第三章 忌まわしき過去
第一話
自由に部屋を使っていいと言われていたから、夜空がよく見える天窓がついた部屋を選んだ。他の部屋と違って、木の上部に位置するので静かで良い。
森の虫の音を聞きながら、布団に横になる。見上げれば天窓があり、満天の星空が瞬いている。
「ふぅ……」
大きく息を吸い込み、一気に吐き出す。少しだけ気分がスッキリする。
だが、すぐに先程の烏丸との会話を思い出し、嫌な記憶が頭をかすめた。
あれは六年前の家を出る前の頃――――。
◇◇◇◇
「華、お前に話しておきたいことがある」
冬夜といつものように朝稽古をしている時だった。
険しい顔をした父、雷蔵が縁側から声をかけてきた。
「話?」
「ああ。着替えて、わしの部屋へ来い」
それだけ言って、すぐに雷蔵は立ち去っていく。思わず、冬夜と顔を見合わせる。
「話って……、何だろう?」
「あれじゃないっすか。今、領内で噂になっている、何者かが村を襲っているというやつっすかね」
「ああー、深夜に襲われて金目のものとかが盗まれているっていう?」
「そうっす。鬼姫に捕まえてもらおうとか」
「えー、それはないなぁ。だって、あのお父様だよ? 姫は姫らしく芸事を学べって、口うるさいし」
まだ姫らしい口調で話していた頃だ。
とりあえず、呼ばれたからにはすぐに行かねばならない。あまり待たせると、リアル雷が落ちると共に長ーい説教をされる。
冬夜に金棒の手入れをしておくように命じ、自分の部屋へ急いで戻る。
汗をかいた身体を水で濡らした布で軽く拭き、着替えを女中の
梅は小さい時から母親の代わりに世話をしてくれている第二の母親のような存在だ。
管狐の末裔である梅は、小柄で幼い容姿をしている。だが、見た目に反して、雷蔵が生まれる前から鬼ヶ崎家に仕えていると聞く。かなり長生きする家系らしい。年齢は不詳だ。
「ねぇ、梅。もう少し軽い服装ではだめ?」
「いけません、華姫様。お館様との大事なお話なのですから」
いつもの動きやすい軽装ではなく、今回はしっかりと十二単衣を着せられている。
暑くて重く、息苦しい。脱ぎたくて仕方ない。
支度が整い、梅を連れて雷蔵の部屋へ向かった。
「お父様、華です」
「ああ、入れ」
梅が静かに襖を開ける。あたしは着物の袖の動きを意識しながら正式な所作のお辞儀をしてから、中へ入っていく。そのまま襖が閉められた。
完全に雷蔵と二人きりになってしまった。
雷蔵は何も言わずに、じっとこちらを真っ直ぐに見てくる。実の父ながら鬼以上に怖い存在なだけに、その場にいるだけで威圧感がすごい。
ゴクリと生唾を飲み込んだタイミングで、雷蔵が口を開いた。
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