第6話 鎌

 私は泣きながら言った。


 「お願い、やめて」


 「そうはいかない。これは神聖な儀式なんだ」


 女将は仲居たちに命じて、私と幸次の台に7本ずつ鎌を取り付けた。


 女将の声が響いた。


 「では儀式を始めよう。まず男の方からだ。おい、お前。1から8までの好きな番号を言ってみな」


 幸次の声がした。


 「い、嫌だ。僕は言わない」


 女将が笑う。


 「そうかい。じゃあ」


 仲居の一人が女将に何かを手渡した。女将がそれを私たちの頭上にかざした。


 槍だった。先端に鋭い刃がついていて・・キラキラと不気味に光っている。女将が槍の先を幸次の裸の胸に押し当てた。


 「ヒッ」


 幸次の声が聞こえた。震えているのが私にも分かった。


 「言わないと、これでお前の胸を突き刺すよ」


 幸次の眼から涙がこぼれた。


 「い、言います。・・な、7」


 仲居の一人が何かを操作した。幸次の台の横で・・ビュンという鋭い音がした。鎌が蛍光灯に反射して、円弧を描きながら回転した。幸次の腹すれすれに鎌の刃が突き刺さった。ゴンという鈍い音がした。幸次が悲鳴を上げた。


 「ヒィィィィ」


 幸次の腹に赤いかすり傷ができていた。仲居たちが歓声を上げた。


 「あ~あ、7は外れか」


 「残念ねえ」


 「もう少しだったのに」


 「これでいいのよ。最初から刺さったら面白くないわよ」


 女将が今度は槍の先を私に向けた。


 「今度は女。お前だ。1から8までの好きな番号を言え」


 私の頭が真っ白になった。私の歯がガタガタと音を立てた。恐怖で声が出てこない。


 「・・・」


 女将が槍の刃を私の乳房の下に当てた。


 「聞こえないのかい。番号を言うのよ」


 私は震える眼で、女将や仲居たちを見上げた。


 「・・・」


 仲居たちから笑い声が沸いた。


 「アハハ。女将さん。この女、怖くて口がきけないんじゃないの」


 「口がきけないんじゃ、先に進まないよ」


 「仕方がないわね。番号の付いたくじでも引かせましょうか?」


 くじ?


 私の頭にひらめくものがあった。私の口から声が出た。


 「ルーレットにして下さい」


 「ルーレット?」


 女将が怪訝な声を出した。私は必死に言った。


 「怖くて番号を言えません。で、ですので、ルーレットを回して、その数字を使ってください」


 仲居の一人が憎々しげに私を見下ろした。


 「ルーレットなんてどこにあんのさ? いい加減なことを言うと、タダじゃあ置かないよ」


 「わ、私のスカートのポケットに、ル、ルーレットが入っています」


 「生意気な!」


 さっきの仲居がかがんで・・手で私の頬を叩いた。パーンという音がして、私の頬に激痛が走った。涙が出た。私は泣きながら懇願した。


 「お、お願いです。ルーレットを使わせてください」


 女将が笑った。


 「面白いじゃないか。たまには趣向を変えてみよう。誰か、こいつのスカートからルーレットを持ってきな」


 別の仲居が視界から消えた。少しして、あの黒い箱を持ってきた。女将に手渡す。女将が私にその箱を見せた。


 「ルーレットというのは、これかい?」


 「そ、そうです。そこの『スタート』を押すと、ルーレットが始まるんです。わ、私に『スタート』を押させて下さい」


 女将が腰をかがめて、縛られている私の手に黒い箱を握らせた。女将が言った。


 「やってみな」


 私は手探りで『スタート』を押した。


 私の気が遠くなった。

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