第八話
翌朝、全員が揃ったところで辺りが暗いうちに出発する。
縁におぶられながら、初めて行く土地の景色がものすごいスピードで流れ去っていく。
「着きました」
先頭を走っていた梅が近くの茂みに隠れる。その視線の先には、小さい物置小屋風の屋敷があった。
縁の背から降りて、屋敷の様子を伺う。屋敷の周囲を小川がいくつか流れている。水がないと生きていけないのだろう。河童らしい家だ。
少し離れたところから見てるので、ここからでは人がいるかどうかは分からない。
太陽の位置から見て、お昼前といったところか。本当なら昼の準備で、屋敷内がもう少し騒がしくなっていてもおかしくない時間だ。けれど、河上の家は誰もいないかのようにひっそりとしている。
「ちょっくら、ここら辺りを探ってくるっす」
「あ、わたしも行きます」
冬夜がじっとしていられず、屋敷周辺を見に行くと言い出した。彼一人で単独行動するとなると、何をしでかすか分からない。それを察知した梅がついて行ってくれた。ありがたい。梅がいれば、もし誰かに遭遇してもすぐには戦闘にならないだろう。
二人と別れてからしばらくして、屋敷から誰か出てきた。
「菜々桜」
屋敷の近くに立つ木の上でまったりしていた菜々桜に縁が声をかける。その声にすぐ反応して、彼女は木から音もなく飛び降りた。
地面に降り立った時にはすでに人間の豊胸な女性の姿になっていた。いつもある耳と尾は綺麗に仕舞われている。化粧にも抜かりがなく、同性から見ても惚れ惚れするほどの美女だった。
さすが、七変化が得意な彼女だ。
「行ってきまーす」
屋敷から出てきたのは男一人だけで、その背を菜々桜が追いかけていく。さらにその後ろを距離をとりつつ、縁と二人で後をつける。
「ちょいと、そこのお兄さん」
「ああん?」
菜々桜が早速仕掛けた。二人の会話がギリギリ聞こえる距離を保って歩く。
「あら、やだ。色男だねぇ。ちょいと、一杯どう?」
話し方までも変わっていて、本当にあの菜々桜かと信じられないほど色女になりきっている。男にすり寄って、わざと胸を当てる。
「ふん。お前、金目当てか? 相手が悪かったな。生憎、今は持ち合わせがないんだ。他を当たってくれ」
冷たく答えつつ、男の目がチラチラと菜々桜の胸に行く。
「そうなのかい? 見たところ、お兄さんは河上様のところの人じゃない?」
「それがどうした」
「あそこの旦那、最近流行り病で最愛の人を亡くしたって聞いたよ」
「そうだ。なんだ、お前も狙ってるのか? 後妻の座を」
「あ、分かるかい? 前からいい男だなと思ってたんだよ」
「珍しい女もいるもんだな。だけど、諦めな。後妻は別の人がなる予定らしいぜ」
「え、そうなのかい? 一体、それはどこのどいつだい?」
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