何章でも

蒼井アリス

何章でも

 人の一生には大きな変化が何度も訪れる。


 この世に生まれた日が最初の変化。

 母親の体内で守られ育まれてきた10ヶ月がまるで幻だったかのように厳しい外界へと放り出される。

 栄養は自分の口から摂取しないと生き延びれないし、すべてが初体験で戸惑うことばかり。わけも分からず周りの大人にされるがままの日々が続く。


 次の大きな変化は集団生活。

 保育園や幼稚園に入園して小さな生き物の集団に自分の意志とは関係なく放り込まれる。「何だこいつら?」と思うが自分もその中の一人であることにはまだ気づかない。


 そして義務教育が始まる。

 自分が「子供」という属性であることがおぼろげに自覚出来るようになり、学校という集団の中で生き延びる方法を模索するころ。


 義務教育が終わる頃、自分の意志で未来を決める最初の試練を経験する。

 どこの学校を受験するのか、将来自分はどうなりたいかをぼんやりと形にする時期。


 その後も、進学、就職、失恋、転職、結婚、離婚、家族との死別。様々な出来事を経験し、それまでとは大きく違う人生を歩み始める。それはまるで長編小説を構成する章立てのように続いていく。


 一つの章の終わりは次の章のスタートライン。


 楽しい章、苦しい章、華やかな章、どん底の章、出会いの章、別れの章。いろいろなストーリーが章ごとに語られる。


 過去の自分より少し強く賢くなった自分が作る新しい物語。何度でも何度でも、新しい章を始めればいい。「己の死」という最終章を書き上げ、本を閉じるまで時は続くのだから。

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何章でも 蒼井アリス @kaoruholly

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