第六話
縁が鼻をひくつかせ、すぐに警戒態勢を解く。
「大丈夫です。敵ではありません」
「う、梅です……」
またもや小さい声が障子のすぐ近くから聞こえてきた。よく聞けば、確かに梅の声だ。
「梅? どうした? 急用?」
縁に障子を開けさせると、廊下に正座した梅がいた。
彼女は周囲の様子を伺いながら、部屋に入ってもよいかと小声で聞いてくる。頷くと俊敏な動きで部屋に入り、障子を静かに閉める。
「華姫様。この梅、お役に立てるかと存じます」
「……話を盗み聞きしていたのか?」
「申し訳ございません。華姫様が戻ってきた時から、何やら思いつめているような顔をされていたので、つい……」
小さい身体をさらに縮こませて、梅は俯く。
この家に長く勤めている者として、唯一事情を知っている側からしたら心配するのは無理もないかもしれない。
思いが顔に出てしまっていたとは、次期当主としてまだまだ修行が足りないと痛感する。
大きくため息をつき、梅を見る。
彼女はあたしのため息にビクリと肩が跳ねた。
「心配をかけてすまない。それで、梅は何か情報を持っているのか?」
「は、はい。海花奥方様を連れて行った男の名は、
「河上……、もしかして」
縁が男の名を聞いて、何かを思い出したようだ。梅は縁の言葉にうなずく。
「河上家は荷運びをお願いしている一族で、慎之介殿は次期当主として出入りしておりました」
「やはり。奥方様の面識があってもおかしくはないですね」
名前にピンと来ず、首を傾げる。それに気づいた梅が補足してくれた。
「例の一件があってからは河上家を外し、水野家にお願いしているのですよ。華姫様は、水野家のことしかお伝えしていないので、存じ上げないかもしれません」
「なるほど。当主になるなら、過去の関わりがあった家のこともちゃんと勉強しておかないといけないな」
「確かにそうですね。後日、私からお教えします」
縁が教えてくれるのであれば、心強い。彼の父は、雷蔵の護衛兼番頭をやっていたため、縁も番頭見習いとして鬼ヶ崎家にまつわることは全て頭に入れている。頼もしい限りだ。
「梅さん、水のある地域のどこら辺にいるかまでは知らないの?」
菜々桜が具体的な場所を聞き出す。
「いえ、存じております。わたしの親族がそこに潜入しておりますので」
「そっか。梅さんたちは、隠密だものね」
そうなのだ。管狐を先祖に持つ彼女たち一族は、あちこちの物の中に隠れられるぐらい身体の大きさを自由に変化できる力がある。
それゆえ、隠密として忍びの仕事も担っているのだ。
かくいう、梅も現役で隠密のお頭として活躍している。
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