ch.2 模倣から書く

 こうして私は文字を綴り始めた。

 いっても最初は模倣も模倣。しかもその時にハマッていた赤川次郎のミステリーを、それこそ台詞セリフから文体から真似まくっていた。


 最初に書き上げたのは、それこそ赤川次郎(敬称略)の『死者の学園祭』を設定そのままパクったとしか言えないものだった。今もおそらく開封厳禁の段ボール箱の奥にあるだろう。

 そんな稚拙な小説を、中学の友達などに回し読んでもらったりなんかして、しまいには当時の担任(国語教師)にまで見せて感想求めたりしたあたり、相当イタイ。

 無知は無敵だ。

 今だったら、とてもじゃないが人様に見せられるようなシロモノじゃない。

 それでも友達は楽しんで読んでくれたし、先生もそれなりに誉めてくれたりしていた。時々、誤字脱字や言い回しの校正までしてくれていた。ありがたい。


 こういうことを書くと、今の人ならばどうしてネットにあげないの? となるだろうが、当時はネット紀元前だ。そんなものはないのだ。

 せいぜいあるとすれば、どっかの文学雑誌の同人募集で同じような趣味の人を見つけて、その同人誌に投稿する……なんてものだったろうが、こづかいも少なく、漫画なんかも買っては売って、どうにか読み繋いでいる貧乏中学生が、文学雑誌なんざ買うわけなかろう。

 必然、小説を書いて見せる相手は、どうしたって友達が中心になってしまう。


 この私の小説の回し読みは中学三年間続いたのだが、私なんぞが小説を書いていることに刺激を受けたのか、周辺でも「私も書いてみた」と言って私に読んでくれと言ってくる友達が二、三人いた。

 中には私のペンネームまで真似してくる子なんかもいて、それは少々うっとうしかったが。

 こうしてにわかにライバル(?)が増えても、古くからの友人などは「葵ちゃんの小説が一番面白いよ」と言ってくれたりして、私はまぁまぁいい気分になったりした。

 書いてるのが一流作家の模倣なんだから、そりゃ多少は面白いに決まっとる。そもそも学生時代の級友クラスメイトなんぞ、友達の距離感を保つためにある程度の方便は使うものだ。


 それから私の創作は、その時々に読んでいるものによって変化していった。

 赤川次郎の後にはファンタジー。

 ライトノベルであるところのコバルト文庫やホワイトハート文庫などだ。コバルトだと前田珠子や若木未生、桑原水菜。ホワイトハートだと小野不由美や、高瀬美恵など。(すみません。敬称は略させていただいております)

 まぁ、ほとんどは美女とイケメン狙い。

 実のところ、今書いてる小説も、多分にこの頃の要素が抽出されている。

 同時期には漫画でウィングス(高河ゆん、CLAMP等々)にはまっていたから、そこからBLものも開花する。

 それでもって歴史小説なんかも読み始めて、がっつり三国志の沼に溺れ、今で言う『推し活』さながら諸葛孔明に関する同人誌なんかも漁りはじめて、コミケなんぞにも出没。(最終的には三国志ツアーという当時ではマニアック過ぎる他大学のゼミで企画したツアーに紛れ込んで、中国に行ったさ~)

 もちろん最初に書くきっかけとなったミステリも外せない。洋物ならばアガサ・クリスティやエラリー・クイーン、日本ならば横溝正史や、島田荘司、有栖川有栖……。ほかにも海外の児童文学だったり、かと思えば古典やら、明治の文豪作品やら……もう書き出したらキリがない。


 だがこれだけ読む幅が広がると、当然ながら否が応でも自分のアラは見えてくる。

 言っても成人前の、ただのオタク女だ。

 まだまだ視野も狭く、住む世界の大きさも知らぬかわずの子。

 書いたところで、二番煎じ三番煎じでしかないのは、自分が一番よくわかっている。

 なにより、自分が読んでも楽しいと思えない。


 こうして高校から大学にかけての私は、だんだんとアウトプットよりもインプットに時間を費やすようになっていった。どっちつかずのまま、時々何となく思いつきで書いては、放り出す。途中で止まったままの小説ばかりが増えていった。


 私は段々と書くことから離れていった。

 書いても書き切れない自分に嫌気が差していた。

 書けない自分が嫌いだった。

 アイデアが浮かんでも、文字にすると途端に色褪せて、思い通りにいかない。


 才能もなく、努力もしない人間が小説を書くには、まだまだ知識も経験も足りていなかったようだ。

 だが、才能がないと諦めるには若すぎたし、努力するといっても何をすればいいのかわからなかった。


 再び書き始めたのは、社会人になって数年過ぎた頃。

 これまた『これだったら私も書いていいんじゃね?』という発見があったからだ。

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