第五話

「何を言う。彼女は凛としていて、素敵な女性ではないか」

「うんうん、そうだそうだー!」

「いや、鬼姫は黙っててくださいっす」

「な、なんだとっ!?」

 口出しをしたら、冬夜に一喝された。

 烏丸が片眉を上げ、冬夜を上から下へと今更ながらジロジロと見る。恐らく眼中になかったのだろう。

「貴様こそ、彼女のなんなのだ」

「俺は鬼姫の護衛っすよ」

「なるほど。護衛ごときが僕の結婚に口を出さないでもらいたい。これは僕と彼女の話だ」

「いやいや、こんないかにも怪しい男に鬼姫をそう簡単に渡す訳にはいかないっしょ!」

 三獣士の中ではおバカキャラの冬夜がまともなことを言っている。少し感動してしまう。

 けれど、感動している場合ではない。

 困ったことになってしまった。この手は初めての経験だ。こういう類は、今まで全て縁に任せていた。

 その肝心の彼は、今ここにいない。

 バラバラで行動したことを少し後悔する。

 一体どうすれば良いのか。冬夜では埒があかない。

 ここは姫らしく、ハッキリと断るべきか。

 相手の気分を害さないような言い方をしなければならない。

「あ、あのっ! 烏丸殿」

「はい、何でしょう。愛しの華様」

「い、愛しのっ!?」

 思わぬ言葉に声が裏返る。

 いけない、ここはしっかりせねば。

「ごほん。烏丸殿。大変ありがたい申し出なのだが、あたしだけでは判断しかねることなので追って……」

 連絡しよう、と言い終わらぬうちに二つの影が冬夜の左右にすっと並び立った。

「きゃあ! なんかイケメンがいるぅ」

「これは一体どういう状況ですか、冬夜」

「菜々桜! 縁!」

 絶妙なタイミングで二人が戻ってきてくれた。

 烏丸は表情を変えずに彼らを見る。

「あなたたちは?」

「姫様の護衛の者です」

「この子のお守りみたいなものよー。ね、ね、イケメンさん。あなたのお名前は?」

「僕は烏丸舜と申します。華様の未来の夫となる者です」

「「は??」」

 今度は菜々桜と縁が声を揃えた。

 うん、分かる。は? って言いたくなるのだ。未だに自分でも求婚されたことが信じられない。

 縁が確認するようにこちらへ顔を向けた。

「姫様、これは……」

「いや、あたしも驚いてる。今日初めて会った人に求婚されるなんて」

「では、知り合いというわけではないのですね?」

「それは、あなたが一番よく知っているでしょう?」

 一応、烏丸の前なので、姫らしく振る舞う。

 色々と理由わけがあり、今日まで自分たちは遠く離れた島でひっそりと四人で暮らしていたのだ。他の人と知り合える機会など皆無だった。

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