第6話 10年ぶりの再会

バイク屋の敷地内に車を停めると東雲先生とリナは店内へと入っていく。


「店長!涼子さん!ご無沙汰しております!」


東雲先生が大きめの声で挨拶すると、聞き覚えのある声にすぐ気づいた「プロショップ各務原」の店長がやってきた。


「おぉ!萌歌ちゃんか!久しぶりだなぁ、元気にやってるようだな?…ん?隣の子は?」


東雲先生の隣にいたリナが一歩前に出て店長に挨拶をした。


「はじめまして、西園寺リナと言います。東雲先生にはいつもお世話になっております」


「ほぉー、君が萌歌ちゃんの言ってた子か!背が高くてスラッとした美人さんだなぁ」


リナのことをジロジロと見る店長の幸助の頭を妻の涼子が空手チョップで「やめんか!」とお見舞いすると東雲先生とリナは苦笑いしている。


「萌歌ちゃん、よく来たわね!運転疲れたでしょう?リナちゃんも向こうでゆっくりしていきなさいね」


妻の涼子は母親のいなかった東雲先生にとって実の母のような存在で、今でもたまに東雲先生に連絡をくれる。


「お気遣いありがとうございます、涼子さん。でも、今日は奈々未先生のバイクを見にきたんです」


東雲先生がそう言うと幸助と涼子の顔が少し曇ったような気がした。

幸助が奈々未の1135Rの現状について話し始めた。


「奈々未の1135Rなんだけどさ?昨日はエンジンかかったのに、またかからねーんだよ」


それでも見たいというリナの意思を尊重して幸助は自宅側の車庫に大事に保管してあるというので案内してくれた。

鍵をかけられたシャッターを幸助が開けた。

そこには長年コンディション良好な環境で保管されていた奈々未の1135Rがリアスタンドをかけられてヘッドライト側のフロントをこちらに向けてレアな展示車両のように置いてあった。

リナは一気に幼少期の記憶が蘇ってきたのか迷わずバイクに近づいた。

間違いない、子供の頃に乗せてもらった奈々未の1135Rが目の前にある。

リナはハンドルのグリッブに手を添えると「10年ぶりだね、お姉さん…」と周囲の人には聞こえない程度の声で言った。

バイクを見つめるリナに幸助が言った。


「リナちゃん、跨ってセル回してみなよ」


先程エンジンがかからないと言っていた幸助だったが、リナが奈々未のバイクに手を触れた瞬間に何か感じるものがあったのかリナがセルを回せばエンジンがかかるかもしれないと思ったのかもしれない。


「…いいんですか?私、跨っても?」


リナが幸助に確認すると首を縦に振って幸助は黙って頷いた。

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