第51話 香り届けど果実は遠く、それでもこの手に欲すれば
~Side ラートリア~
「リア!?おい!?」
「そ、そんなに揺らさなくて大丈夫ですから……」
天使様が肩を掴んで私を揺らします。正直疲れている中でこの動きはキツいのですが……
「何でだよ!?あ、あれか!?魔王を倒して未来が変わったから消えるとかそういうやつなのか!?」
「……ご存知だったんですね」
少し驚きました。天使様はそれを全く知らず魔王に挑んでいるのかと思っていました。
もしかして知っていて挑んだのなら、私は不要だったということなのでしょうか?
ちょっとした冗談と悪戯心と、少しの寂しさで尋ねてみようと口を開こうとしましたが、すぐに止めました。
天使様の頬を、1滴の雫が流れていたのです。
「……現象として、そういうのもあるって、アニメとかゲームで知ってた。でも、でもさ、普通やるかよこんなことをよ!?何でだよ、何で魔王倒して綺麗に大団円にしてくれねえんだよ運営はよぉ!?」
神界の言葉なのか、一部はわかりませんでしたが、それでも泣いてくれていることに安心しました。
「……どうか泣き止んでください天使様。私はこれで満足してるんです」
「消えるのにか!?」
「その結果故郷は救えたんですから、お釣りが来るじゃないですか」
……本当は、消えたくはないけれど。
それでも言葉自体は本心で。
「領を出て、旅の楽士として各地を放浪して、方々に迷惑をかけてこうして生きてきました。いつしか謝ることしかしていないような日々でしたが、天使様に会えて、3年間故郷で暮らせたんです。これ以上何を望めばいいのでしょうか」
いくつもの果実の匂いが合わさった、この香りが好きだったのです。心残りは、魔王のせいでそれが壊されてしまったことですが……
でもそれだってすぐに復活するでしょう。私の知っている皆さんは、元気で力があって、賑やかな方々ですから。
「ブライエンさん、いつも色々とありがとうございました。いつもゲルマンを夜遅くまで振り回して申し訳ありません。毎夜毎夜、ぶっきらぼうにしながら心配していたのは知っています」
「……やはり、ラートリアだったのだな」
「はい、このラートリア・ビネガー。未来から故郷を救うために参上しました」
続いてルシア様の方を見ます。
「ルシア様。未だ1年足らずの付き合いになりますが、最初よりも地を踏みしめられていると思います。これからもご自分の夢を追っていってください」
「……ええ、約束するわ。このルシア・オリーヴ、聖剣に恥じない騎士になってみせると」
「頑張ってくださいね」
次に、カッツェを見ます。
「たった1度のあの演奏会は、今でも私の宝物です。お仲間のことは私も知りませんでした。ごめんなさい、あなた1人に重荷を背負わせてしまって」
「いいにょにゃ。カッツェが話さにゃかったにょが悪いにょにゃ。きっと
「そうですか。お強いですね」
続いては、魔女様を。
「こんな形での挨拶を失礼します、シャルボート・カバラ様。私はラートリア・ビネガー、かつてあなたに助けられた子どもです。この度も、手を貸していただきありがとうございました」
「いいのよ?いつものことだわ?」
「それでもです。これでも一応、私は旅の目的地はカバラ侯爵領としていたのですよ?ついぞ辿り着くことは出来ませんでしたが、それぐらい私はあなたに感謝しています」
「そう?」
未だ目覚めないゲルマンを。
「いつもありがとうゲルマン。きっと私にたくさん不満があったと思う。それでも私に付き合ってくれて、ありがとう」
そして最後に──
「私の、天使様──」
「 だ ま れ 」
「…………」
「俺はまだ、リアが生き残れる道を諦めてない。お別れの言葉なんざ聞くつもりはない。ただ黙って待ってろ」
「……ですが」
もう私の腕は肘から先がなく、脚も膝から先がありません。時間はもう残されていないのです。
「まるで子どもの駄々ね?」
「何とでも言えよ。こんなシナリオ認めない。唯でさえ動物達が蘇生不可なのにリアまで消滅だと?どんなサディストだこれを書いたのは!?それとも俺が何か見落としたのが悪いとでも言うのかよ、そんな運営の都合の押しつけなんざ、絶対に認めないからな!」
「それでどうするのかしら?何も出来ないでしょう?」
「やってやるさ、俺には『堕落の種子』がある」
天使様が何やら、両手を閉じました。
「リアを生き残らせる技能が生えるまで、何度でも堕ちてやる。この世界から消えても構うものか、俺が本当に死ぬわけじゃないんだ!システムに抗うためなら──」
と、そこでピタリと天使様が止まります。
「──システム……?」
「天使様……?」
「なあ、シャル──」
次の瞬間、天使様は信じられないことを魔女様に尋ねました。
「リアを、魔女にすることは、可能か」
「な──」
「あ、あなた!何を言ってるの!?」
ブライエンさんとルシア様が目を剥きます。私も意外過ぎて2人のやり取りから目が離せません。
「まあ素質はあるわね?」
「俺が何をすればしてくれる?」
「待ちなさい!」
ルシア様が天使様の襟首を掴んで持ち上げます。
「本気なの!?」
「もちろん」
「ふざけないで!魔女になるぐらいなら──」
「死んだ方がマシだと?魔女と、ついでに堕天使が嫌われてるのは知ってるよ。それでもさ……答えろよルシア・オリーヴ、お前はリアに死ねと言えるのかよ」
「っ、それは……」
「ブライエンさん、あんたはどう思う?幼い頃から知ってる娘の末路が、これでいいと本気で思ってんのか?」
「…………」
ブライエンさんは難しい顔をしたまま何も喋りません。
「カッツェは?」
「にゃあ、生き
「この猫!」
「カッツェにょ元にょ主は魔女にゃ、別に忌避感はにゃいにょにゃ」
「私は反対よ!魔女なんて、あり得ない!今まで魔女達が何をしてきたか──あなたもよ!天使の地位を捨てて堕天使になるなんて!」
「お前にとやかく言われる筋合いはねえ。あと別に捨ててないし」
どうしましょう、口論になってしまいました。天使様には困ったものです。
でも、いいのでしょうか?私は、望んでも──
「……魔女様」
「なあに?」
「私からもお願いします。生きる道があるのなら、私はまだ生きていたいのです。生きて、天使様に恩を返したいのです」
「おい、恩返しなんていらないが?」
「返します、絶対に」
こればかりは天使様には譲れませんが、それは生き延びれたらの話。
果たして、魔女様は──
「……そうね?一度助けた娘が世界の都合で消えるのは癪よね?いいわ?」
「本当kがああああああああああああああ!?」
「天使様!?」
突然天使様が悶絶し始めました。
気が付けば、天使様の翼がもがれ、頭上の光輪もなくなっています。天使様の額から血が流れてきました。両腕も肘から先が消えています。
「堕天使の素材はないのよね?準神天使の分際で魔王の権能を弾けたのだから、楽しみだわ?」
「えっと……」
「蘇生より簡単ね?」
一体何をされるのでしょうか……少し身構えていると、魔女様のその言葉の直後、一瞬視界が歪んだような気がしました。
「もう終わったわ?」
「え?」
見てみれば、私の両腕と両足は元通りで、体も透けてはいません。
恐る恐ると2本の足で立ち上がります。
「た、立った、リアが立った!え、嘘でしょ、そんなあっさり!?てっきり、堕天使の体をもいだのだから、もっとこう──」
「絵本の読み過ぎね?」
「ちち、違うわよ!?」
ルシア様が顔を赤くして否定します。
結局ブライエンさんは終始何も言いませんでしたが、顔が少し緩んでいるのが、付き合いの長い私には分かりました。
「……?天使様?」
ふと、こういう時に真っ先に声をかけてきそうな天使様が静かなのに疑問を抱きました。
下を見れば、ちょうど天使様の体が消えていくところでした。
……え!?
「え、あの、天使様が──」
「平気よ?天使は殺しても死なないもの?」
「え、は、はあ」
魔女様が何事もないように言います。
ということは、天使様は無事なのでしょう。ほっと胸を撫で下ろしました。
「って、あー!あの
「約束を破ったの?酷い話ね?」
「あの、その話は結局有耶無耶になったものかと……」
「……そうだった?」
「はい」
「勘違いはよくないわ?」
「うるさいわね!?」
ああ、これが天使様の求めていた大団円なのですね。確かにこのためなら、何を置いてでも道を探すのでしょう。
納得していると、私の視界も白くなってきます。これは2周目でしたか?その時にもあった現象です。
「……どうやら私も時間のようですね」
「お別れなのね、リア」
「はい、ルシア様。その、反対を押し切って魔女になってしまいましたが──」
「いいのいいの。私も結局また勝手な想像で判断してたみたいだし、リアが生きてくれて嬉しいわ」
「ありがとうございます」
「また、会えるのかしら?」
「きっと」
「そう。その時はあの天使も連れてきなさいね」
「必ず。皆さんも、その、ありがとうございました。こちらの私にも、お父様とお母様にも、よろしくお願いします」
こうして、夢のようで激動であった、私の悪夢は終わったのでした。
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結末が確定しました。
3周目の総合評価:ベストエンド
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物語が1つ結末しました。
最終評価:ベストエンド
ユニーククエストが1つ解放されます。
『ブライエン・オールランド』が生存しています。ユニーククエストが1つ解放されます。
『ルシア・オリーヴ』が生存しています。ユニーククエストが1つ解放されます。
※ERROR!※
『第27番NPC』が生存しています。
上位権限により、生存は許可されました。
一部のユニーククエストを編集します。
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