第2話


 一言に「飲食店」と言っても、色々とあると思う。レストランとかカフェとか……後は居酒屋もか。


 そして私が働いているのはいわゆる「カフェ兼バー」で、一階はカフェになっていて、二階はバーとなっている。


 朝早くからモーニングも出しているし、お昼はランチ。夜はディナーも出しているのだけど特にランチは大人気で、休日は売り切れになってしまう事もあるほどだ。


 基本的に……というより、私はカフェのシフトしか入っていない。


 そしてバーはお酒を中心的に扱うという事もあって「利用客だけでなく従業員も二十歳以上」という決まりがあるからだ。


 そもそもこのバーは店長の息子さんが最近始めたばかりのお店で、私が高校を卒業したばかりの頃に出来た。


 それに、お店のスペースもそんなに広くなく、店長である息子さん以外に従業員の数はあまりいらないとの事だ。


 いや、そもそもいらないどころか従業員は息子さんの古くからの友人二人がやっているから、かえって知らない人を入れない方が良いとの事だ。


「なんて言うか……俺たちは昔から付き合いがあるから昔話とか分かるけどさ。いきなり入って来た子は分からないだろうしさ。かえって気を遣わせそうだろ?」


 要するに昔からの友達がお店を開いたから手伝っている……みたいな感じらしい。


 ちなみにこのバーの存在は今までにない効果があるらしく、一階でディナーを楽しんだ人が二階を使われる事も結構多く、なんだかんだお互いに良い相乗効果があったらしい。


「こんばんはー」


 従業員が使っているカフェの裏口のドアを開きつつ、挨拶をすると……。


「おお、未麗」


 厨房からヒョコッと笑顔で顔を出した人当たりの良さそうな中年の男性がこのお店のマスター。


 よく「カフェと言えば」で連想されるようなダンディな男性ではなく、どちらかというと、ラーメン屋とか飲食店にいる様な気さくな人である。


「こんばんは。マスター」


 休日は今ある席が全て埋まる事もあるけど、平日は基本的に穏やかで、マスター以外にアルバイトが二人か三人くらいいれば回る。


 大きなレストランやチェーン店ではありえない話かも知れない。


 でも、そもそもこのカフェがある場所が駅から歩いて十分ほどという場所にありながら、ちょっと細い道に入らないといけないため、知る人ぞ知るというお店だ。


 そんなお店にたくさんの従業員はかえっていらない。


 そもそも、ランチが売り切れてしまうのもランチ自体の数が少ない上に家族連れの人も多いからである。


 地域密着型の……と言えば分かりやすいかも知れない。


「そういえば、今日からですよね。新しいアルバイトの人が来るの」


 そう言うと、マスターは「ああそうそう」と頷く。


 ランチの時間は午後の三時までで、その後は通常メニューやデザート。後はドリンクのみの提供となっている。


 まぁ、そもそも地域密着型だから平日のそんな時間に来る人は大抵知り合いばかりでマスターだけでも回るらしく、アルバイトはいない。


 そして私の様なアルバイトが来るのは大体午後の五時ごろである。


 ただ時間割によって間に合いそうにない時があるからそこら辺は上手く調整してもらっているのだけど。


「まだ来ていないけどね」

「あ、そうなんですね」


「うん。僕が面接した感じ大人しそう……というより、お淑やかって言葉が似合いそうな子だったよ」

「へぇ」


 マスターの言葉を聞いて何となくパッと私の脳裏に思い浮かんだの長い黒髪の女性だった。


 これは完全に私の偏見だけど……。


 そしてそれと同時に思い起こされたのは小さい頃。よく一緒に遊んでいた男の子のお姉さんの姿――。


 私とは五歳も離れていなかったのに、お転婆でじっとしていられなかった私とは違っていつも優しくて……それでいてお姉さんの同い年の子たちと比べて静かでお淑やかだった彼女は当時の私の憧れでもあった。


「……」

「どうかしたかい?」


「え」

「ボーッとしていた様に見えてね」


「あ、はは。すみません。学校に行って疲れたのかも」

「ああ。入学して結構経つからね。そろそろ疲れが出始める頃か」


 そんなマスターに便乗して「はは。そうかも知れません」なんて言って上手く誤魔化した……誤魔化せてたはず。


「まぁ無理はしないように」

「ありがとうございます」


 なんて会話をしていると……。


「し、失礼致します」


 軽いノックと共に女性の小さな声が聞こえ、マスターと共に振り返ると。


「え。樹里亜……さん?」

「み、未麗……ちゃん?」


 そこには私が連想したイメージ通りの人……というより、連想したまさしく「その人」が立っていた――。

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