第5話 まるでゾンビだ。

「はあ、はあ…………」


 見たことがない住宅街の路地で、倒れ込みたいのを我慢してゆっくりと歩き続ける。どんだけ走ったんだよ、俺……。


 まるでゾンビだ。

 そんで、よろよろと歩き続けて求めるものは……。


「がああああ~。佐倉さんの気持ちをよーこーせっ?!……ゲホ! ……マ、マグボトル……あ、うっぞ?! ゲホゲホ!」


 空っぽ。そうだった。マグボトルの水はとっくに飲みほして……補給がめんどくさくて塩タブレット舐めてたんだ。


 塩タブも、もうない。

 

「自販機、水道……けほ。はは、俺なっさけねえ……あ! あったぁ……」


 小さめの公園の入り口に、ポツリと光る自販機。ICカードをかざして水を買う。一気に身体に沁みわたる水分が心地いい。


「ぷはあ! うっま!」


 水、最強!


「ふう……、ん?」

 

 あれ?

 公園って普通は水道……あるんじゃね?


「は。思考能力、カスッカスすぎんだろ……」


 カバンとラケットを置いて、ベンチに座った。


 足がガクガクしてる。

 手が震えてる。


 もう、流石に。

 月を見上げる気力さえない。

 うつ向くしかできない。


 月には手が届かないって思いしったから。佐倉さんは、遥か彼方の……雲の上の存在になってしまったから。


「……三年間……俺は……何をしてたんだよ! ううっ」


 こんなことなら。

 こんなにツラいなら。


 俺、馬鹿だったなあ。


 もっと頑張ればよかった。

 ダメもとで告ってりゃよかった。


「ふ、ぐ、うう……ずずっ……う、えええ……」


 汗、止まんねえや……。

 

 

 


 


 

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