第十話

「ちなみに、梅さんがちょうど河上の野郎と遭遇して、ちょっと気になることがあるとか言って、奴の近くに潜入してるっす」

「慎之介様は今どこに?」

「あっちの橋の」

 冬夜が指差した方から、ちょうど誰かが向かってきていた。華美な服装をした男だ。付き人を一人従えている。

 縁はさり気ない動きであたしを隠すように立った。その前を冬夜と菜々桜が立ち並ぶ。

 どうやら、目の前から来ている男が目的の河上慎之介のようだ。

 縁の肩越しに相手の顔をよく見る。薄ら笑いを浮かべているが、先祖の血を濃く引いてるのか、顔は河童そのものだ。背は低く、いかにも欲にまみれていそうな人物だった。

 海花はこの男の何処が良かったのか不思議に思うぐらい、良いところが見つからない。冬夜や縁の方が顔立ちが断然良いし、雷蔵も二枚目で背丈もかなりあって、逞しい身体をしている。彼らに勝る部分はどこにもないように思えてならない。

 慎之介は道の端に寄ったこちらには目もくれずに通り過ぎていく。――――かと思ったが。

「おや? そこにいるのは鬼ヶ崎家の者たちではないか?」

 慎之介が目敏く縁を見つけて、立ち止まる。どうやら番頭見習いとして、幼い頃から表に出ていた縁のことを覚えていたようだ。

 慎之介はいやらしい笑みを浮かべて、三獣士をじろじろと見る。

「早速、雷蔵殿からの文を届けに来てくれたのか?」

 慎之介の言葉に三獣士は誰一人と身じろぎもしない。その態度が気に食わなかったらしく、慎之介が語気を強める。

「おい、どうしたのだ! 早く渡さんかっ」

「……生憎、本日はこの先にお住まいの水野様のところへ遣いに行く途中でして」

 縁が低い声で慇懃無礼に答えた。だが、火に油を注ぐ結果となったようだ。

「貴様ら、オレにそんな態度を取っていいと思ってるのかっ!? あの女のようにやろうかぁ!!」

「あの女」

「のように?」

 冬夜と菜々桜が揃って首を傾げる。

「わ、若様っ。そ、そのことは……!」

 付き人が慌てたように口を挟むが、怒りで我を忘れている慎之介の耳には入らないようだ。彼の口は止まらない。

「そうさっ! あの海花のように貴様らも川に沈めてやるっ!!」

「……!」

 聞いていた話とまた異なる事実が発覚した。海花は流行り病で死んでなどいなかった。この男に殺されたのだ。

 ふつふつと身体の奥底から今までに感じたことのないような熱く渦巻いた感情が沸き起こってくる。同時に全身の血が騒ぐ。

「あの女、オレから逃げようとしたんだ。雷蔵の野郎のもとへ帰るとか抜かしやがって。うるさくて敵わんから、沈めてやったのさ!! 雷蔵も馬鹿な男だよなぁ。ここまで確かめに来ないから、病で死んだと思っててよ。あーはっはは!」


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