第二話

「姫様、今日の予定ですが朝食を取り終わり次第、出発しようと思います」

「え、あ、わ、分かった」

 その後も気まずい空気のまま食事が終わり、玄関に全員集合という流れになった。

「それでは、行きましょう」

 当然のようにあたしをおぶる縁。彼の号令で、冬夜、烏丸、縁の順にツリーハウスの入口から木を伝って、地面に降り立つ。

「ちょっ、ちょっとこの高さから降りるのは無理ぃー!」

 見上げれば、菜々桜が足を震わせて、ツリーハウスの入り口でしゃがみ込んでいる。木に登るのが得意でも、降りるのは苦手な彼女。ある程度の高さなら自力で降りられるが、この高さは怖いらしい。確かに四メートル以上はある大木だ。かなり高い。

「冬夜、お願いします」

「はぁー、姐さん情けないっすねー」

 縁の指示で、冬夜が菜々桜を助けに再び木に登った。しゃがみ込んだまま動かない彼女を抱きかかえ、お姫様抱っこで軽やかに降りてくる。

「こ、怖かった……」

「姐さんにも怖いものがあるんすね」 

「わ、悪い!? 女の子らしくていいでしょ!」

 冬夜にしがみついたまま、可愛らしいだろうと開き直る彼女に全員が苦笑する。場が少しだけ和む。

「では、この森を抜ける近道があるので、ご案内します」

 荷物を一つしか持っていない烏丸の案内で、時間をかけずに森を抜けることができ、一同は本家を目指した。

「本家まではどれくらいかかるのですか?」

「四、五日ぐらいですね」

 烏丸があたしの横に並ぼうとしたが、間に縁が割って入る。

 昨日からやけにこの二人、何かと張り合っていないだろうか?あまり深入りしないでおこう。

「今日は天気がいいから、結構先まで行けそうだな」

「そうですね。あと姫様、何度も言うようですが本家に戻るまでにその口調を戻しておいてください。お館様の雷が落ちます」

「間違いなく、『なんだっ、その口調はっ!?』って、お怒りモードになるわねー」

 菜々桜が雷蔵の口調を真似て、指で鬼の角を再現する。

 ちょっと似ているのが、これまた腹が立つ。七変化が得意なだけあって、声真似なども上手いのだ。

「しっかし、とうとうお館様も痺れを切らしたっすね」

「本当、それ! やっとかぁって感じよ、こっちからしたら」

「……あの、痺れを切らした、というのは?」

 冬夜の言葉に烏丸は疑問に思ったようで、菜々桜との会話に口を挟む。本家へ帰る理由に直接繋がる話だ。今、烏丸に伝えたら余計ややこしいことになりそうな予感がする。

 必死で冬夜に目で「何も言うな」と訴えるが、全く気付かれることもなくさらりと話してしまった。




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