第47話 魔王と魔猫
危なかった。HPはレッドゾーンというか残り僅かだが、それでも生きている。
それもこれも、クッションになってくれたこの生き物のお陰だが……
「えっと、カッツェーリラか?」
「それ以外にょ
陸に上がりながら、その生き物は答える。
喋り方はカッツェーリラだが、俺の知っている見た目とは大きく異なっている。
シャルが召喚した兎猫と姿はそっくりだ。ただしその大きさは、兎猫が頭よりも少し大きいぐらいだったのに対して、カッツェーリラは俺よりも少し大きいぐらい。
色だって、全体的に黒く耳だけ白いというものではなく、全体が黒いが所々に金色の輝きが見えるものとなっている。額の角は目映いばかりの金色だが。
「何してるんだ?」
「お客人を助けてるにょにゃ」
「そうじゃなくて、何でここにいるの?」
「にゃ~……」
カッツェーリラは黙りこくる。何か言いにくい理由なのか?のそのそと静かにワルザー川を渡る──あ。
「カッツェ回避!」
「にゃ!?」
「横に移動、急げ!」
「水にょ
と言いつつも、流れに乗って加速して動いてくれるカッツェ。その川上が陰り、魔王が落ちて巨大な水柱を上げる。俺たちは発生した大波に流された。
「ごぼごぼごぼ──ぷはぁ、
「魔王だよ──次、潜って岸の方へ急げ!」
「途端に慌ただしいにょにゃあああああああ!」
俺はカッツェの角に掴まり、カッツェが潜る。同時に頭上を、紫色のブレスが広範囲を埋め尽くした。水中で髪が大きく広がる中、ゾワゾワとした感覚が頭頂を刺激する。
何とか無事に陸へと上がれた俺たちは、睨み付けてくる魔王と対面した。
「イーゼル……ハンス……ゲルマン……ハンドはにゃんだかイメチェンしたにゃぁにぇ」
「ツッコミ入れる余裕があるのかよ」
細かくは知らないが、ワルザー川はそれなりに深さがあったと思う。その水底に立って尚、魔王の体は胸筋のあたりまでしか水面で隠せていなかった。
「他の皆は……さすがにまだか」
少し振り返って森の方を見ても人の気配は感じず。合流するには時間が必要だろう。
「やるしかないか……カッツェはどうする?」
「にゃ?」
「偶々いただけなら逃げろ。俺は今からあれ相手にタイマンかますんでな」
「
あ、そうか。ソールラムスとタイマンしたのは2周目だから知らないのか。
「まあ見てろって」
「1人は無理にゃぁよ。カッツェもやるにゃ」
「いいのか?」
「そにょために……そにょためにカッツェはここにいるにょにゃ」
カッツェーリラはまるで、刺し違えてでもという覚悟を感じる声音で告げた。
「あれはカッツェにょせいにゃ。カッツェにょ我が儘が
「……その辺りの事情は知らんけど、わかった。手伝ってくれ」
俺はカッツェの前に立つ。すると視界左上にイエローゲージのHPバーが追加される。
あれか、イエローゲージなのは、さっき俺を受け止めたからか。
さて、どうするか。そう考えていた時だった。
「違うにゃよ」
俺の隣にカッツェは歩いてきて、更に前に出た。
「手伝うにょはお客人。やるにょは、カッツェーリラにゃ!」
カッツェーリラが高らかに宣言すると同時に、ワルザー川の水位が上昇する。否、まるで触手のような形と動きをする水が幾十本もワルザー川から射出され、魔王の動きを封じた。
『『『!?』』』
「お客人、ルブランベリーがそにょ辺りに落ちてるにゃ。拾って魔王に投げるにゃ」
「?どういうことだ?」
「魔王は迷宮種にょ魔素で作られてるにょにゃ。だからマモ
「え、マモノと魔王って別物なの?」
「当たり前にょことを話す余裕はにゃいにょにゃ」
そう言われましても……仕方ない、探してこよう。
ただし時間をかけていいわけでもないだろう。2周目で息切れをしていたカッツェの姿が過る。パッと見つけたものだけ投げるか。
いくつか拾って俺は駆け足で戦線に復帰する。触手の数が明らかに減っている。やはり時間はなさそうだ。
俺が近付くと、魔王が強引に俺に近寄ってくる。縛っているカッツェではなくて俺か。思い付く原因は、あれか。
────────────────
【状態異常:猟犬の執念】
敵から徹底的に狙われる状態。
ヘイト上昇(極大)、ヘイト上昇幅増加(極大)、ヘイト減少幅低下(極大)。
この状態異常は、付与されている者が死亡すると、他のヘイトが最も高い者へ移動する。
────────────────
ですよねー。絶対俺殺す魔王状態ってか。
っと、触手がそろそろ2桁切りそうだ、急いで投げよう。
魔王がいるのはワルザー川の真ん中からそこそここちら寄りの位置。ワルザー川はまるで海か湖かと思うくらい幅の広い川なので、遠いには遠いが、全力で投げれば届かない程ではなさそうだ。
ぶつけるだけで効果があるのか?口の中を狙うべきか?よし、狙おう。
俺は距離を測りながら、思い切りに投げる。案の定殆どはダメだったが、ミスなく当てることはできたし、いくつかは口に入った。
『『『■■■!? ■■!?■■■■■■■■■■■■!!! ■■■■!!!』』』
その瞬間、魔王が暴れだす。触手はあっという間に全て千切れたが、俺を襲う余裕がないのか水面を何度も叩いている。その度に大波が発生して俺を殺しにくるので慌てて森へと逃げて木に登る。
すると魔王が破れかぶれにブレスを3つの口から交互に吐いてくる。木々を飛び移りながら避けるが、攻撃の緩急に体が悲鳴を上げる。
なお、カッツェは森へと無抵抗に流されていった。
数分のブレス攻撃が終わると、疲れてきたのか、魔王はぐったりと川に沈む。これは攻撃のチャンスか?チャンスだよな?今にも倒れそうな木から飛び降りて、魔王に走り寄る。
まあ俺1人ではカスダメなんだが──そう考えているとタイミング良く
「にゃああああああああああああ」
カッツェの悲鳴が……悲鳴?
勢いよく振り返る。まさか魔王の攻撃か?挟み撃ち?警戒するが──
「待ってください!その猫はカッツェーリラです!」
「そうにゃそうにゃ!いきにゃり攻撃は酷いにょにゃブライエン!」
「……そうか」
「お、追い付きました……どうしてブライエン様、リアを抱えて私よりも速いんです……どういう状況?」
……うん、不幸なすれ違いがあったようだ。
「お疲れのところ悪いけど、攻撃開始」
「これは……そうか」
理解が速い。リアを子どものように腕に乗せていたブライエンは、リアを下ろすと聖剣を構えて、巨大な炎の玉の攻撃を加えていく。高熱と川の水が水蒸気爆発を引き起こし、魔王に確実なダメージを与えていく。
ルシアも負けじと氷柱の群れを撃ち込んでいく。
こんなものか。何度か山場はあったが、存外呆気なかった気がする。
ただこれで、このユニーククエストは終わりだ。俺は森の方を見て、右手を高く挙げる。
これはシャルと決めていた合図。これからシャルは蘇生の準備に専念する。準備に10分、10分以内に行使、倒して5分以内。
だからまあ、今から最低5分かけて倒せば問題なしだ。
俺からは前と後で違いが分からないけど、きっとやってくれるだろう。
俺は、完全に気を抜いていた。
ソレは怒り狂っていた。
ただでさえ不十分な目覚め。その上に己を魔王たらしめる権能を封じられた挙句、己には毒のマモノの魔素と、忌々しいもう1つの魔素が雁字搦めに縛り付けてくる。
何よりも、あの天使。徹頭徹尾、己を狩りの対象としてしか見ていなかった。それが何よりも腹が立つ。
ふざけるな、獲物はお前達だ。捕食者はこちらだ。怒れど狂えど力が入らず、絶望の象徴たるソレは絶望を知った。
──────ふと、気が付く。己の権能が、解放されている。
ソレは歓喜した。何があったか知らないが、これで、これで──
あの忌々しい天使を、殺せる。
殺してやる、殺してやる、殺してやる、殺してやる──
飢えを上回る殺意によって、ソレは覚醒する──
────────────────
〘魔王権能〙【暴食領域Ⅰ】の使用が申請されました。
※ERROR!※
〘魔王権能〙は難易度調整システムの範囲外です。
申請を却下します。
上位権限により申請が許可されました。
〘魔王権能〙【暴食領域Ⅰ】を発動します。
────────────────
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