第2話 グリーンフィールド家の悲劇
「どうか。どうか。ある方を殺すのを手伝ってください。」
ギルド内が一気に静まり返る。
ズタボロの女性が縋るように殺人を依頼するから当然っちゃ、当然やが。
もっと問題なんは、「あの人」やなくて「あの方」という言い回しの方や。
その言い回しだけでギルドでは手に追えないことに察しがつく。
「ちょっと、お嬢さんこちらへ。」
ガレアギルド長が直々に応接間に案内するが、答えはわかっとる。
ギルド長はもうすぐ50歳やいうのに前線に立ち続けるベテランや。
魔物退治だけやない。ギルドの酸いも甘いも熟知しとる。
「そういうわけだ。・・・・・すまないな。」
「そ、そんなぁ。」
彼女は絶望を宿した目でとぼとぼとギルドを後にした。
「ヤマー! ヤマは居るか?」
「ギルド長、そんな大声出さんでも聞こえとるわ。」
「お前、今朝ちょっと熱っぽいと言っていたよな。
ワイバーンの件でこれから忙しくなる。今日は帰って休め。
お前に風邪を拗らせられたら敵わんからな。
イナンナ。ヤマを連れて帰ってくれ。」
「ちょ。ギルド長、ワイは、」
(すまないが、後は頼んだ。)
「ヤマちゃーん。ほら、行くよー。」
「ちょ。イナンナ待て。」
「待たなーい。じゃあ、みんなー。また明日ー。」
「はぁ。しゃあないな。」
「ヤマちゃーん。2人で仕事久しぶりだねー。」
「1ヶ月ぶりや。ギルド長の頼みもあるし、あの娘を追うしかないな。」
「はーい。楽しみだねー。あっちだよー。」
「楽しむな!」
ワイらは先ほどの女性を跡を追いかけた。
「ちょっとお嬢ちゃん。」
「あなたはギルドの職員の
・・・・・依頼を受けて下さるのですか?」
「とりあえず、ここは目立ちすぎる。あっちの方へ行こうか。」
ワイらは話を聞くため、人気のない裏路地へ行く。
彼女の状態から追っ手の可能性も含めて、まぁ、念の為や。
「話を聞いていただいてありがとうございます。
では、話しますね。・・・・・」
彼女ことエミリア・グリーンフィルドは、
涙や嗚咽をこらえながら懸命に経緯を話してくれた。
事件は昨晩起きた。
結論から言うと彼女の父親ジョンと婚約者トーマスが殺された。
殺したんはヴィクター・ドラヴェニア。
この領地の五大貴族のドラヴェニア家の令息や。
エミリアは早くに母親を亡くしたんやが、父親は愛情を込めて懸命に育ててくれた。
大好きな父親を助ける為、家業の酪農や家事を手伝いならも学業に励んだみたいや。
若くして婚約したのも早く父を楽させたいとの思いからやった。
そんな彼女の婚約者トーマスは学校の同級生で同じ村の農家の五男や。
五男と言っても妥協で選んだ相手やない。
トーマスは運動神経や学業はそこそこやが、何よりも優しい心の持ち主やった。
感情に豊かで、学校では彼女と笑ったり、泣いたりしながら共に過ごしたみたいや。
結婚後は彼女の家で父親と婚約者と一緒に慎ましく温かい家庭を築くはずやった。
その幸せな未来を描くため、結婚式の打ち合わせを3人でしていた矢先、
奴らは現れた。
アレキサンダー・ドラヴェニア伯爵の次男であるヴィクターや。
昔から悪童で有名やったが、スキルを身に着け、ヤンチャに拍車がかかっていた。
「下民のくせに、幸せそうで鼻についた」との理由で3人がいる家屋を襲った。
まずは家を炎スキルで焼き払い、火傷を負いながら逃げ惑う3人を捕まえよった。
悪魔は恍惚の笑みを見せながら、婚約者のトーマスにまず狙いを定めた。
「俺様は一度、このスキルで人を焼き殺してみたかったんだよ。
俺様の成長の礎になったんだ。感謝して往ね。」
全く理解できないセリフを吐き捨て、炎を放ちよった。
そして、次に彼女に狙いを定め、辱めようと服を強引に引き裂こうとしよった。
その時に、父親ジョンが彼女を庇い、体当たりで奴を倒したんや。
「何、下民の分際で、俺に楯突いてくれてんだよ。まずお前からぶち殺してやる。」
案の定、逆ギレした奴は父親に狙いを変更し。
両手両足を飼っている牛に縛りつけた上で、炎を放つ。
初めはただならぬ状態の飼い主を心配そうにしていた2匹の牛やが、
父親が牛達に何かを話した後、牛達は暴れ父親を裂いた。
そのうち一頭は笑い転げているヴィクターの元へ突進や。
やつは怯みはしたものの、スキルで応戦し襲って来た牛を返り討ちにしてもうた。
その隙に、もう一頭の牛は彼女を背中に乗せギルドまで走ってきたと言うわけや。
父ジョンのスキルは牛使い。
父親は自分を犠牲にしてエミリアを助けたわけや。
「うーん。ヤマちゃん。ヴィクターは悪い人だね。やっちゃおうよ。」
エミリアの話を聞き終わると、イナンナが軽い口調で怒りをあらわにする。
「イナンナ、お前は調子狂うから、黙っとき。」
「はーい。」
「まぁ。怒っとるんわ。ワイも一緒や。胸糞悪い話やな。」
まぁ、あんな話を聞かされて、人として動かんわけにはいかんしな。
ただ、ヴィクターをやるにしても、今回は後ろ盾がかなり厄介や。
ドラヴェニア家は武器産業で発展した一族で、黒い噂も多い。
「例の牛がいたぞー! こっちへ来い。」
「でかした! 今行く!」
追っ手が近づいて来たみたいや。今んとこは3人やな。
格好から、ドラヴェニア家専属の護衛隊みたいや。
「すいません。巻き込んでしまって。私は大丈夫ですから逃げてください。」
こんなピンチでも人を気遣えるエミリアは流石や。
どっかの誰かと違って人ができとる。
「構わん。イナンナ、顔を見られる前に頼めるか?」
「ヤマちゃーん。殺っちゃっていいの♪」
イナンナは嬉しそうにワイに尋ねてくる。
「あかん。足だけにしとき。後でワイを刻んでええから。」
「わかったー。約束だよー♪」
そう言い終わるとイナンナは炎で大鎌を形成し、追っ手の足を切り落とした。
「天誅でーす♪」
「「「うぎやああああああああああ」」」
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