第6話 初めての「風を切る」体験

点灯するインジケーターや身体に感じるエンジンの振動、いつも親父が運転する車に乗るのとは、全然印象が違う。これを自分で操作するのか?緊張と期待で胸が膨らんだ。


もともとはおふくろの通勤用に買ったバイクだ。ヘルメットもおふくろ用に真っ赤なヘルメット。手袋なんてものは用意していないので「軍手」をつけて、初めてバイクを走らせてみる。


スロットルを少しずつひねってみる。エンジンの回転数が上がり、バイクが動き始めた。


「おぅ、おぅ、おぅ!」


やはり自転車とはちょっと感じが違う。よたよたと危なっかしく走り始めた。少しずつスロットルをひねっていく。自転車ではあまり出さないスピードのように感じて、スピードメーターに目をやると、20km/hを指している。自転車でも出せる速度だが、何かが違う。


傍目には大した速度ではなかったかもしれないが、その時僕は、「風を切って」走っていた。今まで経験したことのないような爽快感と喜びが、胸の中に広がっていった。


家の周りをぐるりと一周して、家に戻ってくる。


「楽しい!」


なるほど、高校生たちはこぞってバイクに乗りたがるわけである。と同時に、自分で「エンジン付きの乗り物」を操作したことで、自分が「大人」になったような気がした。


誕生日の日に、初めて原付バイクに乗る。ただそれだけのことかもしれないが、それが、私の「大人」としてのスタートだった。


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