第2話「渦」

 目が覚めるとそこは馬車の荷台の上だった。

 周りを見渡すと半分水没した崩壊しかけの東京…


「あっ、起きた。」


 目の前にいるのはさっき僕を捕まえた、男性一人と女性一人、どっちだかわからない人が一人の3人組。

 確か起きたら変なところいて…体がモフモフになってて…

 それから…

 スタンガン撃たれて。

 ヤバっ、またスタンガン撃たれる、逃げ…


「また逃げようとしてる!レイラちょっと止めてくれ。」


「ああ!違う違うちょっと待って。」


 僕が逃げようとすると三人は敵意がないことを示すように三人は両手を上げた。


「ほら、何にも持ってません、だから一旦彼女の話を聞いてください。」


「私たちはねあなたの保護を頼まれてここにきたの。」


「…?」


 なんで保護するのにあんな高威力のスタンガンなんて使って失神させる必要があるんだ?


「保護?君たちは保護するのに失神するほどの電流が流れるスタンガンを使うわけ?」


 多少不満げにスタンガンを使われたことに抗議すると、何故保護にスタンガンなんてものを使ったのか説明してくれた。


「ごめんね、それが決まりなの、少し前あなたのように冷凍ポットに入っていてこの時代で目覚めた“リーパー“に逃げられて保護するのに失敗してしまって“リーパー“が亡くなってしまうことが何度かあったの。だからこうやって一旦気を失わせて落ち着かせてから状況を説明することになってるの。」


 死んだ?目の前で目覚めた人間が対応できないような速度で死ぬようなことがあるか?


「死んだって、そりゃまた何で。」


「君は知らないと思うけど今この時代には影から出てきた化け物がそこら辺をうろついていて…」


 ズドーン‼︎

 レイラという女性が化け物について話し始めた時、ちょうど少し遠くの方から何かが倒れたような音とともに誰かの悲鳴が聞こえてきた。


「ヤバイ!二人とも誰か襲われてる!」


 襲われてる!?このタイミングで!?


「すまんが少しついてきてもらうぞ、ライラ。」


「わ、わかった。」


 どうやら大きな音の元は目の前の崩壊しかけのタワマンのすぐ後ろらしい。

 なにが起こっているのか見ようと急いで3人について行きタワマンを回り込む。

 すると一人の金髪の女性が黒い大きな見たことのない何かに追われていた。

 

 その黒い何かは明らかに異形の姿をした化け物だった。

 胴体から足が無数に生えていて、まるで意志を持った泥のようにその手を女性に向かって伸ばしている。


「まずい!“渦“が人を襲ってる!早く助けを…」


 その人は今にも化け物に追いつかれそうになっていた。

 多分このままだと、目の前で人が死ぬ。


 というか、本当にこれは現実なのか?

 さっきから起きてることに何一つ現実味がない…

 本当にどうなっているんだ?

 

 助けなきゃ。

 

 起きていることは無茶苦茶で正直何が起きているのかわからないけど、人が目の前で死にそうになってるのに何もしなかったなんて…

 そんなことをしたら、多分僕は自分が嫌いになってしまう。


「ごめんなさい三人とも、必ず戻ります。」


「あっ、助けに行ったてお前武器もないのに“渦“なんて倒せるわけないだろっ!」


 黒い化け物、襲われる人間、崩壊した大都市

 この情景には何故か既視感があった、身も知らずのあの人の顔も、この地を駆ける感覚にも。


「どりゃああああ!!!!」


 こんなとき僕はどうしていたか。

 その感覚を少しだが思い出した気がする。

 

 

 この人を守る為黒い化け物と女性の間に駆け込み化け物に向かって両手をかざす。

 なんとなくあの力を使う感覚が蘇る。

 

減速結界ディセラレーションバリア!!」


 そう唱えた瞬間両手から光が溢れ出し化け物と僕達とを隔てる結界が現れた。

 魔法のようなその力を見て後ろの女の人は少し驚いているようだったが何故だか見たこともないような初めて扱うこの力に、僕は何故だか懐かしさと切なさを感じていた。

 

 そういえば三人はどうなったのかと三人の方に一瞬だけ気をやると、こっちに駆け寄って何かをしようとしているようだった。


「まずいぞアイツあんな大規模な魔法を展開し続けてる、あのままじゃぶっ倒れて女共々死ぬぞ!?おいレイラ、ジュン魔法印の残量は!?」


「私はもうない!」

 

「私は後三つストックがあります。」


「じゃあジュン、魔法印二つ分使って急いで渦のコア周りのドロドロを剥ぎ取ってくれ!!」


「わかりましたリュウさん!私の本気を喰らいなさいッ!!光子砲フラッシュキャノン!!」


 ジュンさんが何かを唱えると細い光の柱が化け物の体を貫き、化け物の体の中からまるでコアのような光る結晶が姿を表す。


「リュウさん見えましたっ!今のうちに!!」


「よしゃあいくぞ!!衝撃斬インパクトスラッシュ!!」


 リュウさんが剣を振ると剣から斬撃のようなものが物凄い勢いで化け物の方に飛んでいき、そのまま化け物のコアを破壊してしまったのだ。

 コアを破壊された化け物は耳をつん裂くような悲鳴なのか咆哮なのかわからないような声をあげ瞬く間に煙と塵になって、まるでなにも無かったかのように瞬く間に消え去ってしまった。

 

 なんとかこの人を救うことができた。

 僕はそのことに心から安堵した。

 

「あの、大丈夫ですか?怪我とかは?」


「た、助かりました!!ありがとうございます!!」


 それから少し話を聞くと怪我はないらしく、本当に無事だったそうだ。

 どうやら、街から出てきて両親のいる別の街へ帰省途中だったらしいのだが、生憎あいにく護衛の為の傭兵を雇うためのお金がなかったらしく、渋々一人でコソコソと隠れながら、隣町に向かっていたんだとか。

 だけど結局化け物に見つかってしまって走馬灯を見ていたところを僕達が颯爽と現れ命を救ったらしい。 

 話し始めた時は少し僕の姿に驚いていた気もするが、今は慣れたのかそんな感じは一切なく話すことができている。


 それから、その女の人とは目的地が同じという事で、いっしょに馬車に乗って一番地区というところにある『都市ヴィーザル』を目指すらしい。

 到着は三日後、それまでにこの世界が一体一体どうなっているのか、何故こんな体になってしまったのか、あの化け物は一体なんなのか、詳しく三人に聞こうと思う。

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