第4話 日本平PA

横に並んだ小柄な体格のライダーがこちらに向かって手を振ってくるので、運転している東雲先生の代わりにリナがライダーの方へ顔を向けた。


「¥$€#〒々〆〆〆¥!!!!」


「っ!!結!?」


高速道路の走行風で何を叫んでいるのかわからなかったがライダーの正体はリナのひとつ下の後輩でバイク部の副部長を引き継いだ窪塚結だった。

ヤマハブラックのYAMAHAの名車RZ250が彼女の愛車だ。

今の状況では、お互いに会話も出来ないし何か意思疎通できるものはないかと考えていると東雲先生がリナに言った。


「西園寺さん?グローブボックスの中にB3程の用紙と太めのマジックがあったと思うわ」


それを聞いたリナは咄嗟に閃いたようで、グローブボックスから用紙とマジックを取り出すとリナは「日本平PAで!!」と太めに書くとバイクで横に並んでいる結に見えるように提示した。

これに気づいた結は左手の親指を上げてOKサインを出すと速度を落として東雲先生の車の後ろにつくとそのままゆっくり並走しながら日本平PAに到着する。

比較的2輪の駐車スペースに近い所に車を停めるとリナと東雲先生は足早に結の元へ向かう前に結の方からやってきた。


「奇遇ですね!リナ先輩は先生とドライブですか?」


「ドライブはそうなんだけど、ちょっと急用が出来て今から東雲先生の地元のバイク屋さんまで行くところなんだよ。それより結はソロツー?」


「おっ!めちゃくちゃ気になるじゃないですかその話!詳しく聞かせて下さいよ!…ちなみに私は浜松にいる友人の所に行く途中ですよ」


車が行き交う駐車場スペースで立ち話をするのも危険なので3人はとりあえず自動販売機が設置されている休憩スペースまで移動した。

3人は飲み物を買うと結のRZ250が停めてある場所まで移動して少し休憩することに。

東雲先生が結のRZを見ながら改まってこう言った。


「まさかこのRZが窪塚さんの手に渡るなんて想像もしなかったわ。かつて競い合ったバイクに教え子が乗ってるんですもの」


「あはは、私も大和田さんと先生達の間で昔あんなことがあったなんて聞かされた時はビックリしましたよ」


このRZ250は、結が教習所に通っている時に同じ教習生として知り合った大和田公信という中年男性から譲ってもらったもの。

大和田公信はかつて走り屋として東雲先生、舞華、奈々未達とも何度も走りで競い合ったことがあり、奈々未の事故についても深く関わった人物だ。

※スピンオフ作品・窪塚結の教習日記を参照。


結のバイクのことを話しているうちに本題から遠ざかりそうになったので結が再びリナに聞いた。


「それはそうと、東雲先生の地元のバイク屋さんに行く理由を教えて下さいよ」


「ん?あぁ…ごめん!忘れてた(笑)実はね…」


リナは、奈々未の1135Rが再びエンジンに火が入ったことや今までのことを結に話し始めた。

結もリナの幼少期のことは以前に聞いていたので改まって話すようなことではないのだが…

そして東雲先生が補足するように結に言った。


「私はね、窪塚さん。西園寺さんに1135Rに乗って欲しいと奈々未先生が言ってるように思えてならないのよ」


一通りの話を聞いた結がリナと東雲先生2人に真面目な顔をして言った。


「リナ先輩をバイクが待っていたのか、奈々未さんがリナ先輩を待っていたのか…そこらへんは謎ですけど、人間の常識では考えられないことが起こるから人生は楽しいんですよ。亡くなった恩人のバイクに乗る機会が巡ってくる…なんともドラマチックじゃないですか」


自分のバイクのメットホルダーを解除した結はヘルメットを被り始めた。

スマホの時計を確認すると「やばっ!」と言いながら慌ててグローブをするとRZのエンジンをキック始動した。

エンジンもかなり調子が良い様子だ。


リナ「そろそろ行くの?」


結「えぇ、友人と会う約束の時間もありますので」


東雲「窪塚さん、安全運転で気をつけて行くのよ」


結「はーい、なんか先生に言われても説得力ないですよ(笑)」


東雲「これでも一応、貴女達の先生なので」


結はヘルメットのシールドをおろすと2人に一礼してゆっくりと走り出した。

駐車スペースを抜けて本線へと合流するのに結はRZを一気に加速させていく。

2スト特有の甲高いエキゾーストが本線に合流後もリナ達がいるPAまで響いていた。

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