりました。確信はありませんが、あなたは信頼できる人です。」



ワイらは会話が終わると、場末にある珍妙な外観の居酒屋に入って行った。


「ママはおるか?」


「あらぁ。ヤマちゃん。お久しぶりねぇ。息災かしら? あらぁ、その娘ぉ。」


「今は急ぎなんや。すまんな。お酒はまた今度ゆっくり飲ませてもらうわ。」


「約束よぉ。ということは、あれねぇ?」


このオカマ居酒屋のママことローカス・ヴェイルハートに事のあらましを伝えた。



「ヴィクターったら、顔はマブいのに嫌なやつねぇ。

 あの子は昔っから生粋の悪戯っ子だったわぁ。

 最近は度が超えて来ているとは思っていたけどここまでとはねぇ。」


「ヴィクターはワイらがやる。ママにはドラヴェニア家を頼めるか?」


「まぁ、他ならぬヤマちゃんの頼みじゃ断れないじゃなぁい。

 それにあの子がおいたが過ぎるのも、あの家の過保護が一因だしねぇ。

 いいわぁ。難しい仕事だから3日間頂戴ねぇ。

 その娘の身柄も私たちが引き受けてあげるわぁ。」


「ママ。おおきに。助かるわ! 今度、給料入ったら飲みに行くわ。」


「いいの。いいの。私も頭に来ているからねぇ。

 まぁ、ちょっとだけだけどヴィクターっていう子にも同情しちゃうわぁ。」


そう言って、ワイらは居酒屋を後にした。

ちなみにママはこの町の、いわゆる裏家業のボス的存在や。



「イナンナ、ワイらもやつの館に3日間潜伏するで。」


「ヤマちゃんと一緒にお泊まりなのー。やったー♪ 今日もバラバラにしていい?」


「ダメや。それはこの件が終わってからや。」


「えー。いじわるー。」



―――――

―――



「全く、お前らは娘一人探し出すのにどれだけ時間をかけているんだ!」


「申し訳ございません。坊っちゃま。牛は見つけましたが、近くにおりませんで。

 川に飛び込んだ線も含めて調査中でございます。」


「まぁ、いい。所詮、小娘一人がドラヴェニア家に立ち向かえるわけないからな。」


「やつら下民は所詮玩具でしかないからな。

 俺様は今までそうやって下民共を有効活用してやっているんだ。ははは。」


「左様でございます。坊っちゃま。ただ、アレキサンダー様からも、

 やるならもう少し上手くやれとお達しが。」


「これもお前らがグズなせいだからな! 全く、これだから世話がやける。」


「申し訳ございません。」


ワイは現在、イナンナとヴィクターの別邸の屋根裏に住み着いとる。

3日間、潜伏しながら会話を聞いたが、反吐が出るどころの騒ぎやない。

やっぱり、エミリアのところだけやなかった。殺しが常習化しとる。

こいつらは根っから腐っとった。特にヴィクターはあかん。


(こいつどんだけゲスなんや。)


(ヤマちゃーん。そろそろこの人たち殺っちゃっていーい?)


(さっきママから連絡もあったし行くか。ただ殺っちゃあかん。足だけにしとき。)


(はーい♪)


そう言い終わるやいなや、イナンナは炎の大鎌を形成し屋根裏を突き破って、

ヴィクターの部下の足を刈る。


「お仕置きだよー♪」


「「「「「「うぎやああああああああああああ!」」」」」」


「な、何者だ!?」


「あたち? イナンナだよー。」


ヴィクターの問いにイナンナは締まらない返答をする。


「ここがドラヴェニア家の別邸とわかってのことかあああああ!?」


「そうやな。わかっとる。それでそれがどうした?」


「!!? なんだお前?」


「何や。自己紹介して欲しいんか? ワイはヤマって呼ばれとる。

 一応、冒険者ギルドの事務員や。自称、出世頭やで。

 あ。ちなみにそっちの娘はイナンナや。

 見て呉れはまぁベッピンやけど、中身は生粋のサイコパスやから気をつけとき。」


「そんなことは聞いていない! なぜギルドの分際でドラヴェニア家に楯突く!

 親父に言ってギルド関係者全員ぶち殺してやろうか?」


「あぁ、そのことやけどあんたんとこの。えーと、ドラヴェニア家やっけ?

 爵位は返上されて、一族全員牢獄行きが決まっとるらしいで。

 武器の密輸して、えらい悪さしとったらしいなぁ。ママもびっくりしとったで。」


「ほざくな! そんなデマ信用すると思っているのか! これだから下民は。」


「まぁ、信用してもせんでも、あんたにとってはどっちでもえーことやな。

 ついでやから教えてやっただけや。」


「ヤマちゃーん。あたちがバラしてもいーい?」


「あかん。こいつはワイの役目や。」


「お前らあああ! ぶち殺す! ファイヤーボルト!」


さすが、イキリ散らかしとるだけあって、騎士団クラスの炎を放ってくる。



「!!? お前! なぜ無事なんだ?」


「あぁ。今のやつね。安心せえ。ちゃんと熱かったで。我慢できるだけや。」


「ほざくな! ファイヤーストーム!!!」



「あぁ。熱いな。胸糞悪いぐらい。そろそろワイも行ってええか?」


「ひ、ひいいい!」


「メイデンさーん。出ておいでー。」


ワイは『アイアンメイデン』を召喚する。


「な、何だそのスキルは? 何をする気だ! 貴様!」


「安心せえ。これはただの玄関や。ただし、地獄門って言ってな。

 業の深さに応じて罰を与える。善人にとっては無害なゆるキャラや。

 そういうことで、ワイと一緒に入ろっか?」


「入るわけないだろ! お前は馬鹿か!」


「もう無理や。メイデンさんは門の他に、拘束してくれるオプション付きやで。

 そんで、ほんまやっかいなことにワイも拘束される。

 あぁ、ドキドキして来たわ。あんたの業がそんなそんなに深くないとええな。」


そうして、ワイらはメイデンさんの中に強制的に入れられた。


「ヤマちゃーん。また後でねー。」

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