令和おとぎ話 「シンデレラ」

シンデレラ(1)

 とある都心の高級マンションのリビングで、公立中学校の芋ジャージを着た美しい少女が一人、ノートパソコンを前に黙々と作業をしていました。


 少女の名前はシンデレラ。


 今日も今日とて、シンデレラは継母とその連れ子から児童虐待を受けていました。


「シンデレラ、相変わらずトロいわね。私のパソコンの設定にいつまでかかってるのかしら。あんたがトロいせいで、いつまで経ってもイケメンチャットゲーができないじゃない。スマホじゃ画面が小さすぎて、ラブの純度があがらないのよ。分かるでしょ?」


「申し訳ありません、お継母かあさま」


 シンデレラはまったくもって意味が分からなかったものの、継母の怒りに火を注がないために、とりあえず首を縦に振っておきました。


「まったく、あんたは本当にグズなんだから。やれやれ、これはもう罰を与えるしかないわね。今日の晩ご飯は抜きよ」


 ニヤニヤと笑いながら言った継母に、


「そうよそうよ!」

「お母さまの言うとおり!」


 2人の連れ子が即座に合の手を入れます。

 3対1。


 補助金ジャブジャブの太陽光ソーラーパネル事業で忙しい父親が、なかなか家に帰れないのをいいことに、シンデレラはこうして民主主義という名の数の暴力によって、毎日のように虐げられていたのでした。


「お継母かあさま、それだけはなにとぞお許しください。今日は朝も昼も食べていないのですから」


 既に空腹でシンデレラのお腹はグーグーと鳴りっぱなしです。


「はん! 嫌ならせめて私たちが帰ってくるまでに、パソコンの設定を終わらせておくことね!」


「そうよそうよ!」

「お母さまの言うとおり!」


「おや、お継母かあさまたちは、どこかに行かれるのですか?」


「ウミノ王子殿下が主催する大規模なパーティがあるからそれに参加するの」

「もちろんシンデレラ、あんたは連れていかないけどね」

「あんたは家でお留守番よ」


 継母たちがプークスクスと、シンデレラを小馬鹿にするように笑います。


 しかしシンデレラは最初から連れて行ってもらえるとは思っていなかったので、自分だけ留守番をさせられることについては、特に気にはなりませんでした。


 虐待による感情の麻痺というやつです。

 

「へぇ、よく王子殿下のパーティチケットなんて手に入りましたね」


「メル〇リでチケットを買ったのよ。くっくっく、これで娘のどちらかが王子の目に留まれば、上手く行けば一発玉の輿よ?」


 継母は、娘を使って一気に最上級国民にステップアップしようと画策していました。

 夫の太陽光パネル事業もなかなかいい稼ぎなのですが、人間の欲望には果てがないのです。


「あの、それってどう考えても偽造チケットじゃ……」


 ウミノ王子が主催するパーティの正規チケットが、メル○リに出てくるはずがありません。

 どう考えても偽造チケット、つまり詐欺商品でした。


「さぁ? 私は善意の第三者だからチケットの真偽については知ったこっちゃないわ」


「まさか!? 日本における詐欺には過失処罰規定がありません。知らなかったことにすれば、偽造チケットを使ってバレても無罪になります。つまりお継母かあさま、あなたは善意の第三者であれば法律的に保護されることを、悪用するつもりですね?」


 継母が法の穴を突いて悪事を働こうとすると知って、シンデレラは愕然がくぜんとしました。


 まるで政治資金規正法がザル法だからといって、パーティ券をキックバックして裏金にし、私腹を肥やす悪徳政治家のごとし。

 シンデレラの反応も当然です。


「勘のいい子は嫌いよ? ほら、いいからあんたはとっとと私のパソコンをウィンドウズ11にアップグレードして、前の10の環境をそっくりそのまま新しいパソコンでも使えるようにしておきなさいな! 温かいご飯が食べたかったらね!」


「はい……」


 継母のパソコンの設定を再開したシンデレラを尻目に、継母と妹2人は華やかなドレスで着飾ると、配車アプリでハイヤーを呼んでパーティ会場へと向かったのでした。


 見ての通り、シンデレラは児童虐待を受けていました。


 継母は、前妻の娘であり自分とは血が繋がっていないシンデレラのことを――しかも自分の娘2人よりも圧倒的に美人です――死ぬほど嫌っていたからです。


 高校には行かせてもらえなかったので学歴は中卒だし、自由に外に遊びにもいかせてもらえないし、ご飯を抜かれるのは当たり前だったし、事あるごとにネチネチ文句を言われては人格否定をされるといった精神的苦痛を受けていました。


 ああ、なんて可哀想なシンデレラ!


 それでもシンデレラは逃げ出せません。

 こんなクソみたいな継母&連れ子×2がいるクソ家であっても、補助金チューチューしている父親の事業のおかげでまぁまぁ金持ちではあるし、夜は温かいベッドで寝ることができたからです。


 18歳になったら住所不定だろうが無職だろうが強制的に出ていかないといけない児童養護施設に行くよりは、今の生活の方がはるかにマシだとシンデレラは知っていました。


 シンデレラはほとんど何も買い与えられていなかったものの、泣き倒してなんとかスマホだけは買ってもらっていたので、日々インターネットで情報収集をし、我が日本国の福祉行政の闇についてはそれなりに詳しかったのです。


 それはさておき。

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