第五話
「華様、席までお連れいたしましょう」
「……かたじけない」
彼の手をとることはせず、軽く頷く。
今度は烏丸が苦笑を浮かべながら、手を引っ込めた。
そのまま空いてる席まで案内してくれる。流れで彼は横に座ろうとしたが、しれっと縁があたしの隣の席に着いた。烏丸は驚きつつも仕方なしと言いたげに肩を竦め、向かい合うような形で反対の席に座った。
「華様の護衛たちはガードが堅いようだ」
「姫様は世間をあまり知らないものですから、悪い虫がつかないようにするのは、当然の務めです」
バチバチと火花が散りそうな勢いで二人が睨み合う。
せっかくのご馳走が不味くなりそうだ。
冬夜や菜々桜の近くの席に座れば良かったと、遅ればせながら後悔する。
「華様は嫌いなものはありますか?」
「ない」
「姫様、こちらの皿に取り分けましたので」
「ああ」
縁はすでに肉料理、魚料理、野菜、果物それぞれ適量を皿に盛り付けてくれていた。どれもおかわりがしやすい、丁度よい量を取り分けてくれている。
やはり、仕事ができる男だ。
「さすが、縁。量を分かっているな」
「お褒めの言葉、ありがたき幸せ」
大仰に胸に手を当て、膝まづく縁。
ちらりと烏丸の方へ勝ち誇ったような視線を向けている。いつも冷静で動じない縁だが、今日はいつになく烏丸に喰ってかかっている気がする。
気のせいだろうか?
「モテる女は辛いわねぇ。……ま、何であんたみたいな奴がモテるのか謎だけど」
菜々桜が目を細めて、ボソリと呟いた。
「まぁ姐さんと違って、鬼姫は清々しいほどさっぱりとした性格っすから」
「なによ、わたしがネチネチ女とでも言いたいわけっ!?」
「あ、俺の肉がぁぁぁぁ」
冬夜の持っていた肉に菜々桜が食らいついた。
どうやら、冬夜は菜々桜の怒りを買ったようだ。自業自得だが、二人で楽しそうに食べ物を巡る戦いを繰り広げているのは、ちょっと楽しそう。
「それで華様。まだ、何用で家に帰るのか聞けていませんでしたね」
縁との無言の戦いを早々に切り上げたのか、烏丸が話を振ってきた。
家に帰る理由を伝えるのは少々気が進まない。思い出したくないものまで話す必要が出てくるから、余計にだ。
特に求婚をしてきた烏丸には――――。
ひとまず、肉料理を口に入れてみる。
「……んっ! これはめちゃくちゃ旨いな!? 絶妙な柔からさだ」
「華様のお口にあったようで良かったです。彼らも喜んでいます」
まだ天井の梁にいたカラスたちが自信満々に胸を張っていた。
「そうか。お前たち、旨い料理をありがとう」
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