第8話 こらあ
「あ、ごめん! いや、あの、その……」
慌てて目を拭いて、篠原を見る。
俺、最低だ。
最低だ!
「ごめん! 篠原に八つ当たりした!」
「…………」
何も言わない篠原に、恐る恐る顔を上げる。篠原は、不思議な表情でジッと俺を見ていた。
怒ってる訳でも、悲しそうな感じでもない、静かな顔だ。
よくわからんけど、ぶっ飛ばされよう。
篠原の気が済むまで。
「あの、上村君」
「は、はい! どうぞ! お気の済むまで!」
右の頬を差し出して目をつむる。
「………もう、馬鹿。ね、昔みたいに話してもいい?」
「お、お好きになさって下さい」
「こらあ」
「あいたっ?!」
頭を軽く叩かれた。
「実は私もずっと片想いして……んん? 意外と昔の話し方忘れてるかも? 3年の努力の成果だな、エヘン」
確かにどっか違うな。
今と昔の中間くらいか。
片想い?
篠原、中学の時も今もモテモテじゃなかったか? モデルみたいなスタイルで、顔も雰囲気も超美少女のお嬢様のこいつが?
「お前、片想いしてんの?」
「ん。だから上村の話、イタタタって感じ。私も何もしてないし」
「そうだったんだ。俺、何も知らないくせにキツイ事言ってごめん」
「上村じゃなかったら胸ぐら掴んでるかも」
「げっ……でもホントごめんなさい!」
よかった。何かわからんけど上村でよかった!
上村バンザイ!
「ま、私の片想い相手は好きな人がいるからってのもあんだけどね」
「え、何かそっちの方がヤバそう……」
「好きな人に少しは見て貰えるように頑張ってるんだけど、脈なしなんだわ。たはは」
マジか。
金持ちのお嬢様で、こんなに美少女でいい奴なのに……こいつも結構大変なんだな。
ん?
待てよ?
「もしかして、篠原さ」
「ん?」
「その人の前でキレたとか……」
「……あ?」
「軽いジョークです!」
瞳孔がめっちゃ細くなった! マジで怖い。……そうだ。中学の時、同クラの女子がしつこく他校の運動部に絡まれてた時にこいつ、こんな眼してた!
カウンターワンキックKOの衝撃……!
「すみません命だけは……!」
「どうしよっかな〜」
何か笑ってる。
セーフか?
「あ、そうだ! お、お前の好きな奴って誰? 中学の頃からなんだろ? 俺の知ってる奴?」
「ごまかすな! あああ~………………知ってるね」
「マジか! 誰々?」
「……殴って、い?」
「何で?! いや、聞きません!」
いやいやいや!
篠原の怒りのツボがわからくなってるよ!
それに、失恋してヤケになって馬鹿みたいに走り回って、最後に篠原にKOとかどんだけだよ俺……。
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