第十三話
梅は涙を浮かべ、深々と頭を下げた。
さて、今度は自分の番だ。
「二人とも迷惑をかけてすまなかった。縁、お父様と話がしたいから呼んできて。梅は何か食べられそうなものを用意してくれるか?」
「「承知しました」」
二人はすぐに動いてくれた。梅がお腹に負担のかからない米をすり潰したお粥を持ってきてくれる。それを食べ終わった頃に、雷蔵がやって来た。
「華、具合はどうだ」
「大分良くなりました。この度はご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした」
「よい。大事なくて本当に良かった」
雷蔵の顔には疲れが滲み出ていた。あたしが眠っていたこの三日間、事が大きくならないように走り回ってくれていたのだろう。
「色々と対応していただき、ありがとうございます」
「親ならば当然のことをしたまでよ。それに今回はわしにも落ち度があった。梅から聞いているだろう?」
「はい。……ですが、あたしはこの手で人を殺めてしまいました」
「それは仕方なかった事態だったと聞いておる」
当然、縁や梅から話を聞いているようで雷蔵は今回の件を責めない。
だが、そこまで甘えてはならないということはあたし自身がよく分かっている。人を殺めるなど、一番やってはいけないことだ。しかも我を忘れてしまうなど、以ての外。次期当主となる者として、あってはならない。
「今回のことは、決して許されることではありません。次期当主失格です。なので、この家を出て行こうと考えております」
「な、何を言い出す!?」
「我を忘れて人を殺めるなど、当主としてあるまじき姿を晒しました。それ相応の罰を本来ならば受けるべき身です」
「し、しかし」
雷蔵はいつになく髪を取り乱し、慌てている。予想だにしていなかったのだろう。身内にも厳しい父親が、こうも取り乱すとは驚きだ。
けれど、止められても覚悟は変わらない。一人でこの家を出ていく。これは思いつきで決めた訳では無い。物心ついた時から考えていたことだった。結婚の話などを持ちかけられたら、出ていこうと決めていた。それが早まっただけのこと。
「何も家を出ていかなくても良いのではないか?」
「いえ。この家のしがらみが無い所で、しっかりと自分と向き合う必要があると思うのです。それに、いずれは出て行こうと考えていました」
「お前までわしの元から居なくなるのか……」
今にも泣き出しそうな雷蔵の顔を初めて見た。胸が締め付けられる。
確かに海花の死の真実を知ったばかりで、心の整理もつかぬまま、娘まで居なくなるなど辛いこと、この上ないだろう。
自分は親不孝者だ。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。でも甘えてばかりではいられない。当主となるならば、尚のこと心を鬼にして、出て行かねばならぬ。――――鬼だけに。
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