第8話 静かな奪い合い

女性の声がした方に一同が振り返るとそこにはリナが高1の頃に東名高速道路のPAで知り合ったひとつ上の当時神奈川の高校に通っていたバイク乗りの飯村蘭がいた。


「え!?蘭さん?どうしてここに?」


リナは慌てて蘭の元へ近づくと蘭の方も驚いているようでここにきた理由を話し始めた。


「それは私も聞きたいわ、どうしてリナちゃんこそここに?…私はそこのカタナ1135Rに用があってね、でもその必要はなくなったみたい。皆さんの会話を聞いていたわ、リナちゃんがオーナーになるんでしょ」


リナと初めて会った時からカタナ250に乗っていた蘭は、カタナが昔から好きだった。

そしてここに1135Rが眠っていたということは高3の時に知ってそれ以来度々ここに訪れていたようだ。

幸助に1135Rを売って欲しいと何度もお願いしたが、その時はエンジンすらかからなかったし奈々未の大事な形見でもある1135Rを譲る訳にも行かなかったので来る度に断っていた。

そしてたまたま今日来てみたら偶然にもリナがいて、1135Rのオーナーになる瞬間を目撃してしまったという訳だ。

幸助は申し訳なさそうに蘭に言った。


「飯村さん…だったよね?この1135Rはリナちゃんがオーナーになることになったんだ。リナちゃんじゃないとエンジンがかからない、まるでバイクが意思を持ったようにリナちゃんをオーナーとして選んだんだ」


幸助の言葉にそんなオカルトみたいなことあり得ないと言った感じで蘭が返した。


「……バイクがオーナーを選ぶ??…フフッ、そんな漫画やアニメみたいなことあり得ないですよ。でも、オーナーがリナちゃんに決まってしまったなら仕方ないです…内心納得いきませんが」


納得いかない…この蘭の言葉が癪に障ったのかリナが蘭に言った。


「そこまで言うってことは、この1135Rに蘭さんも魅了されてるってことですよね?それに私より先にこのバイクがここに眠っていたことを知って何度も譲ってほしいと足を運んでいたんですもんね。…じゃあ、こういうのはどうですか?私達が競い合った椿ラインで1135Rをかけて勝負しましょう」


蘭は思いもよらないことを言ってきたリナに驚いて一瞬言葉を詰まらせてしまったがすぐに冷静さを取り戻すとリナに余裕を見せながら言った。


「…本気なの??今の私は高校の時にスカウトされたレーシングチームに所属して本格的にプロとして活動して高校の頃より技量も向上してるのよ?」


箱根の椿ラインで毎年開催される高校生のアマチュアレースで好成績を残すほどの実力者だった蘭は、レースを観戦しに来ていたレーシングチームのスカウトマンに声をかけられてその道に進んでさらに腕を磨いていた。

確かに趣味で走る方向に決めて大学受験勉強をしているリナとはライディングテクニックに差も開いているだろう。

しかし、リナだって伝説の走り屋の師匠からいろいろなことを指導されている。

サーキットなら確かに負けるが公道には公道の走り方があるし、簡単に負ける訳にはいかない。

リナは握手の手を差し伸べながら蘭に言った。


「私だってここにいる伝説の走り屋の先生から鍛えられています。椿ラインなら蘭さんとも良い勝負できると思ってます」


リナは一切恐れてなどいなかった、それは蘭にもしっかり伝わったのか蘭もリナの手を取り握手を交わしながら言った。



「…面白い、いいでしょう!その勝負受けて立つわ!」




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