世界終焉のその果てに

アゴラット

第1話「記憶喪失」

 僕が目を覚ますと、そこは知らない場所だった。


 何があったのか理解しようとしたが、生憎何も覚えていない。


 周りを見渡すとそこは荒れ果てた建物の中で、放置されてからよっぽど年月が経ったのか天井はところどころ崩壊し、暖かい太陽の光が差し込んでいた。


 自分は頑丈な蓋の開いた金属の箱のようなものに入っていて、ガラスのような透明な蓋は、よっぽど勢いよく開いたのか10メートル程吹っ飛んだところに転がっていた。

 

「何処だここ?」


 いきなり廃墟の中に自分がいて、ついでに記憶を失っているなんて、こんな意味のわからない状況があるだろうか?


 どうもこの状況にまったく現実味がない。


 とりあえずここから出て人を探さないと…

 そこで俺は自分の体の異変に気づく。


「なんだよこれ⁉︎」


 自分の体が全身が毛で覆われていたのだ。

 身につけている少し古びた白衣の隙間から見える体毛は、すね毛や胸毛の類の毛ではない、人間のものではない明らかに動物の毛だ。

 おまけに、もふもふな尻尾まで生えてる 

 頭を触ると大きなもふもふのケモ耳

 手にはピンク色の肉球が5つ。


 だけど記憶がないので元々人間だったのかすら曖昧だ。


「一旦落ち着こう、もしかしたら元々こうだった可能性もあるし…」


“とりあえず生きてればなんとかなるさ“

 そんなことを誰かが言っていた気がする。


 まあそれよりも生存優先、こんな所水も食料もない所にいたら、三日ともたない。

 どうしよ…


「…やっとここまで来たなあ…」


「ッ!?」


 誰か来る⁉︎

 とりあえずこの体じゃ何されるかわからないから物影に隠れて様子を伺うことにした。


「あっ、レイラ、ジュンあったぞ冷凍ポッド。」


「リュウさんあの…なんか蓋がないように見えるんですけど。」


 こちらに向かってきたのは男2人と女1人の3人組だ、背中には物騒な斧や剣を背負っていて、なんだかゲームやアニメの世界にいる冒険者パーティーみたいな格好をしていた。

 コスプレした痛いやつか?


「ここので回収を頼まれたのが冷凍ポッドの入った150年前の“リーパー“の回収、って言ってもその冷凍ポッド…」


「空いてるね。」


「はい…空いてますね。」


 3人は僕がさっきまで入ってた箱をまじまじと見て困った顔をしていた。

 話を聞いている限り、僕はリーパーって呼ばれていて、この3人の目的は僕の回収らしい。

 回収って言い方からあんまりいい印象を受けない。

 なんだかこの姿で人前に出るのは少しはずかしい気もするので、もう少し観察してみよう。


「2人ともポットの中見てこれ。」


「動物の毛ですか?」


「そう、ギルドマスターは今回の“リーパー“は少し変わった姿をしていると言ってたよね。」


「だからこの毛の主が今回の“リーパー“だと思うのか?」


「うん、それに触ってみた限りポッドがかなり熱を持っているから、まだ解凍されてから5分も経っていないと思う。」


「お二人とも、これ。」


「足跡か、そこの物陰まで続いてるみたいだな。」


 あ、やばいバレたかも。


「みんな、リーパーは混乱してるだろうからあまり刺激しないように。」


 やばいどうしようこっちに来る、逃げる?でも逃げてもどうする?ここで助けてもらった方が…

 

「いた!」


「うわあっ⁉︎」

 

 やばい見つかった!


「今だ、ジュン捕縛弾!」


 捕縛弾だって⁉︎ ヤバイ捕まる!

 

 捕まると分かった瞬間僕は3人の間をくぐり抜けてあかりのある方へと逃げた。


「ヤバイ、逃げ出したぞ!捕まえろ!」


 3人に捕まらないように天井の穴から外に出ようと、高すぎて到底届かないはずの出口に向かってジャンプした。

 すると僕の身体はあり得ないようなジャンプ力で跳躍したのだ。


「なんだこれ!?」


 体がものすごく軽い。まるでスーパーマンになったような気分だ。

 その瞬間訪れたのは、今ならなんでもできるという全能感。

 これなら逃げ切れる!


 天井の穴から飛び出すとそこには目を疑うような景色が広がっていた。

 廃墟になり荒れ果てたビル群が緑と海に飲まれ崩壊していたのだ。

 そのビル群の中に突出して高い建物が一つはるか遠くでそびえ立っている。


「東京だ…」


 その光景を見て、何かを思い出しそうになる。

 だけどなにも思い出せない。

 その不思議な感覚のせいで崩壊してしまった東京から目を離せなくなってしまった。


「リュウさん!なんですかあの人!?ものすごい勢いで飛びましたよ!?」


「強化魔法でも使ったんだろ、それより、なにボーッと突っ立ってんだ!レイラ早く強化魔法!」


「わかった!魔法陣展開フィジカルブーストオン‼︎」


 女の人が何か叫んだと思ったら三人の真ん中にいた男の人があり得ない勢いで跳躍してきた。


「ごめんけどちょっと大人しくしといてくれ。」


「!?」


 ヤバイ追いつかれた。

 声が聞こえた直後首筋に電流が走る。

 スタンガンか!?


「ガッ!?」


 徐々に意識が遠のいてゆく…

 薄れゆく意識の中で、自分の名を思い出した。


「僕の名は、ライラ…」 


「そうか“ライラ“ようこそ愉快なディストピアへ。」


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