第7話 お母さん

 気が付くと・・私の実家の私の部屋だった。私は素っ裸で、自分のベッドの上に寝ていた。手にはあの黒い箱を握っている。私の前の布団が丸くなっている。


 突然、「う~ん」と声がして、眼の前の布団が動いた。布団の中から手が出て・・布団をはねのけた。幸次の顔と身体が現れた。幸次も素っ裸だ。


 「幸次。大丈夫?」


 幸次はまだ涙眼で答えた。


 「大丈夫・・こ、ここはどこ?」


 「私の家の・・私の部屋よ」


 幸次はベッドの上に飛び起きた。


 「えっ、由香の部屋だって!」


 幸次は私の実家に来たことがない。キョロキョロとお部屋の中を見渡している。


 「幸次。私ね。怖い夢を見ていたみたい。幸次と夜のT遊園地でデートしていたら・・ピエロに黒い箱をもらって・・その箱の『スタート』を押すと、次々と怖いことが起こったのよ」


 幸次が驚いた顔をした。


 「その夢・・僕も見たよ」


 「えっ?」


 そのとき、お部屋の外で声がした。


 「由香。部屋に入るわよ」


 母の声だった。私の返事も待たずに、お部屋のドアが開いた。母が立っていた。紅茶のポットとカップを乗せたお盆を持っている。


 母は私たちを見ると、絶句して立ち止まった。


 しまった。私も幸次も全裸だ。しかも、私のベッドの上だ。あわてて、私は言った。


 「お母さん。違うのよ。これには訳があって・・」


 母は横の机の上にお盆を置くと、ゆっくりとドアを閉めた。私を見て言った。


 「いいのよ。若い二人だからね。そういうこともあるわよ。・・で、由香。こちらが幸次さんなの?」


 えっ、私は母に幸次のことを話したっけ?


 母が全裸の幸次の前に立った。幸次は何を言っていいか分からず、呆然とベッドの端に座っている。


 母が幸次の肩に手を掛けた。


 「まあ、きれいなお顔ね。とっても


 母がペロリと舌なめずりをした。次の瞬間、母の口が耳まで裂けた。鋭い牙が見えた。母が口を大きく開けて、幸次の頭を飲み込んだ。母の口の中でガリッという音がした。


 「キャー」


 私は悲鳴を上げて、ベッドから飛び降りた。


 母が私の方を振り向いた。母の口が幸次の髪の毛をくわえていて、髪の毛の先には幸次の首がぶら下がっていた。母の口から声が漏れた。


 「次はお前だよ。由香」


 私は気を失ってしまった。意識がなくなる寸前に、私は黒い箱の『スタート』を押した。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る