赤い華

黒い猫

第1章 再会

第1話


「あー。暇だぁ」


 なんて口では言っているけど、頭では「それは今だけ」と分かっている。


 何せ私、桐山きりやま未麗みれいは専門学生。そして基本的に専門学校は二年制の場合が多い。短期大学も二年制が多いのだけど。


 そして私は今年専門学校に入学したばかりの一年生。


 正直言って「二年」ってかなり短いと思う。中学校も高校も三年制で、小学校の六年間。


 いきなり六年から三年になった時も実は少し戸惑った。まぁ、それは一年が終わったタイミングだったけど。


 そして三年から二年は最初こそ「たった一年じゃん」なんて思っていたけど、実際に入学して数カ月経った今。この「二年」という短さに改めて驚いている。


 そもそも「学校」って、多少こそ「慣れ」というものがあると思うけど、一年って「慣れ」の時期だと思っている。


 でも、一年で「慣れ」ても次の一年で卒業。


 しかも、専門学校という事はある分野を専門的に学ぶ学校なので、基本的に資格の勉強をして、二年生の後半は就職に向けての対策で忙しくなる。


 つまり、実は「暇」という言葉とは無縁で忙しいのだ。


 ただ、今「暇」と言ったのはそういった現実からの逃げではなく「たった今」が暇なだけなのである。


「はぁ……」


 これで今通っている専門学校で友達がいればいいのだけど、残念ながら高校時代の友達はみんな大学に行ってしまった。しかも県外の……。


 まだ県内であれば遊ぶ約束とか簡単に出来るけど、県外となってしまうとなかなか難しい。


 一応県内にも大学や短期大学はあるけど、どうやらみんなのこれからの進路や偏差値などを考慮した結果でそうなっているのだから仕方がない。


 そもそもこの地域近辺にある大学や短期大学の学部が狭い上に偏差値に差があって困る。


 私もその選択肢の狭さに困らされた一人だ。


 しかも、両親から「仕送りとか出来ないから、進学するなら県内で」と言われてしまい、結局専門学校を選ばざる負えなかった。


 そもそも私がなりたい職業は資格を持っていた方が就職に有利になる。それも考えての進路だったのだけど……。


 でもやっぱり寂しい。


 中学生の頃も私だけ別の高校に行ってなかなか友達が出来なくて二年生の中頃になってようやくクラスになじめるくらい苦労したけど、なんだかんだ楽しかった。


 ただ、今回の専門学校はそうも言っていられない。


 いや「そもそも学校なのだから、遊んでばかりいないで勉強しなさい」という事は分かっている。


 でも、一人でやるよりも誰かと一緒にやった方が楽しいし、誰かに教えながら勉強した方が知識の定着もしやすいと聞く。


 それに、やっぱり仲の良い友達は欲しい。


「でもなぁ」


 通っている専門学校のクラスにはもう既にいくつのかのグループが出来ていて、しかもどうやらそのグループで集まっている人たちは同じ高校らしい。


 それを考えると……やっぱり色々と難しいなぁと思ってしまう。


 何せ、その人たち同士では会話が成り立っていても、私にはさっぱり分からないという事が起きかねないからだ。


 そうなると、完全に私は孤立してしまう。


 せっかく仲良くなっても結局孤立してしまっては意味がない。出来る限りついては行こうと思うけど……。


 やっぱり無理して仲良くするのもおかしな話だと思ってしまう。


「やっぱり難しいのかなぁ」


 なんて一度でも思ってしまうと、気持ちも沈んでしまう。


 もうこうなったらアルバイトに精を出すしかないのかも知れない。ただ、アルバイトはいつも夕方からで、休日はたまに朝から夕方までシフトが入る事もあるけれど、基本的に夕方。


 つまり、その間の時間が空いて暇なのだ。しかも「今」だけ。


 まぁこの「今」が大事な部分で、かけがえのない時間だと思うけど。


 ちなみにアルバイト先は飲食店。今まで高校生の人は一応募集していたけど、応募してきたのは私以外いなかったらしい。


 幸い私が通っていた高校はアルバイトが禁止されていないから、小遣い稼ぎも兼ねて学校に慣れて進路も決まった三年生の終わり頃から始めた。


 専門学校も早い段階で推薦をする事に決めていた事もあって、ありがたい事に結構長く続けさせてもらっている。


 ちなみに、将来的に長く続けられたら……なんて思っているのだけど、それはまだ誰にも言っていない。


「あ」


 そういえば……今日は新しい子が入ってくると店長が言っていたのを思い出した。確か私より年上だとか……。


「仲良く出来るといいなぁ」


 店長からまだ詳しい話は聞いていないけど、同じアルバイトなら仲良くしたいところである。


「仲良く出来るといいなぁ」


 なんて、夕焼け空を見上げながら切なる願望を小さく呟いてアルバイト先へと向かったのだった――。

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