第六話

「ちょっと、あんた! いつの間にこんなイケメンと知り合いだったのよ!?」

「だから、今日初めてだって!!」

「こんな色気もない奴のどこが良くて、求婚なんて……」

「俺もそう言ったんすけどねぇ」

 珍しく、菜々桜と冬夜の意見が一致した。いつもは反発し合う二人なのに、こういうところだけは、互いに意見が合うのだ。

 ここまで護衛たちにコケにされる姫もそうそういないだろう。

 まぁ、いつものことだから慣れてしまった。

「お前たち、姫様に失礼ですよ」

 主人に忠実な狼男の縁が二人をたしなめる。

 マイペースな猫の菜々桜と自由奔放な鼬の冬夜はどこ吹く風だ。

 一人、ぽかんと唖然としている烏丸。

 あたしらのテンポについていけてないようだ。

 縁は咳払いをして、烏丸に向き直る。

「烏丸様。申し訳ございませんが、今日のところはお引き取り願えますでしょうか? 実は姫様は急ぎ本家へ戻る必要がありまして」

「本家?」

「はい。ですので、また別途お時間を設けて、このことについてお話ができればと思います」

 さすが、縁だ。断り方が自然で上手い。

 静かに心の中で拍手をする。

 盗っ人を捕らえるなどという道草を食ったが、これでも急いで実家に帰っている途中だったのだ。

 まさか、求婚される事態が発生するとは誰が想定できただろうか。

 烏丸の様子を伺っていると、彼はしばらく目をつむり押し黙った。

 やがて何かを決意した表情で、あたしの方へ視線を向ける。

「それでは、僕も本家までご一緒してもよろしいでしょうか?」

「「「「ええっ!?」」」」

 これまた突拍子もない展開に驚きの声が四人重なる。

 この烏天狗、なかなかに厄介かもしれない……。

「ど、どうする? 縁」

「あり得ないでしょ。初対面の人をの所へ連れて行くとか」

「そうっすよ。雷があちこちに落とされまくられるのがオチっす」

「そうなんですよね……。この姫様にあの親あり、ですからね……」

 三獣士たちが揃って、首を横に振る。

 失礼なことをまた言われているが、今回は事実なので何も言えない。

 お館様こと、鬼ヶ崎家の当主である雷蔵らいぞうは、その名の通りで怒ると本当に雷が落ちてくる危険人物だ。

 他人にも身内にも厳しいというので、有名な人である。

 一人、烏丸だけが不思議そうにしている。

「というか、森を治めている人が簡単にここを離れてもいいものなのか?」

 ふと、自己紹介の烏丸の言葉を思い出す。

「そうっすよ! こいつ、この森の領主らしいっす」

 冬夜も思い出したようで、加勢してくれる。

 だが、烏丸はにやりと不敵に笑う。

「その点については、ご心配なく。一週間ほど留守にしていても、僕の何百もの手下が見張ってくれるので」

「何百もの、手下?」

「彼らです」

 烏丸が木々を指すと同時に、一斉にバサバサと無数の黒い塊が飛び立っていく。

「カラス……?」

「なるほど。これほどの数がいれば、確かにしばらくは離れていても問題はなさそうですね」

「でしょう? 彼らは、僕がどこにいても随時報告もしてくれるので安心して森を任せられます」

 縁の言葉に烏丸は得意げに答える。

 完全にあたしらについて来る気満々なのが伝わってくる。

 恐るべし烏天狗――――。

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