第三話

「姫様。無闇に相手を信用してはいけませんよ。姫様の同情を引こうとしているのかもしれませんから」

「わ、わかってる。いちいち言われなくても」

「承知なのでしたら、安心です」

 縁は柔らかく微笑み、前を行く烏丸の後をついていく。察しの良さにどきりとする。

 この小言さえなければ、彼なら十分モテるだろうに。

 送り狼の血の所以か、見た目は申し分ない。特に犬山家は代々、美形一家なのだ。縁談もたくさん来ているはずなのに、縁には結婚しようという気配が一切ない。主としては少々心配になる。

 まぁ、自分も人のことは言えないが――――。

「家に帰るの、だるいなぁ……」

 つい本音が漏れてしまう。

 今回、離島からわざわざ出てきたのには理由があった。

 本家にいる雷蔵に呼び出されたのだ。しかも戻って来なかったら、お見合い結婚を強引に進めると文に書かれていた。あの雷蔵ならやりかねない。我が父ながら恐ろしい人だ。それで満場一致で急遽、島から出てきた次第である。

「ところで、華様たちは何用で家に帰るのですか?」

 烏丸の質問に我に返る。一通り、このツリーハウス内を案内してもらい、食事をとる部屋に向かっている時だった。

 彼が疑問に思うのも当然だろう。そもそも何故、家を出たのかも気になっているに違いない。

 本当のことを隠しつつ、それっぽい理由を話す。一割程度は本音を交えつつ――――。

「実は、六年前に父親に反抗してあたしも家を出たのだ。遠く離れた島で自由に過ごしたくてな」

「そうなのですか。華様は跡継ぎとして、厳しく育てられていたのですね」

「そう! そうなんだ。窮屈で仕方なくて、それに嫌気が差したというか……」

「分かります」

「分かるかっ!? 烏丸殿も跡継ぎなのか?」

 より一層、烏丸に親近感が湧いた。

「んんっ! 姫様、言葉遣い」

 縁がまたもや咳払いをして、会話に入ってくる。

「てか、いいのー? そんなこと話しちゃって」

「そうすっよ! こいつ、敵かもしれないんっすよ」

 菜々桜や冬夜まで口を挟んできた。

 まだ本気で気を許した訳では無い。本家までついて来るのであれば、多少は事情を知っておいた方がいいだろうと判断したまでだ。それに、この二人には家を出た本当の理由を話していない。だから、彼に言った理由で家を出たと未だに思っているのだろう。

 烏丸は楽しそうにこちらを見ている。

「僕は、決してあなた達の敵ではありません。素の華様を知ることができて、むしろ嬉しいぐらいだ」

「姫様、せめて口調だけは」

「もう、今更取り繕っても遅いだろ。烏丸殿もこう言ってくれてるしな」

「ですが」

「縁、しつこい」

「……失礼いたしました」

 少し傷付いた表情をしながら、縁は渋々引き下がった。他の二人も口を閉ざす。ここは大人しく引くことにしたようだ。

 これで邪魔されずに話を進めることができる。縁の表情が気になりつつも、話を続けた。





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