第1話 電話

高校3年生となった西園寺リナは、バイク部を引退して受験勉強に励んでいた。

現在、高校最後の夏休みを満喫しているリナは勉強で少々疲れたので自分のベットの上で仰向けになりながらスマホで部活の思い出の写真を見返していた。

去年の春に椿ラインの高校生バイクレースに参戦後に1人で箱根の峠を走り込んでいた際に愛車のバリオスがエンジンブローしてしまい、親友で同じ部活仲間でもあった中野フランの愛車Kawasaki・ZX-25Rも椿ラインの決勝レース中にエンジンブローしてしまいフランはやむを得ずリタイアすることになった。

バイク部主力の2人の愛車が同時期に不動車となる自体となってしまったが、顧問の東雲先生が「引退するまでの間、先生のイナズマに乗りなさい」と伝説の走り屋と言われた東雲先生の修羅場を何度も潜り抜けてきた愛車・SUZUKIイナズマ400に乗ることを許された。

そして親友のフランは、普通二輪免許を取得する際にお世話になった東雲先生の走り屋仲間で同じく伝説の走り屋としても知られる斉藤舞華の愛車KAWASAKI・350SSを譲ってもらった。

正確にはフランから見たら師匠とも言える舞華の愛車を引き継いだと言ったほうが正しいだろう。

ひと昔前は普通二輪免許で400cc以下まで乗れたが、現在では普通、中型、大型と細かく別れて原付二種の区分がなくなった代わりに251cc〜650cc以下を新たな中型バイク扱いとされるようになった為、舞華から350SSを引き継いだ際にフランは免許センターにて中型二輪の一発試験を受けて3回目にて無事に合格して晴れて舞華から正式にバイクを受け継いだ。

※免許区分の改正については前作を参照。


リナはイナズマ、フランは350SSを乗るようになってからはパワーが格段に上がったことで当初はバイクに振り回される部分もあったが、2人は持ち前のセンスと練習量で己のテクを磨き続け、高校3年の最後の椿ラインの決勝レースではフランが6位、リナが7位と2人はトップ10入りを果たして優秀な成績を納めて部を引退していった。

椿ラインの高校生レースにはMotoGPの関係者も来ていて10位以内に入った高校生ライダーにスカウトをかけて高校卒業後にプロの世界に進む者もいる。

リナとフランにもスカウトの声がかかったが、2人はプロの世界に進む選択はしなかった。

ストリートをとことん極めた東雲先生、舞華、そして東雲先生の師でリナの恩人である佐倉奈々未という偉大な存在を知っているからこそ自分達もストリートの世界を趣味として極めてみたいと思った。

それにレースで1位だった神奈川代表の選手ですら東雲先生や舞華達が当時叩き出したコースレコードを塗り変えることは出来ていない。

つまり自分達はまだまだお子ちゃまの追いかけっこをしてるだけなんだとリナは思い知らされた。


リナは何度も写真を見返して、時にはクスッと笑ってしまうようなおふざけな写真を見たりしていると突然着信が入る。

バイク部顧問の東雲先生からだった。

「はい、西園寺です」とリナはパッと身体を起こして電話に出た。


『もしもし?西園寺さんに知らせたいことがあるの、今大丈夫?』


スマホのスピーカーから聞こえてきた東雲先生の声は、なんだか真面目な話が始まりそうな感じだった。

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