第五話

「ええっ!? あたし、まだ実際に戦ったことなんか」

「そこはもちろん、俺らが守るっすよ。ねぇ?」

 同意を求めるように、冬夜は他二人の顔を見た。

 縁はすかさず険しい顔で反論する。

「さすがに姫様を戦場へ連れて行くわけにはいきません」

「あたしは、そういう面倒臭いのに巻き込まれるのはごめんだわー」

 菜々桜も髪をいじりながら、冬夜の意見に反対した。

「だけど! 鬼姫だって自分の目でちゃんと奥方様の憎き相手の姿を見たいっすよね!?」

 冬夜が前のめりにこちらの顔を覗き込んでくる。

 彼の言う通り、幼い頃に海花と引き離され、ろくに会えないまま病気で知らぬ間に母を失った悲しみは大きい。相手を罵りたい気持ちはある。でも、自分がその場にいれば、足手まといになるのもまた事実。

「冬夜、少し落ち着きなさい。姫様だって、まだ心の整理ができていないだろう」

「まぁ、行くだけ行ってみてもいいんじゃない? 遠目からそいつを見てみて、どうするか決めてもいいんじゃないかって話」

「え……?」

 菜々桜から思わぬ提案をされて、驚く。争いなど好まず、その現場にも居合わせたくない、面倒臭いことは大嫌いな彼女にしては珍しい。

 つい、じぃーっと彼女のことを見つめていたら、菜々桜はそっぽを向く。

「な、何よ。ちょっとはあんたに同情してあげてんのよ。悪い?」

「菜々桜……。ふふ、ありがと」

 猫らしくツンデレな彼女を久々に見た気がした。

「よっしゃあ! なら、行くってことで決まりっすねっ!?」

「冬夜、お前……ただ暴れたくて仕方なかっただけでしょう」

 冬夜の異様に高いテンションに、縁が苦笑する。

 あたしは慌てて釘を指しておく。

「今回はあくまで偵察だからっ! まだお父様を止める根本的な解決法は決まってないから!!」 

「分かってやす。でも一人、二人ぐらいは良いっすよね……?」

 上目遣いで冬夜がこちらを見てくる。やっぱり殺るつもりだ。

 根っからの暴れん坊将軍だから、仕方ないのかもしれない。一方で、色々と心配になってくる。

「で、ところでその男が今どこを根城にしてるかは知ってるの?」

「あっ……。えっと、鬼ヶ崎家の領外ってことは……」

「はぁぁぁ。あんた、肝心な情報がなかったら意味ないじゃない! ねぇ、馬鹿なの?」

「すみません……」

 菜々桜がまたしても機嫌が悪くなった時だった。

「あの」

 部屋の外からふと小さい声がした。ぴくりと三獣士の耳が動き、一気に部屋に緊張感が漂う。

 この部屋には誰も通すなと梅には伝えてある。一体、誰が侵入してきたというのか。

 

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