第52話 ようこそ
「あー、マジかぁ……」
気が付けば俺は森の中で倒れていた。頭には黒い光輪、背には黒い翼、どうやら回復した状態で戻されたらしい。
まさかシャルにもがれたダメージで死んでしまうとは。元々HPは残り僅かではあったけれど……締まらない。
「……でもま、いっか」
ウィンドウの履歴を見てみれば、そこには報われるような文言が刻まれていた。
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結末が確定しました。
3周目の総合評価:ベストエンド
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「最高の結末、ね……」
動物楽団は救えなかったのに、何がベストなのか。
リアも……大丈夫だろうなぁ……
「ああもう、終わったことは終わり!それよりも──」
わかっていても仕方ないので、無理にニヤリと顔を歪めて魔王戦のことを考える。
未確認のウィンドウやら新しい技能に称号など、確認しないといけないものが溜まっているから……その前に、まずは安全な場所を探したいものだが……
「木に登っても蛇がいるときがあるんだよなぁ……でもそうするしかないよなぁ」
木に隠れる蛇は、何を隠そう俺がデザインしたものなので習性も把握している──何で作ったんだろ。
「……向こうが少し明るいか?」
森を見渡してみて、比較的明るい方を目指して歩いて行く。光はどんどん明るくなり、やがて出口となった。
「お、草原じゃんって、ここは──」
目の前に巨大な白銀の塔があれば、知っていても足を止めてしまうものだろう。
「あー、〈バベル〉、懐かしいな」
開拓地の中心に聳え立つ白亜の巨塔〈バベル〉。その威容は初日に見たっきりで、ビネガー領からは見ることはできなかった。
「ってことはここ、開拓地か?もしかして──」
「あ、ドットレスじゃん!?」
予想するのと同時に、1人のプレイヤーに見つかった。右目に大きな花を咲かせたあのプレイヤーは……
「ミンストレル!じゃあやっぱここ第98開拓地でいいんだ」
「おーおー、何だかおかしくなって帰ってきたみたいですなー。とりあえず柵の中に入って入って。兎が集まっちゃう」
「あ、そうだな」
折角帰ってこれたのに、また死んでランダムリスポーンの繰り返しは辛い。俺は言われるまま柵の内側へと入っていく。
「拠点発展度はまだ2なんだっけ?」
「まあねー。明日が防衛戦だから、今日中には3にするけど」
「他の皆は?」
「まだ狩りの最中じゃない?今日は大物取ってくるらしいから」
「大物、ねえ」
「あ、私はサボりじゃないよ。子ども達はノア・サザナミ姉弟が引率してるから。ジャガイモは、今はどこにいるかはしらないけど」
「ノア・サザナミ?あ、東兄妹のことか」
「まーそういうこと。だから少し待ってれば?あ、その間にNPC達の紹介でもしようか」
「NPC……そうだな」
ビネガー領の住人達のことを思い出す。何だか、無性に懐かしく感じた。
「──楽しかったんだ」
「え?」
「ドットレスのその顔。遠くを見て寂しそうな顔してたからね」
「そう、だな。うん、色々あったけど、楽しかったと思う」
「ほほー、それは土産話が期待できそうですなー」
「皆集まってからな」
俺はミンストレルに連れられて、挨拶に回る。
宿屋の3人夫婦のNPC、教会のシスターのNPC。どちらも、やはり歴史が感じられる、重い人だった。堕天使ルックのせいか、少し距離を感じたが、それも少しずつ埋めていけばいいだろう。
「最後は奉納ギルドだねー」
「皆、楽しそうだったな」
「当然。NPCもあれだけ感情豊かなら人と同じだからねーっと、ここが──」
その瞬間、建物の窓に見覚えのある人がいた気がした。
ミンストレルの案内を待たず、俺はギルドの扉を開け放つ。
その音に驚いて、場の全員の視線が俺に集まった。
「あちょ、ドットレス!?どうした、の、って、どちら様?」
ミンストレルも慌てて中に入るが、首を傾げた。
ギルドの中には、既に人が3人いた。
1人はカウンターの奥側にいる男性。恐らくこの開拓地に住み着いているNPCだろう。
そして2人は、俺がよく知っている人物だった。
「リア、ゲルマン」
「よお、久しぶりだな」
「さっきぶりですね、天使様」
「へ!?この2人、クエストの2人なの!?」
「そうみたいだな、俺も何が起きてるか分からないけど……」
ミンストレルが驚いているが、俺も内心混乱している。
いやだってさ、クエストが終わってさようならみたいな空気があったじゃん。それなのに開拓地にいるなんて普通思わないじゃん。
……まあ、でも。
「また会えて嬉しいよ」
「私もです。早々に恩返しの機会が巡ってきて嬉しいです」
「別にいいのに……」
リアは何かこう、好意をドストレートにぶつけてくるようになったな。照れるというか、恥ずかしいというか……
「あー、その、ドレス?」
「ドレス?」
一方、ゲルマンが躊躇いがちに俺を呼ぶと、ミンストレルが俺を上から下で見回す。悪いな、そのツッコミは既に処理済みなんだ。
「それはいい。どうした?」
「いや、その。まずは助けて貰った礼だな。ありがとう。魔女と取引したなら無茶しただろ?」
「別に、俺にとっての最善手を取っただけだし」
「そっか。それと、イーゼル達なんだけどな」
「……あー、うん。それは……」
結局救えなかった3匹を考えて気分が沈むが、ゲルマンはこう告げた。
「あいつら、生きてるぞ」
「……は?」
「ああいや、なんて言えばいいかな。目で見えないけどそこにいて、と言うか、今もそこに、と言うか……」
「……あなたの心の中で生き続けてますよ的な慰めは別にいいからな?」
「違ぇよ!?ああくそ、周りには見えてないって面倒だな……」
「あの、天使様はアストラルビーストというマモノをご存知ですか?」
「アストラルビースト?」
「アストラル……え、幽霊!?」
幽霊が苦手なミンストレルが俺の後ろに隠れる。いやまあ、身長差で全く隠れてないが……
「特殊な条件下でしか目視できない特殊なマモノなのですが、どうやらゲルマンには3匹がアストラルビーストとなって近くにいるように見えるとのことです」
「何でか会話も出来るんだよな」
「……イマジナリーフレンド?」
「違ぇよ!?」
いやだってさー、そうとしか聞こえないんだよなー。
……あ、でも思い返してみればシャルが何か言ってたっけ?あの時はそれどころじゃなかったから拾えなかったけど。
まあゲームだから、そういうこともある、のかね?そうだったらいいな。
……少し、心が軽くなった。
とりあえず幽霊の話ではなくなったので、ミンストレルを前に出す。
「まあそれは置いておいて。2人は何でギルドにいるんだ?」
「ああ、それはですね。私たちもこちらでお世話になろうかと思いまして」
「へえ!」
「え、本当に!?」
「受付のヨハネスさんには、代表のミンストレルさんに許可がもらえればとの事だったのですが……」
「だとよミンストレル」
「今はドレスがいるから代表じゃないですー」
こいつ……まあ、俺の答えは決まっているが。
「んん、じゃあ俺が返答するけど、当然許可だ。歓迎するよ」
「ありがとうございます!」
「助かった。もう野宿は勘弁だからな」
「しばらくは宿住まいになるのか?」
「いやー、宿屋もそろそろ満杯になりそうなんだよねー。新しく建てるか大きくしなきゃ」
「ならこのタイミングなのはちょうど良かったな」
拠点発展度2から3になるために必要な建築・増築は3回。2人の働く場所と、宿屋でちょうどいいだろう。
「何処で働くかは決めてくれ」
「俺は当然楽器工房だな。腕を振るわせてもらうぜ」
「やった!これで工具工房から撤回できる!」
ゲルマンの言葉にミンストレルが喜ぶ。まあ楽器の武器よりも工具の方が優先度高いと俺は思うぞ?この開拓地も音楽家のプレイヤーは俺とミンストレルしかいないけど、彫刻家は多いしな。
「リアは?ギルド員をしてみるか?」
「……そうですね。経験もありますし、このギルドを増築してもらえると。ヨハネスさん、よろしくお願いしますね」
決まりだ。俺は改めて2人に向き直り、こう告げた。
「ようこそ、第98開拓地へ」
この後、NPCとプレイヤー総出で、俺の土産話と忘れていたアバターイジリと歓迎会を行った。
やっぱり、大きなクエストの後はこうでなくちゃ、な。
第98開拓地
所属プレイヤー:19人。
所属NPC:7人。
Grimm Dreamers Online ~ネバーランドの知能達~ 中安 風真 @Ariadne-mass
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