第2話 この時を待っていたかのように

「先生、どうしたんですか?」


話し方の口調で大事な話なのは察したが、とりあえずリナはどうしたのか聞いてみた。


『先生の…奈々未先生の1135Rが再びエンジンに火が入ったそうよ』


「え!?…本当ですか!?」


リナが幼い頃に静岡にある祖父母宅に向かう道中で迷ってしまい、偶然出会った女性ライダーが佐倉奈々未でリナは助けてもらった恩がある。

その影響でリナは「いつか自分もバイクに乗りたい」と思うようになった。

しかし、バイクに乗れるようになった年齢になった時には既に奈々未は事故で亡くなっていた。

奈々未の弟子である東雲先生と高校で出会ったことで亡くなっていたことが判明したのだ。

そして奈々未が亡くなって少し経った後に、奈々未の愛車だったカタナ1135Rは突然エンジンに火が入らなくなったそうだ。

まるで奈々未以外をオーナーとは認めないと言わんばかりに何度セルを回してもエンジンに火が入らず、最終手段で何度も押しがけを試してみたがとうとうエンジンが始動することがなかった。

奈々未の1135Rは、エンジンが始動しなくなってからも東雲先生がかつて働いていた大井川にある小さなバイク屋の店長が「必ずコイツを再び呼び覚ましてみせる」と言ってマメに整備をしつつエンジンに火を入れようと頑張っていたらしい。

そしてついに10年越しに再びエンジンに火が入ったと東雲先生に連絡があったらしい。

そして東雲先生は電話越しにリナに言った。


『西園寺さん?貴女、もう18歳になったよね?』


「はい!7月9日で18歳になりました」


『つまり…大型二輪免許をついに取れる年齢になったってことよね?…まるで奈々未先生の1135Rが貴女のことを待っていたかのようね』


何度やってもエンジンが始動することがなかった奈々未の愛車が、リナが18歳になったあとに再びエンジンに火が入った。

これは偶然なんだろうか?いや、偶然ではなくバイクも長い間冬眠してリナを待っていたのかもしれないと東雲先生は運命を感じていた。

そして東雲先生はリナにこう言った。


『…今まで黙っていたけど、もう隠しておく必要がないから言うわね。奈々未先生の1135Rは先生が信頼しているバイク屋さんの所にあります。西園寺さん?一緒に見に行く?』


東雲先生のこの言葉にリナは迷う理由がなかった。

以前に何度かそれとなく奈々未の1135Rについて聞いたことがあったが、東雲先生は何度も話を逸らすように詳しく教えてくれることがなかったが今度こそ話してくれるだろう。


「もちろんです!是非連れて行って下さい!」




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