第十五話

「ということは、貴方たちの方が華様よりいくつか上ですか?」

「はい。五歳のときから護衛しております」

「なるほど……。そんなに長い付き合いであれば、恋心を抱いても不思議ではありませんね」 

「……」

 わざと小声で烏丸が囁いてきた。 

 やはり、と言うべきか。烏丸には気付かれていた。彼の前で、あからさまな態度を取りすぎたと少し反省する。当の華本人は、全くこちらの気持ちには気付いていないだろうが――――。

「僕たち、ライバルってことですね。華様は今のところ、貴方の気持ちには気付いてなさそうですが」

「……あなたのような方に簡単に堕ちるような方ではないですよ」

「さて、どうでしょうか? 楽しみになってきました」

 不敵な笑みを浮かべる烏丸。ときどき掴みどころがなくて、真意を伺えない。

 華を嫁に選んだ本当の目的は、何なのか。

 本能的に気を許してはいけない相手だと、野生の勘が言っている。

「あ、いたっすよ。鬼姫」

 しばし烏丸と睨み合っていたら、冬夜が華を見つけた。

「あー! ここ、わたしが寝床にしようと思ってた部屋ー!!」

「しぃー。鬼姫が寝てるっす」

 後ろを歩いていた冬夜の方へ振り返れば、天窓のついている部屋の前で手招きしている。菜々桜は不貞腐れた顔で部屋を覗いていた。

 自分も引き返して覗き込むと、毛布もかけずに気持ちよさそうに寝ている華の寝顔が目に入る。

 幼い頃から寝顔はずっと変わらず可愛い。

「冬夜、烏丸様を足止めしておいてください」

「うっす」

 横に立っていた冬夜は、なぜ足止めをさせる必要があるのかなどと理由をいちいち聞かない。余計なことを聞いてこないから助かる。

 背後から部屋を覗き込もうとしていた烏丸の肩を冬夜が掴んだ。

「おーっと。殿方は部屋に入らないでくださいっすー」

「え、いや、彼は部屋に入ってるではないかっ!」

「狼野郎はいいんすっよ。姐さんもいるし」

「いやいや! 君も入ってたよなっ!?」

「俺は確認で入っただけなんで、ノーカンっす」

「意味が分からないんだがっ!?」

 二人が押し問答をしている間に、菜々桜と部屋に入って、華を抱き上げる。慣れた手つきで菜々桜がすぐに布団をめくり、自分はそこにゆっくりと彼女を寝かせる。そっと毛布をかけてやる。

「ったく、安心しすぎでしょ。仮にも敵かもしれない家で」

「それだけ、今は気持ちが安らいでいるということでしょう。……あれからもう六年ですからね」

「……まぁ、あの頃は悪夢で暴れまくってて大変だったわ。あの時に比べたらねぇ」

 菜々桜が肩を竦める。

 短いようで長い六年間だった。

 果たして、久しぶりの本家は一体どうなっているだろうか――――。

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