第四話
「えっと……どこまで話したっけか」
「僕も跡継ぎかというところですね」
「そうだ、そうだ。で、どうなんだ?」
「正確に言えば、跡継ぎだった、でしょうか」
「だった?」
意味深な発言に、三獣士の耳もぴくりと反応する。聞き耳を立ててるようだ。
烏丸の次の言葉を待つが、言うのを躊躇っているのか、しばし沈黙の時間が流れる。辛抱強く待っていたら、諦めたように彼が口を開いた。
「実は僕には三歳下の弟がいまして。僕より才能があり、当主に相応しい奴なんですよ。けど、弟は優しくて長男である僕に遠慮する。……だから、僕が家を出れば彼は本領発揮できると思って、ここに逃げてきたわけです」
「そうだったのか……。すまない、不躾なことを聞いた」
頭を下げると、烏丸は勢いよく首を横に振る。
「いえ、気になさらないでください! 僕は跡継ぎとしての器が小さかっただけのことですから」
「それで、何でこんな人と結婚しようと思ったわけ?」
突然、菜々桜が会話に割って入ってきた。
だが、烏丸は不自然に話をそらした。
「それより、皆さんお腹は空いてませんか? 大したおもてなしはできないですが」
無理矢理、話題を変えたように思えてならない。
食事をする部屋の扉が勢いよく手前に開いた。すでに食卓にはたくさんの料理が並べられていた。肉料理から魚料理、色とりどりの野菜や木の実、果物までいくつもの皿に盛られている。
一体、誰がこんなに大量の料理を準備したのだろうか。
あたしの疑問を読んだかのように、複数のカラスが天井にある梁から鳴き声を轟かした。
「カラスたちがこれ全部……?」
「はい。彼らは意外と器用なんですよ」
得意気に胸を張る烏丸。
「うひゃあ、めちゃうまそうっす! けど、毒とか睡眠薬なんか入ってたり……」
「いや、匂いを嗅いだ感じではそういった類のものは盛られていないです」
縁が鼻をひくひくと動かす。
「よっしゃ! んなら、遠慮なくいただきまっす!!」
一番に冬夜が席に着き、肉料理に手を伸ばす。かと思ったら、一瞬で料理が消えた。
あまりの早さに、目を瞬かせる。体感では本当に一瞬だった。食い気に勝るものはない、とはこのこと。
「あ、冬夜! 魚は残しておいてよねっ!」
「こらっ、お前たち。誰が姫様より先に食べていいと言いましたかっ!?」
「だって、腹減ってるんすよ? ねぇ、姐さん」
「そうそう。ゆーくん、そんなカリカリしてたらお肌に良くないわよぉ。せっかく美肌なんだから」
もう苦笑するしかない惨状になっている。
離島に住んでいた時からこの調子だ。むしろ、烏丸が本家に来るよりも三獣士の処遇の方が大丈夫かと心配になってくる。
そんな心配をよそに、三人はわいわいと楽しそうだ。
口元が緩みそうになったとき、烏丸が不意に手を差し出してきた。
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