第三話

「あー。実はお館様からお見合い結婚するから帰って来いって言われたんすよ」 

「お見合い結婚?」

 ぴくりと烏丸の眉が上がる。まずい。案の定、面倒臭いことになりそうだ。

 しかも情報が正しくない。誤解を招くような言い方を冬夜はしてしまった。

「お見合い、するんですか? 華様」

「いや……、正確には『帰って来ないならば、見合い結婚を強引に進める』と言われているだけで、まだ見合いするとは」

「やはり、僕がついて来て正解でしたね!」

「は……?」

「だって、お義父とうさんに僕たちが結婚することをお伝えすれば、見ず知らずの輩と結婚をしなくて済みますよ!」

 さも名案だと言いたげに、自信満々に熱弁する烏丸。

「いやいや、どうしてそうなる!? まだ、そなたと結婚するなどと返事はしていないぞっ!?」

 予想の斜め上を行く会話に頭が痛くなる。

 烏丸の思考回路は、一体どうなっているのか……。

「案外、それも良いんじゃない? 好きな人ができましたーって報告したら、お見合いしなくて済むだろうし」

「えっ、お父様に嘘はつけない」

「じゃあ、求婚されてることを伝えるとかはどうっすか?」

「それはそれですぐに祝言をあげかねない……」

「ああ、僕のことで悩む華様も良い……。すごく良、ごふっ」

 菜々桜や冬夜の案を却下している傍らで、また烏丸が鳥肌が立つようなことを呟く。静かに縁が脇腹に肘鉄をお見舞いしていた。

「舜様って、黙ってれば悪くないのに……」

 流石に、面食いの菜々桜ですら引いている。

 どうしてこんな人に好かれてしまったのだろう。不思議でならない。

「ひとまず、ここで悩んでいても仕方ありません。先を急ぎましょう」 

 縁が場を強引にまとめて、足を進める。誰も異を唱える者はいなかった。

 前を縁が歩き、あたしと烏丸を挟む形で後ろには、菜々桜と冬夜の順で隊列を組んで進む。道中、烏丸は森の生活のことを教えてくれたり、島での生活がどんなものだったのかを聞いてきた。

「島では、華様も魚を焼いたりとかしていたのですか?」

「そうだな。食料はそれぞれ調達してきて、それを手の空いてる者が料理していた」

「はぁ、華様が料理……。想像しただけで最高ですねっ、僕のお嫁さんは!」

「だから、嫁になるとは言ってない! あと変な想像をするなっ!!」

 こんな調子で烏丸との一日目の旅は、精神を削られながら、特に問題もなく宿がある町に辿り着いた。辺りも暗くなってきていたので、今日はそのまま宿に泊まることにする。



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