シンデレラ(3)

「ありがとう魔法使いさん。わたし今からパーリーに行ってくるわね」


 しかし今のシンデレラには、この精神の高揚こそが世界の真理のように思えていました。


「頑張るのじゃぞ」

「合点承知の助!」


 力強く頷いたシンデレラは玄関のドアを勢いよく開けると、ちゃんと鍵だけは閉めつつ──さすがの防犯意識ですね──魔法使いに感謝のウインクを飛ばしてから、パーリー会場へと走りだしました。


 シンデレラは警備員の目を盗んで外壁の配管をつたって2階までよじ登ると、トイレの窓から建物内部へと侵入します。

 配管や壁の凹凸を伝って2階の窓から忍び込むくらい、身体中から力があふれてくるので楽勝でした。


 それにシンデレラは正規の招待状をもっていないので、そもそもこうするしかありません。


(うん、仕方ないよね!)


 今のシンデレラを止められるものなどいません。


(今なら空も飛べるはず――!)


「I can fly !」


 そして勢いそのままにパーリー会場に乗りこむと、


「怪しい奴め、名を名乗れ!」

「どいてください!」


 押しとどめようとする警備員を、マルセイユルーレットからのクライフターンで華麗にかわし、


「シンデレラ、ただいま参上つかまつりました!」

 バァン!と派手に会場の扉を押し開けたのです!


 主賓であらせられるウミノ王子殿下や、政財界の大物たち、さらには大手マスコミの記者の視線が一斉にシンデレラに集まります。


 皆の注目を浴びながらシンデレラは堂々と言いました。


「私を見なさい! みすぼらしい中学の芋ジャージを着て、やせ細って! 児童虐待されているのです! あなた方が豪勢なパーティを行っている間も、わたしは継母に虐待される惨めな生活を送っていました! これが正しい政治のあり方ですか!?」


「うぐ――」

 シンデレラが発した突然の糾弾に――しかし実に的を射た糾弾です――皆が一様に押し黙ります。


「そして私はそこにいる継母を、児童福祉法違反で告発します! ここにいる皆さんが証人です! ちなみ動画で撮影しています。もしあなた方が何もしなければ、私はSNSにこの動画をアップし、この場にいる全員を告発します。週〇文春にも持ち込みます。どうです、上級国民や特権マスメディアとして見て見ぬふりをすることは、これでできなくなりましたね! そして『黙っているのは共犯と同じ』と有名な女子テニスプレイヤーも言っていました! ははは、私を助けなければ全員が共犯ですよ! ざまぁみなさい!」


「こ、この子の言っていることは全部嘘です! 証拠を見せなさい証拠を!」


 面の皮の厚い継母が金切り声を上げます。


 しかしここでシンデレラにまさかの援軍が入りました。


「いいや嘘なものか」

 それはウミノ王子その人でした。


「お、王子殿下!? お戯れはおよしくださいませ」


「戯れているのはあなたの方だ、ミセス田中。このシンデレラの姿を見よ、誰が見ても児童福祉法違反のひどい扱いを受けた姿をしているではないか!」


 田中というのはシンデレラ一家の名字だ。

 田中シンデレラ。

 昨今流行りのキラキラネームだ。


「そ、それはその――」


「シンデレラ、僕の目が曇っていたよ。僕は政治の何たるかを勘違いしていた。謝罪させてほしい」


「ではその証明として、まずは私と結婚してください」


 今のシンデレラは「勇気の魔法」によってメンタルがバチクソ硬かったので、どさくさ紛れで王子に求婚することくらいは余裕です。


「いいだろう、僕の人生には君のような強くて素敵な女性が必要だ」


「ありがとうございます王子!」


「ではまず真っ先に児童福祉の予算を増やして、君のような子が一人でも少なくなるようにしたいと思う」


「いいえ、それはもう後の方で結構ですわ」


「な、なぜだい?」


「わたくし、下級国民なんぞに興味はありませんので。だってもうわたくしはこの国の王妃、つまり超上級国民になったのですから」


「な、なるほど……?」


 こうしてシンデレラは王子様と結婚して王妃となり、児童虐待を受けていた頃からは考えられないほどの贅沢で恵まれた生活を送りましたとさ。


 また継母と2人の連れ子も児童福祉法違反で有罪が確定し、シンデレラのお父さんとは後に離婚。

 転落人生を送ることになりました。


 そして顧客とちょびっとだけ揉めていたお父さんの太陽光ソーラーパネル事業も、王子殿下のご威光もあってすこぶる上手くいったのでした。


 めでたし、めでたし。


(ハッピーエンド)

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