第四話

「何者だ」

 上空から姿を見せた黒ずくめの者を睨みつける。

 冬夜はすでにいつでも飛びかかれるような戦闘態勢だ。

 今の今まで、気配を全く感じなかった。

 人一倍に鼻が利く縁や、姿の見えない者の気配を探知できる菜々桜ですら、この者に気付けなかったということか。

 彼らは怪しい者がいるなどとは特に言っていなかった。

 黒ずくめがバサリと羽の音を立てながら、ふわりと降りてくる。

 さりげなく、冬夜が前に進み出た。

 自分も金棒を握る手に力を入れつつ、相手の出方を見定める。

 黒ずくめは地面に足をつけて、そのまま跪いた。

「お初にお目にかかります。麗しきお方」

「……お前は一体、何者だ。名を述べよ」

 口調には気をつけて、姫らしく尋ねてみる。

 頭を下げていた黒ずくめが、ゆっくりとした動作で顔を上げた。

「僕はこの森を治めております、烏丸からすまるしゅんと申します」

 黒髪短髪に黒い羽根。服の裾から見えるのは鳥脚。おまけに眼は金色だ。

 切れ長の眼がこちらをじっと見つめる。

 縁や冬夜以外の異性に見つめられることなどないから、少しどぎまぎしてしまう。

「……そなたは、烏天狗の子孫か?」

「はい。僕はその末裔になります。お見受けしたところ、あなた様は鬼の末裔の姫様でしょうか?」

「左様。烏丸殿の領地とは知らず、騒がしくして申し訳ない。すぐにここを去るので、気を悪くしないでいただきたい」

 冬夜へ視線をやり、その場を離れようと背を向けたところで、烏丸に呼び止められた。

「お待ちください。あなた様の名は」

「華だ。鬼ヶ崎華」

「華様……。素敵な名だ。是非とも僕のお嫁に来てもらえませぬか?」

「「……は?」」

 突然の申し出に冬夜と二人、間の抜けた声が出る。

 今、”嫁”と言った? このあたしを嫁に欲しいと?

 頭が混乱して、口を開けたまま呆然としている間も烏丸の演説が続いていた。

「先程のあなた様の金棒使い、空から拝見させていただいておりました。身体が震えるほど素晴らしかった! これほどまでに強い女子と僕は出会ったことがないっ。まさにあなた様は、この僕の妻にふさわしいお方だ!!」

「え、あ、ちょっ……」

 あまりの熱弁について行けない。

 反応に困っていると、一足早く我に返った冬夜が口を挟む。

「おいおい! あんた、頭大丈夫かぁ? 鬼姫だぞ? ガサツで男顔負けの強さを誇る姫様っすよ?」

「僕はいたって真剣だ」

「間違っても女らしさの欠片も色気もないような人っすよ?」

 何だか聞き捨てならないことを言われている気がする。

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